覚醒編ヒストリー ~その時、デュエマが壊れた~ 後編
筆者の覚醒編に対する(負の)思い入れが強いため、該当時期のデュエマが好きな人はこの記事を見ないほうがいいです。前編はこちら。
2010年12月 殿堂発表+覚醒編第三弾発売
デュエマ史上最大規模の殿堂発表
超次元ばかりが強い環境になっていく中で、大規模な新殿堂カードが発表された。
殿堂入り8枚にプレミアム殿堂2枚の計10枚。この数字は過去最大の枚数であり、これより後も2022年3月現在に至るまで、1度に10枚以上を対象とした規制は実施されていない。現代より殿堂入り枚数が抑えられやすい時代において、この枚数は尋常な量ではなかった。
トップメタの【M・ロマノフ】、トーナメント向けではないにしろクソゲーを生み出していた【超次元ダーツ】、同じく超次元呪文でバグった【次元転生】は本体が殿堂入り。
その他、トップメタとは言い難い【シノビドルゲ】、【Bロマ】、【ハイドロ】、【ヘヴィ・メタル】系もキーカードが殿堂入りに指定され、事実上構築不可能になった。
こうして、環境内外のデッキほぼすべてが壊滅状態に陥った……【超次元コントロール】を除いて。
この殿堂発表を受けても、以前より最強とされていた【ドロマー超次元】の立場は揺るがなかった。
《アクアン》《サイブレ》のプレミアム殿堂はこのデッキの弱体化を狙ったものだと思われるが、以前より1枚しか積めず「引ければ上振れ」程度のものだったし、《サイブレ》は覚醒編の高速化でやや評価を落としていた。代わりに積む《エナジー・ライト》はカードパワーの面では両者に大きく劣るものの、《アヴァラルド》や《ドラヴィタ・ホール》との相性を考えるとこちらでも十分に機能する。
《ハヤブサ》の殿堂入りもあったが、元々普通のコントロールデッキには2枚程度しか入らないカード。何より、他のメタデッキのほとんどが最重要カードが規制されているのに対して、こちらのデッキパワーの根幹である超次元呪文は全くの無傷だった。
DMwikiには「環境の変遷」というページがある。ページ内の記述は割とツッコミどころが多いし、内容も定期的に変わっているようだが、一番下の「当時の主流デッキ」という項目に限れば(筆者の記憶が間違いでなければ)昔からほぼ変わっていないので、当時の実感が概ね反映されていると思われる。
戦国編~神化編の頃はこのラインナップだった。
これ環境レベルじゃないだろとかこれ分ける意味ある?とか突っ込みたくなるポイントはそこそこあるが、それだけ多様なデッキに人権があると考えられていた時代だったということなのだろう。
一方で覚醒編環境のページになるとこうなる。
【青黒速攻】なんかを入れても良いとは思うけど、概ねこんなもの。えらくすっきりしてしまった。
何故これほど極端に「強いデッキ」の種類が減ってしまったのかといえば、勿論サイキックの超インフレによってエンジン・フィニッシャーが超次元に置き替えられ、デッキ選択の余地が一切なくなったという部分が大きいのだが、殿堂入りの影響もまた大きかった。神化編までの殿堂入りは構築の再考を求めるもの・他のデッキにチャンスを与えるものが多かったため、殿堂入りのたびに環境内の力関係が激変していたのに対して、今回の殿堂入りは規模の大きさもさることながら、その方向性は「プレイヤーの選択肢を潰すもの」だったのだ。
超次元と相性が良すぎるから《ダーツ》は駄目。《Mロマ》も《転プロ》も駄目。まあこれは仕方ないだろう。
しかし、超次元を使わない【Bロマ】は駄目。【ヘヴィ・メタル】も駄目。【ハイドロ】も、【シノビドルゲ】も駄目。tier2以降の超次元に依存しないデッキが大きな被害を受けた。
トップメタの【超次元コントロール】は殿堂入り後もあまり形を変えずに使用できるのに、それに力の劣るデッキ郡はコンセプトから否定されてしまった。
競技に全振りしたプレイヤーはデッキ選択の幅が狭まろうが気に留めないし、カジュアルプレイしか眼中にないプレイヤーには殿堂の影響は薄い。だが多くのTCGにおけるボリュームゾーンは「遊ぶことを主目的とするが、決して負けたい訳ではなく、やるからには勝ちに行く」ような、ガチ・カジュアルどちらも程々に嗜む中間層であり、今回の新殿堂はその層全域を焼き払った。ユーザー離れはより深刻なものになっていく。
