(クッキーとレモンティ)[1,]
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◎クッキーとレモンティ
◇山岸凉子 先生
◇集英社
◇(雑誌)りぼんコミック1970年5月号
◆ここはアメリカ、ニュージャージー州。タリータウンの道路を車で走っていた「クッキー」(ケネス)はヒッチハイクをしていた女の子を乗せる。彼女は「レモン・ティ」と名乗り自由なアメリカに憧れてイギリスからやって来たという。おてんば娘のレモンには秘密があるようで……
{◎題名だけ知って、どんな話か気になってました。コミックス未収録で国会図書館より資料を取り寄せて読みました。「正体はお姫様」という『ローマの休日』風ですが、ほろ苦さはなくハッピーエンド。ちなみに…レモンには英語で「外見が残念な女の子…」という意味があるそうで…}
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【……アルバイトを探していたレモンに、ある屋敷のメイドの仕事を紹介するが、そこはクッキーの自宅。彼はタリータウンでトップクラスの富裕層の息子だった◆翌日、スプリングトン高校に編入するレモン。クッキーは3年なので1年生「ベル嬢」を紹介してレモンのお世話を頼む。彼女もタリータウンの資産家令嬢で学校いち美人、同じ資産家のクッキーとは婚約者らしい…性格はちょっとイジワル。クッキーとの仲に嫉妬してレモンがメイドの仕事をしてるのを小バカにしたり、乗馬の際にレモンの近くを走ってわざとムチが当たるようにしたりする。しかしベルの馬が暴れ出したのを、なだめたみせたレモンにクッキーは「君は乗馬を知ってるの?」とたずねるがレモンは田舎で馬を飼っていたの…と言うだけなのだった…◆最初は、おてんば娘のレモンに興味はなかったクッキーだが、自分の所属するラグビー部の応援をしてくれたり、ベルにも話した事がない「好物のドーナツ」を作ってくれた彼女に惹かれていく…それを見たベルは自分の作ったケーキを食べてくれなかったクッキーを怒るのだった…◆一方、英国から王子がアメリカを訪問していた。ベルの屋敷でパーティを開くことになりクッキーも出席するが、なぜかベルはレモンも招待する。ケーキを食べてくれなかったクッキーに仕返しをしようと、上流社会に疎いレモンをパーティに放り込んで恥をかかせようとする。しかしベルの思惑は見事に外れる。レモンはテーブルマナーも社交ダンスも完璧にこなす。クッキーはレモンに「君は何者なの?」と聞くがレモンは答えられない…その態度が自分への気持ちだと誤解したクッキーはレモンと気まずくなってしまう◆翌日、レモンたちの高校に突然王子が訪問してくる。ダンスでレモンを見かけた王子はレモンを見ると「見つけましたよ、花嫁候補…!」と言い出し皆、おどろく…!実は…レモンはイギリス王室の「ビクトリア姫」で王位継承権の持ち主でもあった。レモンは幼い頃、両親を亡くして伯父夫婦に育てられたが、王室とつながりのある「継承権」を借金の担保に利用され厳しい教育を受けてきた…そんな環境に耐えきれずアメリカへ逃げてきたのだった。レモンは継承権があると言っても38番目で婚約すらしていないと言う。クッキーに自分をイギリスへ戻さないよう王子と話をして欲しいとお願いするレモン。しかし向こうは王室の人間、片や自分は町の資産家の息子であることに怖気づいたクッキーは何も言えなくなってしまう…◆帰国の日。やはりレモンを忘れられないクッキーは空港へ向かうが飛行機はすでに離陸した後だった。後悔しながら帰る途中、ヒッチハイクをする女性を見つける。それはレモンだった…!お互いの気持ちに正直になり2人は両思いに…翌日。朝刊にはタラップを飛び降りて飛行機から逃げ出すビクトリア姫の姿が報じられたのでした…☆(おわり)】
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{◎山岸凉子先生は『天人唐草』がすごくショックで…あの作品のイメージしかなかったので、デビュー当初はこんなキュート♡な話も書いていたのだなぁ…とイメージがまた変わりました◆この「レモン」という名のせいで皆が勘違いしてるところが面白いです(クッキーは外見がベリーショートで男の子と勘違いし、屋敷の旦那さんはお風呂に入れられたと聞いたら「冷蔵庫に入れておくべきだよ」と言い、ベルはホームランボールから庇うためレモンに突き飛ばされるが、茂みに頭から突っ込み怒って「レモンティー!」と叫ぶ。しかし周りからは「お茶を飲みたいの…?」とたずねられるのだった…)◆ラグビー部の試合をみんなを巻き込み応援したり、密かな好物「ドーナツ」を作ってあげたりと、実は気配り上手。レモンがドーナツを食べたクッキーに対し紅茶ではなく水を差し出し、それを笑ったクッキーが「僕らの名前はドーナツとウォーターに変えよう」「クッキーとレモンティなんて贅沢よ。さんせ〜い!」と会話をするところが2人の仲の良さが伝わってきて良いです◆学校いち美女のタカビーで、ちょっといじわるなお嬢様「ベル」に対し、媚びず妬まず堂々として暴れ出した馬をなだめてみせるカッコイイ一面も。ベルが舞踏会で恥をかかせようとしますが…レモンは裾長ドレスを優雅に着こなし、テーブルマナーも、ダンスも完璧にこなしてみせます。しかし…打ち明けてくれないレモンの、そのよそよそしさがクッキーを傷つけ2人は気まずくなって…もどかしい…◆レモンをすっかり気に入った王子が彼女の正体と花嫁候補ある事を明かしてしまい、クッキーたちと一気に立場が逆転する場面はレモンの自由な生活が終わりを告げた切ない場面です…◆妃となる方が幸せに暮らせると、クッキーは自分とレモンの立場の違いに怖気づいて別れを告げてしまう…しかしいざ、いなくなると忘れられない。空港まで行き連れ戻そうとするが飛び立った後…手遅れかと思いきや、お転婆ぶりを発揮して王子の元から逃げ出すところはレモンらしいな、と思いました。想いは通じ合って今度こそ両思いに…☆それにしても強制的とはいえ、お后教育をこなしてきたレモンって、おとなしいだけじゃないバイタリティあふれる器用なお嬢さんだなぁ…と思いました}
***[2024‐r6]