エンペラー・キリコデッキの遍歴
今もなお根強い人気を誇る《エンペラー・キリコ》。筆者の当時の思い出とデッキレシピの変遷を登場から禁止化まで時系列順にまとめた。
2009年06月 神化編第1弾 《エンペラー・キリコ》登場
《エンペラー・キリコ》は神化編1弾に登場し、複数の期間にわたって環境を支配したカードである。
しかし、コスト8の進化クリーチャーを軸にガチデッキとして運用するのは登場時点の環境でも厳しいものがあった。
《ジェニー》《パクリオ》《ソルアド》《ロスト》のハンデスが飛び交う環境でこの重さの進化をキープするのは至難の技だし、それまでマナを伸ばしても場に進化元を残さなければならない。
《エンペラー・キリコ》を使うのであれば《キリコ》を出せば勝ちになるデッキ構築をしたいのだが、進化元のサイバーまたはオリジンにはそれほどのパワーカードはほぼ無い。《キリコ》の決定力を増すために種以外の強力なフィニッシャーを積みたいが、種にしろフィニッシャーにしろ重量カードを増やすとデッキ全体が重くなり事故が激増する。かといって軽い進化元で固めると《キリコ》を出してもリターンが薄い。などといくつも構築上の欠陥を抱えており、「可能性を秘めた派手で面白いカード」止まりだった。
参考までに、当時公式のデッキ開発部で紹介されていたPG型の《キリコ》。
(まだイラストが付く前の開発部キャラが懐かしい)
《エンペラー・キリコ》から《アマテラス》で《紋章》《フォース・アゲイン》を唱えて《キリコ》を出し直すことで《ギャラクシー》の頭数を増やし、最後に《グロリアス》のcipを解決してワンショットする。公式が最初に提示した雛形だが、この時期で既にそこそこレシピの完成度が高い。
サーチを多めに積んで事故を減らし、《アマテラス》+《緊急再誕》で重いコストをどうにかしようという努力の跡が見受けられる。
《フォース・アゲイン》は《キリコ》から出た《アマテラス》で打って《キリコ》を出し直す他に、解除された《ギャラクシー》のSFを貼り直せたりと便利。
他には、ランデスでテンポアドバンテージを取って【HDM】を揃える《キリコ》もあった。
【HDMキリコ】
ランデスでロングゲームに持ち込み《キリコ》に繋げる。
《ヘヴィ》《メタル》の性能が十分に高いので、《キリコ》が出せなくても【ランデスHDM】として戦えるのが魅力。言うまでもなく【速攻】対面は絶望的である。
HDMを揃えるタイプの他には《ザールベルグ》や《シェル・フォートレス》で《キリコ》からのランデス力を高めたものもあった。
基本的にはPG型とランデス型の2つが主流だったのではないかと思う。
2009年09月 神化編第2弾 《母なる星域》登場&殿堂発表
ここで問題の《母なる星域》が登場する。
《アマテラス》から《星域》を唱えることが出来るため、場にクリーチャーが一体以上、マナに《キリコ》含む7マナある状態で《アマテラス》を出せばそのまま《キリコ》に繋がるようになる。
これにより《キリコ》を終盤まで手札にキープする必要はなくなり、《キリコ》を出すのに必要なマナコストも減少。そして、《アマテラス》を噛ませる前提ならば他のクリーチャーの文明や種族の要求が一切なくなるため、デッキ内の進化元を《アマテラス》と一部の優秀なものに絞っても安定して進化できるようになり、事故率と構築上の制約が飛躍的に軽減されたという点が何より大きかった。
《キリコ》は単体だとコストが重くてオーバーキル気味なカードだが、《星域》ならば容易に踏み倒せる。場に進化元を用意する必要がある点は《アマテラス》を絡めることで克服できる。