《GENJI・XX》登場
その後、覚醒編第三弾発売。
今弾でも凄まじいカードパワーのサイキック・クリーチャーが登場する。と思いきや、《ヤヌス》以外は全体的に控えめな性能になった。
開発陣も流石に《チャクラ》のおかしさを問題視したのか、大型サイキックは専用構築型の性能になり、それまでのホイルサイキック・クリーチャーには判で押したように搭載されていた解除が付かなくなった。
小型サイキックはというと、5コストホール呪文の性能が大変なことになってしまっていたため、そちらでばらまく使い方が出来るようなものは増えず、新規超次元呪文も高コストな上に文明指定で大型を一体呼ぶのみの、用途が限定されたものだけだった。
この弾で最も鮮烈だったのは《爆竜 GENJI・XX》の性能である。
コスト6・パワー7000のスピードアタッカー・Wブレイカー。これだけで過去のSAクリーチャーよりも一回り高性能だが、それに加えてブロッカー破壊効果まで付いている。
ブロッカー破壊は単に突破力が高いだけでなく、覚醒した《グレート・チャクラ》をAT+バトルで一発で超次元ゾーンに返せることができ、【超次元コントロール】に対して強烈に刺さる。どう見てもビート向けのカードであるにもかかわらず、高いカードパワーと《チャクラ》メタになることから【5C】や【ボルコン】などのコントロールデッキにも当たり前のように投入された。
久々に登場した、【マルコビート】のような超次元ゾーンに依存しない中速ビートダウンを大きく強化してくれるカードであり、同時にひたすら超次元呪文を叩きつけるゲームと化していたデュエルマスターズを刷新してくれる性能であったため、界隈は湧いた。
まあ、それはただの幻想で、結局は超次元呪文と《GENJI》を併用して攻めるのがこの時期のビートダウンの結論となってしまうのだが……
結果、【ドロマー超次元】と【Mロマノフ】の2強だったものが、殿堂入りと新弾発売で【ドロマー超次元】【超次元GENJI】の2強へと入れ替わり、【Mロマ】の殿堂によってやや環境が後ろに寄り相対的な評価の上がった【黒緑速攻】【メルゲ速攻】が続く格好になった。
2011年1月 ドラマティック・ウォーズ発売
【不滅オロチ】成立
WHFでの先行発売が決定した《時空の不滅ギャラクシー》の情報が出回ると、ネット民は大騒ぎした。それはもはや炎上に近いものだったとも思う。何せ、先の殿堂で超次元ゾーンのせいでバグったカードを巻き添えのような形でまとめて殿堂送りにしたのに、更なるバグが生まれたのだから。
恐らく《チャクラ》の二の舞にならぬよう覚醒条件を受動的なものにし、直前に《転プロ》を規制したためいけると踏んだのだろう。だが、これには致命的な見落としがあった。それこそが【不滅オロチ】のキーカード《斬隠オロチ》の存在だった。
元々、超次元ゾーンの登場でデッキ内のクリーチャーの種類を大型に絞っても機能するようになっており、それが【超次元転生】成立に繋がっていたのだが、そのノウハウがそのまま使えてしまう。しかも、あちらは「転生元が《ローズ・キャッスル》で溶ける」・「一度の《転プロ》で自身の山札が大きく削られてしまう」などをはじめ、コンボデッキ特有の脆さがネックでトーナメントデッキに昇華できていなかったが、それらが解消されてずっと実戦的になって帰ってきた。
《ドラヴィタ・ホール》で呪文を回収しつつ《時空の不滅ギャラクシー》を立て、次の自ターンまたはNSで《オロチ》を召喚。すると山札からクリーチャーが1体登場することに加えて《不滅》が覚醒、盤面全体をブロッカー化する。踏み倒す対象は成立初期なら《アイアンズ》+《デル・フィン》+《ギャラクシー》+《ザールベルグ》のような組み合わせが多かっただろうか。
《時空の不滅》さえ立ててしまえば後は相手の攻撃に合わせてNSするだけでブロッカーを複数体並べてビートダウンを沈黙させられる。登場直後から一気にTier1に上り詰めていた【超次元GENJIビート】はあっという間に失速した。
