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落ち葉、集めました。(Maya)

小雨の降る晩秋、
立ち込める金木犀の香りに自然と鼻腔が開き、
周囲に人のないのを良いことに胸いっぱい甘い香りを吸い込んでみた。

自然の香りの良いことを、
私は子供の頃そんなに知らなかった。
母は華道を嗜んでいたし、父も田舎暮らしの長い人だ。
父から蛍のいる場所を教えてもらった記憶も懐かしい。

けれどもそこに香りというと、
おや。
と困ってしまう。

子供時代に自らの瑞々しく柔らかい感受性を
発することに蓋をしてしまったのかもしれない。

私自身を心地の良い状態に
自分でなること。

これは私の生涯の課題である。

10/18


私が海の青さを見ていた時、

あなたは夜の暗さを見ていた。


片方だけのピアス

左耳にある筈の、あの頬の側で揺れる重みがない。

恐る恐る指先で耳たぶを触ると

空いた穴の感触がすんと鼻を通り抜ける。

雑巾を絞るみたいに心臓が痛むのに、

残された耳の

ゆらゆら揺れるお気に入りの結晶が

光りだけを

私の今日に与える。

笑えと。


君が知った私のかけらが

わずかでも輝いてくれたら嬉しい。

どちらにせよ、ほんの一部過ぎない。

深海の谷底のような場所で見つけたのだとしても、

私はもっと何処かにいる。

11/20



ぼんやり地面を照らす楕円形の膜を被った電灯が、数珠つなぎになった寒い夜の道を歩きながら、ふと、私の吐いた息は何処に行ってしまうのかと思う。

車道と歩道の隙間を見てみたり、電信柱の太さと植え込みの幅を比べたりしながら、私の息は、と思う。

隙間や木の後ろ、葉っぱの裏に、見えないけど恐ろしく大切なものが隠れている気がして、見えない空間や影の気持ちに(あるとして)一方的に片思いしているみたいだった。

子供の頃の私なら、膝を付いて隙間を覗き込んだだろう。木を抱きしめたし、葉っぱにくっついた虫に悲鳴をあげた思う。


そうして思いっきり、誰かが吐いた息を吸ったんだ。

誰かが吐いたことすら忘れた息を吸いながら、ぼんやり輪郭のない夜を歩いた。


11/21

深く深く癒される為に

大きな傷口があるの


走る雲が空を切り裂き

木が山を踏み潰す

人は真っ二つに割れて

土は海に沈む


歩く度に目的地から遠ざかる

白に手を伸ばして黒に触る

熱い氷の台風


高い高い所に触れたくて

僕は船を出航した

負けんなよ

高い高い所に触れたくて

私は船を出航した

負けてもいいよ

高い高い所に触れたくて

私は船を出航した


11/25