《星域》のクリーチャーの頭数が減ってしまうデメリットは、《キリコ》と合わせれば帳消しになる。《大地》《紋章》と比べて格段に腐りやすく4投し辛いが、《アマテラス》で必要なタイミングで場に種・進化元を確保しながらリクルートできるため枚数を抑えられる。
三者は完璧にシナジーし合っていた。
【PGキリコ】
《キリコ》を出し入れして《ギャラクシー》を増殖させてから《アマテラス》→《ソード》でワンショットするデッキ。
【速攻】は厳しいが、《キリコ》さえ立ててしまえばどうにでもなるため、下手に【速攻】を厚く見て安定性を落とすより最速で《キリコ》を立てることに専念したほうがトータルの勝率が上がるという考えのもと、防御は最小限に抑えられる。
一応これがフルパワーで使える時期なのだが、11月に新たな殿堂発表が行われたためこの構築が使えた期間は長くなく、使用者も活躍機会も少なかったためほとんど騒がれなかった。
殿堂発表によりキーパーツが殿堂入りした【キング】【ギャラクシー】【ロマサイ】デッキが甚大な被害を受けた。
《キリコ》もフィニッシャーの《ギャラクシー》を失ったが、天敵の【キング】が消えたため総合的にはプラスの改訂になった。
2009年12月 神化編第3弾発売&EM開催
《ギャラクシー》が1枚化した【キリコ】は新たな踏み倒し先として《ロマネスク》を採用した【ドラゴンキリコ】へと発展した。
【ドラゴンキリコ】
《キリコ》から《ロマネスク》でマナを伸ばして《アマテラス》や《ファル・レーゼ》などで《星域》を打ち、進化ドラゴンを出して〆。
進化ドラゴンは《バジュラズテラ》に絞るか《ヴァルキリアス》《バジュラズテラ》を1枚ずつ積んで状況で使い分けというものが多かった。
《ギャラクシー》の殿堂入りに伴い、ソリティア以外に使用機会の少ない《フォース・アゲイン》が抜かれている。
また、大量の呪文と少量の大型クリーチャーでデッキを固める【ミラミス】とデッキ構造が似通っているため、そちらに《キリコ》を入れた【扉キリコ】も使用された。
【扉キリコ】
《ミラミス》で踏み倒した《ザールベルグ》などのcipクリを《星域》の種として再利用出来るため無駄が少ない。これも《星域》登場の恩恵といえる。
デッキカラーは青と緑の2色か、《デル・フィン》《ギャラクシー》を投入出来る白入り、《スクラッパー》《バジュラ》が入った赤入りがあっただろうか。
ミラーには強いが速攻耐性が薄い点は変わっておらず安定性も高くないため、《ミラミス》は【ドラキリコ】に何枚か入れるような使い方が一番強かったように思う。
そして店舗予選、所謂権利戦が始まる。権利戦→エリア代表戦→日本一決定戦の流れは当時のデュエマではまだあまり馴染みのない形式(不死鳥編の頃も権利戦があった?らしいが、筆者はその頃デュエマから離れていたので詳細は不明)。
前評判では「苦手な【ギャラクシー】が消えた【ドルゲ】」→「勢いがある【青単速攻】」→「天敵【キング】が消えた【キリコ】」の三すくみから成る三強という見方が多かったように思うが、蓋を開ければパワーの高い【ドラキリコ】が一番人気だった。二番人気は同じくカードパワーが抜けていて【ドラキリ】に抗える【白H(D)M】。対戦相手が読みづらいことから、メタ読みよりもカードパワーの暴力を押し付けられ変な相手に取りこぼしにくいデッキが勝ち抜けやすかったのだろう。
参考URL:エボリューション・マスター予選デッキ傾向集計まとめ
当時のゲー厶ジャパンでも「EM直前は【青単】か【ドルゲ】環境になると思ってたら、まさかの《星域》を獲得していた【キリコ】が上がってきたぜHAHAHA。【ドルゲ】は割り食ったねドンマイ」みたいなことを書いてあったらしい。