《キリコ》を彷彿とさせるようなバグムーブ。「また超次元のせいでゲームが壊れた」と、すこぶる評判が悪いデッキだった。
更に、このカードは別の大きな問題点を抱えていた。
WHF先行販売は1月中旬・一般販売は2月中旬のスケジュールになっていたのだが、この年の公式大会の店舗予選(所謂権利戦)も1月中旬~2月中旬までの4週間となっていたのだ。
即ちこれは、入手手段がごく限られているトップメタデッキが公式大会の開催期間内に使用可能ということ。
「【不滅オロチ】が権利戦にいたらどうしよう」
全国のプレイヤーは頭を悩ませた。時期が進むほど、都心部になるほど遭遇率は高くなり、見えない【不滅オロチ】の影に怯えることになる。
当時の権利獲得報告を見ても、その動向は明らかだ。
サイキックマスターデッキ分布・第4週まで(最終)
1週目には6%程度しかなかった占有率が、週を重ねるごとに上昇し、4週目には通算18%にまで達している。4週目のみで見た場合、【不滅オロチ】の占有率は26%を占め、これは同週最多の【ドロマー超次元】に匹敵する。
この変化の要因が《時空の不滅》の流通速度であることは明白だった(時間経過により構築が洗練された影響も無いわけではないだろう)。
誰もがtier1だとわかっていながらゲームとは全く関係の無い面のせいで一部の人間しか握れない、資産ゲーと同じような性質を持っており、大いにプレイヤーからのヘイトを集めた。
2011年2月 エリア代表戦開催
ブロック限定構築戦になったエリア代表戦
店舗予選を勝ち抜いたプレイヤーからエリア代表を選出する地区大会が開催された。が、大会のレギュレーションは不死鳥編以来のブロック限定構築だった。
このレギュレーション発表に、やはりネットは荒れた。スタン落ちへの抵抗感は、当時はもちろん今もなお根強いものがある。
不死鳥編のときにもスタン落ちの噂は立っていたし、覚醒編に入ってからの"超次元ゾーンによるスタン落ち"・"殿堂入りによるスタン落ち"を目の当たりにしていた。
そしてここにきてのブロック構築戦。脳裏に「スタン落ちの本格導入」の文字がよぎるのは当然であり、反発が出るのもやむを得ないことであった。
《ガンヴィート》《ガード・ホール》登場
この時期から、DRで配布される「全制覇挑戦パック」で《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》《超次元ガード・ホール》が先行登場した。
これも上の《時空の不滅》と同様に、入手方法が限られていたカードをエリア代表戦で使えることが原因でプチ炎上していたりしたのだが、長くなるのでそれは割愛する(このシリーズいつも炎上してんな)。
この《ガンヴィート》の性能もまた、それまでのサイキック・クリーチャーのそれとは一線を画していた。
サイキック・クリーチャーとしては初のcip効果持ち。しかも、相手のタップクリーチャーを1体破壊という、直接的にボード・アドバンテージを獲得する効果だ。
これ以前に登場していたサイキック・クリーチャーのうち、特に強力なものは、《チャクラ》や《ディアス》のように相手に除去を強要するものや《タッチャブル》《ギャラクシー》のように除去耐性を持ったものがほとんどで、あくまで「ホール呪文で直接アドバンテージを取り、プラスでサイキック・クリーチャーが付いてくる」というデザインになっていた。超次元ゾーンで常に複数の選択肢を用意できることを考えれば、サイキック・クリーチャーを即座にアドバンテージを稼げるデザインにするのは危険なことは誰の目から見ても明らかであり、理にかなっている。
しかし、《ガンヴィート》はそのラインをゆうゆうと踏み越えていた。タップしているクリーチャーを破壊するという効果自体は《ファンタズム・クラッチ》と同等。そちらはコントロール相手には紙切れになりやすく、しばらく先になるまで採用率の高くないカードであったが、ハンドにキープする必要のないサイキック・クリーチャーなら話は変わってくる。対面によって腐りやすい効果を用意しておくのに、超次元ゾーンほど適した領域はない。
同時に登場した《ガード・ホール》から《ガンヴィート》を呼べば《グレート・チャクラ》を一発解体できるため、恐らくは《GENJI》と同様に《チャクラ》殺しのカードとしてデザインされたものだと思われるが、それ以上に《GENJI》をはじめとしたビートダウンへの被害は甚大なものであった。
また、既に《ディアス》《スヴァ》《ランブル》と充実した呼び出し先を持っていた《ミカド・ホール》の選択肢が増えたのも問題だった。《ミカド》から《ガンヴィート》を呼び出す動きは、ビート相手にたった5マナで2面処理を行えるという高出力。それが《ミカド》の選択肢に加わったことで、【超次元GENJI】の環境内の立ち位置は大幅に悪化した。
この「ミカドガンヴィ」の単純かつ強力な動きはこの後も長い間使われ続けることになる。
覚醒条件の「相手ターン終了時に相手の手札が0枚なら覚醒」は飾りではなく、ハンデスで手札を枯らしてから《ラススト》予約することでロックをかけることができるようになるため【青黒ハンデス】などでは疑似《キング》と言われたりもするのだが、今回は省略。
2011年3月 覚醒編第四弾発売
《デビル・ディアボロス Z》《ラスト・ストームXX》登場
最凶の覚醒者である《デビル・ディアボロス Z》と、絶対的フィニッシャー《ラスト・ストーム XX》が登場した。
まず、《ディアボロス Z》の性能を簡単に書いておこう。
主に6コストの《バイス・ホール》か7コストの《ガード・ホール》で呼び出されるパワー9000のブロッカーで、《GENJI》や《サーファー》のような相手クリーチャーの効果では選ばれず、ターンの初めにバトルゾーンとマナゾーンから計3枚を山に送って覚醒する。覚醒後はパワー23000のQブレイカーになり、ATで相手のクリーチャーを5文明分まで選んで破壊できる解除持ち、後述の《ラスト・ストーム》に1枚で進化可能。
覚醒条件が緩く、特に下準備せずとも翌ターンに覚醒も可能な上に、覚醒後は解除を持っている。その組み合わせの強さは《チャクラ》が既に証明していたが、何とこのカードは覚醒前も除去耐性を有している。呪文でなら除去できるが、《バイス・ホール》で呼び出せば呪文をピーピングハンデスできるため、その点すらカバーできる。《チャクラ》の反省は一切生かされていない。
なぜ選ばれない効果を付けたのか。
もしも除去耐性がなかったならば、返しの《GENJI・XX》で沈められるし、覚醒後に殴られても《ガドホ》+《ガンヴィ》で一発退場させられる。即ち《チャクラ》メタのカードがそのまま通用するため、それを防ぐ意図があったのかもしれない。そうであれば、《チャクラ》をインフレで抑え込む方針は、更なるインフレを招く悪循環だったとしか言いようがない。
一方の《ラスト・ストーム XX》は、自陣のサイキック・クリーチャーの合計コストが20以上になったときにそれらを進化元にして(ホール呪文無しで)踏み倒せる進化サイキックで、表面はQブレイカーを持ち、次ターン初めに無条件で覚醒できる。覚醒後は選ばれないワールド・ブレイカー、ATでコスト10以下のサイキック・クリーチャーを好きなだけ踏み倒し可能。既存のサイキック・クリーチャーを組み合わせればほとんどのトリガーをケアしつつそのまま直接攻撃を通せるので、このカードは覚醒すれば概ね勝つと書いてある。
1ターンの間に除去できなければゲームエンド。
旧来の【除去コントロール】で使われていた《ボルメテウス》系や《デル・フィン》のような詰めに使うタイプのフィニッシャーは、重くて盤面に干渉できないためデッキスロットを割きにくく、フィニッシュ時に都合良く引き込めないリスクもあったが、《ラスト・ストーム》は超次元ゾーンに用意しておける上に、サイキック・クリーチャーを並べていれば自然に呼び出せる条件が整うため、【超次元コントロール】と相性抜群である。
この2枚と《ガンヴィート》《ガード・ホール》の性能を見て察した人もいると思うが、39弾は新たなメタデッキは生まれず、トップメタの【超次元コントロール】がただただ強化されるという弾であった。
元々強かった【ドロマー超次元】の出力は引き上げられ、《ディアボロス Z》を出せる《バイス・ホール》《ガード・ホール》は6~7と重いため、【ネクラ超次元】や【赤抜き4C超次元】のような緑入りの【超次元コントロール】の使用率が大幅に向上した。