猛威を奮い始めた【キリコ】対策として、《百発人形マグナム》や《メスタポ》が注目された。
しかし、抜け道が多く時間稼ぎにしかならない、後述の【黒キリコ】は回答を持っている、自分の動きを強くしてくれない割に刺さらない相手には全く刺さらないなど使い勝手にやや難があり、一番使い勝手の良い軽量メタは腐りにくい《ローズ・キャッスル》だったか。
【キリコ】側の構築も少しずつ変わり始め、徐々に「《キリコ》を出してからの〆を確実なものにする」ことより「《キリコ》をスムーズに出す」ことへの比重が置かれ始める。コントロール要素を多めに入れたり、本来タブー扱いの《青銅》を採用して動きを安定させるプレイヤーまでいた。
ここらへんは、現代デュエマのループデッキが研究が進むにつれフィニッシュ専用パーツよりループに入るまでに役割を持てるカードが優先されるようになるのと似たようなものだろう。
自分語り:キリコを握るようになった経緯
神化編に入ってから、筆者はDRなどでは主に(戦国編から引き続き)【4Cキング】と【シノビドルゲ】を握っていた。
最初はバキューム軸の【4Cキング】をメインにしていたのだが、周りが【青単速攻】や【黒緑速攻】(特に多かったのは前者)だらけになり轢き殺されることが増えてしまったので、受けの硬い【シノビドルゲ】をメインで使うようになっていった。
その年の秋、新殿堂が発表された。この年は12月から公式大会のエボリューション・マスター(以下EM)店舗大会が予定されていたので、それに向けた環境整備だろうと思われる。
対抗馬が弱体化した中で意外にも【シノビドルゲ】はほぼノータッチだったため、EMのメタゲームは上述した通り【ドルゲ】【青単】【キリコ】の三つ巴との見方が強く、筆者自身も殿堂入りのダメージが少なかった【ドルゲ】で当分戦えそうでホッとしていた。
(結果的には【キリコ】が環境の中心だったが、大会前は殿堂発表直後ということもあって未知数な部分が大きかった)
しかし、権利戦が始まり地元のショップ大会に参加していく内、雲行きが怪しくなる。大本命の【シノビドルゲ】では【キリコ】に全く歯が立たない。
ハンデスでリソースを削り上手くコントロール出来たと思っても、トップ《アマテラス》でゲームを壊される。無理に早めに盾を割ってもごりごりとマナを伸ばされて《キリコ》を間に合わされる。とデッキパワーの差を見せつけられ、苦汁を舐めされられた。
その時点で【ドルゲ】は諦めたが、速攻系は握る気にならず。そんな当時、ネットでは【ドラゴンキリコ】に強い【キリコ】デッキとして【黒キリコ】が流行し始めていた。
元々【4Cキング】を愛用していたのもあり、それと【キリコ】をミックスしたような形を気に入った筆者は(既に権利戦を抜けていた友人に何枚かカードを借りながら)デッキ組み上げて権利戦に参加。無事に初優勝を果たし、その後も長い間握り続けることになる。
↑ここまで自分語り。
その後、権利戦が終わると今度は店舗大会を勝ち抜いたプレイヤーによる地区大会、エリア代表決定戦が行われる。
権利戦が始まってしばらくしたあたりでDMvault大会の【キリコ】の主流は同系や【キリコ】メタに強い【黒キリコ】に完全に移行しており、エリア戦の主役もそちらが担った。
関東B オープン 3位 【黒キリコ】
同系含む環境デッキに幅広く刺さる《ローズ・キャッスル》、《アマテラス》からの選択肢を増やすための1積み呪文の数々など、全体的にコントロール色が強くなっている。
最初は3枚がテンプレだった《星域》は、単体では腐りやすい・2枚でも十分回る・黒型ならば《ロマネスク》でマナに落ちる心配がないなどの理由から2枚が多数派になっていった。