加速度的なインフレの果てに
この年の日本一決定戦は震災の影響で7月にずれ込み、それまでの間にメタデッキの淘汰が始まった。
いくつものビートメタに加えて《ディアボロス Z》が登場したことにより、ついこの間まで高いデッキパワーでトップメタに君臨していた【超次元GENJI】は既にメタゲームから姿を消しており、キルターンの速い【黒緑速攻】や超次元呪文にガンメタを貼った【青黒速攻】【ホーガン】がより幅を効かせるようになった。
【黒緑速攻】に耐性のある【ドロマー超次元】は再度シェアを伸ばし始め、初動ブーストを軽量ハンデスで切り返す動きで緑入りの【超次元コントロール】を駆逐していく。中速ビートダウンデッキが死んだことや、闇ホールは《ディアボロス Z》を呼び出せる《バイス》が優先されるようになったこと、《ストームXX》の登場で超次元ゾーンが圧迫され闇のサイキックを多く確保できなくなったことなどの影響で【ドロマー】から《ミカド》《ガンヴィ》のパッケージが抜けていった。
中速ビートに対する強さが売りの一つだった【不滅オロチ】は、黒と《ディアボロス Z》を投入しコントロールに強い形にシフト、デッキとして完成形に到達したものの、環境内の立ち位置が悪化しトップからは一歩引く形となる。
環境内のビートダウンへのガードが下がったところで、一時は死んだと思われていた【Mロマ】は《ディアボロス Z》獲得による強化もあり環境に舞い戻ってきた。このデッキは超次元呪文軸のデッキとしては珍しく《ゴーゴン》がそれほど刺さらないため、そちらに妨害を依存したデッキに非常に有利に戦えた。
この時期の環境の推移はこちらによくまとまっている。
そうして迎えた日本一決定戦は、オープンクラスは【ドロマー超次元】が1・2位を独占し、レギュラークラスは【Mロマ】が優勝を果たした。
その直後に新たな殿堂カードが大量に発表された。1月ほどではないにしろ、当時としてはかなり枚数が多い方。選ばれたものも、謎殿堂枠はなく必然性の高いものばかりだった。
ここに来てようやく【超次元コントロール】に本格的なメスが入ることになった。莫大なアドバンテージを稼ぐカードと化していた《ドラヴィタ・ホール》《アヴァラルド》、緑無しで3→5のマナカーブを成立させつつ攻守に色合わせにと八面六臂の活躍を見せた《ミル・アーマ》が殿堂入りし、白を入れるメリットは大いに薄れた。
そして、《バイス》+《ディアボロス Z》が39弾発売からたった3ヶ月で禁止化を発表された事実からは、公式側が明確なデザインミスであったことを認めたと判断してしまって良いだろう。
また【不滅オロチ】はデッキごと消滅、【黒緑速攻】は初めて殿堂入りによる弱体化を受けた。
この殿堂発表の後、デュエル・マスターズはエピソードシリーズへ移行。
主人公は勝舞から勝太に変更、カードのフォーマットも一新、その他失われてしまったプレイヤー人口の再獲得のため色々な方策が取られることになる。
タブーを犯し続けた覚醒編のカードデザイン
コミュニケーション理論による評価
デュエル・マスターズの祖とも言えるMtG、そのデザイン・チームの総責任者を務めるMark Rosewater(通称:マロー)という人物がいる。
彼は以前、TCGのデザインの枠に留まらないあらゆるメディアの基礎となる普遍的な考え方として、人間の本性に根ざした「コミュニケーション理論」を提唱した。
曰く、ユーザーを定着させるためには「安心」「驚き」「完成」という3つの構造を備えている必要があるという。それぞれの詳細な考え方はリンク先の記事内で解説されているが、ざっくりいうと
安心 - 新しいセットでも以前と同じTCGだと感じられる、定型化された継続的な要素
驚き - 上記の安心を達成した上で、その中にユーザーを興奮させるような新要素を盛り込む
完成 - セット・ブロック内で一定のパターン(TCGで分かりやすい例はサイクル)が完了している
の3つが必要である、ということらしい。
これに当てはめて考えた場合、覚醒編はどうだったのだろうか?
まず、「安心」が出来ないことは誰の目にも明らかだった。1年の間で幾重にも押し付けられた事実上のスタン落ち、既存カードプール・ユーザーの切り捨て。歴代で一番安心から遠いシリーズだったと言えるかもしれない。
次に、「驚き」に関しては、そもそも前提となる安心がまるでなかった。また、超次元ゾーンはギミック自体は新しいのに、やっていることはさほど新しくはなく、過去にあった踏み倒し系カードが超次元呪文に差し替わっただけだった。強いて言うなら、べらぼうなインフレ・ゲームスピードの高速化に関してのみは驚かされ続けた。
それから、「完成」度も低かった。例として一番わかりやすいのが文明間のサイキックの格差である。初っ端で5文明に効果の似通った5コスト超次元呪文――所謂サイクルが与えられたため、そこから各文明のサイキックが発展していくことを望まれたが、最初から優れていた光文明と闇文明ばかりに使いやすい5コストのホール呪文や優良な大型サイキック・クリーチャーが追加され続けたのに対して、残り3文明にはそれらはほとんど増えず、不均衡なままであり続けた。最終弾で「これで完成だ」と言わんばかりに5文明持ちの《ディアボロス Z》が登場したが、呼び出せるホール呪文の性能を考えると、やはり闇文明がほぼ必須だった。
残念ながら、コミュニケーション理論の観点からも落第点を与えざるを得ない。
直列的なインフレ
覚醒編はそれ以前より大幅にインフレしたシリーズであり、その別ゲー度ぶりを「あそこからデュエルマスターズ2になった」と評されることもあるが、インフレの性質も特殊なものだった。
普通、インフレ期と呼ばれるシリーズは、インフレの範囲が多岐に渡るものだ。 比較対象として、同じ超次元ゾーンの新カードタイプが登場したドラゴン・サーガを見てみよう。
まず突出した性能のドラグハート《ガイギンガ》(+《グレンモルト》)が登場。更に直後にスーパーデッキで《ガイバーン》が登場し、《グレンモルト》の地位は強固なものになる。
その後、新たなドラグハートのドラグハート・フォートレスも登場、他の各文明に強力なそれらが配られ、更にE3からのトップメタデッキを殿堂入りで弱体化させて世代交代を進める。
覚醒編のインフレとは違い、インフレが並列的に行われているのが分かる。 このお陰で環境内のデッキやゲーム体験に一定の多様性を残しつつ、コミュニケーション理論で言うところの「完成」を満たしている。
しかし、覚醒編のインフレは直列的であった。
最初に《チャクラ》が出て暴れた上、他のメタデッキのほとんどは殿堂入りで消失。その後に《チャクラ》を否定する性能の《GENJI》が出てトップメタにのし上がる。次いで《不滅》《ガドホ》《ガンヴィート》《ディアボロス Z》が立て続けに登場し、中速ビートダウンが死ぬ。
インフレをインフレで塗り替える図式だが、インフレのラインに乗れなかった(新規カードを含めた)大部分はその煽りを受けたり、置いてけぼりを食らってしまっている。
確かに半年前に比べると《チャクラ》は驚異ではなくなった。その代わり、他に多数の問題点が発生しており、もはや「《チャクラ》を規制すれば解決」で収まる話ではなくなっていた。なんとも粗雑なデザイン手法であったという他ない。
筆者自身、このまま次々とパワカを刷っては短期間で丸ごと潰すやり方を続けていった先に明るい未来があるとは思えず、悲観的な展望しか立てられなかった。
追記:エピソード1以降のデュエル・マスターズ
覚醒編末期の殿堂発表で【超次元コントロール】のキーとなるカード群はあらかた規制された。
さらに、エピソード1の第一弾で《ガイアール・カイザー》が登場し、ビートダウンデッキは《シューティング・ホール》+《ガイアール・カイザー》で《チャクラ》や《ディアボロス Z》を容易に処理できるようになったほか、《サイバー・N・ワールド》獲得によって【ドロマー超次元】の執拗なハンデスをトップで返せるようになった。
これにより、とうとう【超次元コントロール】デッキは環境から身を引いた。
というのはもちろん嘘だ。
新規カードが登場するたびに強化される超次元系デッキの拡張性の高さ、そしてやはり超次元というギミック自体が既存カードに比べてずば抜けた出力であったため、超次元環境は変わらなかった。
エピソード1の第一弾発売後~第二弾発売前のCSの結果は以下の通りである。
CS参加者の大多数が【超次元コントロール】と【M・ロマノフ】を使い、上位入賞デッキも右に同じだった。
超次元ゾーンの登場で壊れてしまったデュエルマスターズ。エピソード1ではそれをどうにかしようという軌道修正の跡が見られた。
一部のカードを規制したところで、天地の差ほど広がった超次元デッキとそれ以外とのパワーの差はどうにもならない。だからこそ、殿堂入りによる規制ののち、E1では同じくらい壊れた新規カード群が生まれることとなった。
前述の「シューティングガイアール」コンボ・《サイバー・N・ワールド》。デッキを呪文で固めた【超次元コントロール】を即死させうる《ヴォルグ》に《ザビ・ミラ》。ハンデスに強くパワカの象徴である《永遠のリュウセイ・カイザー》、サイキック・クリーチャーに有効な超高性能汎用バウンス《ドンドン吸い込むナウ》、そしてそれらとシナジーを形成する《ボルバルザーク・エクス》、屈指のパワーカード同士が噛み合った【Nエクス】基盤。どれも【ドロマー超次元】を中心とした【超次元コントロール】に力負けせず、対等かそれ以上に渡り合えるデザインになっている。
登場直後から長い間高い採用率を誇り、殿堂入りも噂されたパワーカードばかりで、中には実際に規制を受けたカードもあるが、これらが生まれたのは「破壊的修復」を図る上で避けられない、必然的なものであった。
エピソード1の環境は、中盤あたりから【Nエクス】基盤か・超次元か・速攻かというこれまた極端な環境だった印象が強いが、覚醒編の負の遺産を引き継いだ故に意図的に作られた、ある種避けられないものだったと言えるだろう。
自然や水にも使いやすいサイキックが追加されたり、呼び出せる範囲が《ボルホ》の下位互換でしかなかった《シューティング・ホール》の呼び出し先が増えたりと、覚醒編で「完成」させられなかった部分は概ねエピソード1で補完された形となった。
ただ、E1最終弾で登場した《勝利のガイアール・カイザー》《勝利のリュウセイ・カイザー》《勝利のプリンプリン》(通称勝利セット)、個人的にこれはいただけなかった。
その性能はどれも凄まじく強力かつ便利ではあったものの、反面で様々な問題点を抱えており、現代デュエマにまで影響を及ぼす長期的かつ大きな歪みを生んでしまった。これに関してはまたいずれ別の記事で語るときが来る、かもしれない。
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