この頃のレシピについては以前の記事で詳しく書いたので詳細はそちらで。
以前よりメタが固まってきたことやOPのエリア戦以上は【速攻】が少ない傾向にあること、そしてそれを読んだプレイヤーが多かったことから、店舗大会よりも【キリコ】とその【メタコン】の入賞率が増えている。
権利戦で人気を集めた【白H(D)M】はエリア大会でもそれなりに使用率が高かったようだが、【キリコ】がハンデスを積むようになり立ち位置が厳しくなったせいか入賞率は激減してしまった。
RGを含めるとこうなる。RGは例年通り【速攻】の使用者が多かったため、【速攻】とそれに強い【ドルゲ】・【ハイドロ】の入賞率が増している。
その分【キリコ】の割合は減ってはいるが、RGのみで見ても入賞数はトップだった。OP+RGで入賞した【キリコ】のうち25人中18人が【黒キリコ】。
前後関係は曖昧だが、
パワーの高い【ドラキリ】流行→【ドラキリ】を食える【青単】→【ドラキリ】に強く【青単】とも戦える【黒キリコ】→【黒キリコ】の決定力の低さを嫌って赤黒のいいとこ取りの【キリコ】→【キリコ】に最も強い【黒緑速攻】→【黒キリコ】と【黒緑速攻】を食える【Mロマ】→【黒キリコ】とビート系を見た【メタコン】→【黒キリコ】側もメタクリとビートメタに《ローズ》とか積む
みたいに、【キリコ】を中心にメタがぐるぐる回っていたような記憶がある。
2010年03月 神化編第4弾&EM日本一決定戦開催・殿堂発表
35弾が発売されたが、《クレスト・EVOチャージャー》が選択枠として追加された以外に【キリコ】の目ぼしい強化パーツはなかった。
その後、3月末に日本一決定戦が開催された。ここでも大本命は【黒キリコ】とされていたが、OPクラスでは【キリコ】使用者はたった一人で、【キリコ】への【メタコン】と【ヒャックメー】(しかも《ベイビー・バース》+《ギャスカ》入り)などの地雷デッキまみれ、優勝も【メタコン】という、かなり特殊なメタゲームが展開された。
この時期だとvaultや非公認大会なんかでも【メタコン】と【速攻】の使用率がかなり上がっていて、【キリコ】を使っても着地を許してもらえずかえって勝率が下がるため【白HDM】とか握ったほうが意外とすんなり勝ち上がりやすかったのではないかと思う。
その一ヶ月後の2010年4月に、次期の殿堂入りカードが発表された。
おおよそのプレイヤーが予想したとおり【キリコ】は本体及び周辺パーツが一通り潰される格好になった。以降、【キリコ】は苦難の時を迎えることになる。
2010年05月~ 【キリコ】冬の時代
5月の新殿堂で大打撃を受けた【キリコ】デッキはメタゲームから退いた。
最も致命的だったのは、《アマテラス》殿堂入りで《キリコ》が出しにくくなり構築難易度が急上昇、そして安定性・柔軟性・出力が大幅に落ちたこと。
《星域》登場以降、下準備をほとんどしなくとも「《アマテ》→《星域》→《キリコ》」と容易に《キリコ》を踏み倒す機構が出来たため、他部分の自由度が高まり【ゼンアクキリコ】とか【天門キリコ】とか少々無茶をしてもデッキとして成立できていた。
だが、《アマテ》の殿堂入りによって、着地が不安定になっただけでなく、《キリコ》をスムーズに出すためのカードと《キリコ》から出して強いカードの両方を兼ねた存在がいなくなった。
その結果、両者の配分が非常にシビアになり、あちらを立てればこちらが立たず。《星域》登場前と似たような問題がまた発生してしまうこととなる。
覚醒編で超次元ゾーンが登場したとき、デッキ内のクリーチャーの比率を上げずに進化元を増やせるため、これは【キリコ】強化なのでは?と筆者は勝手に舞い上がっていたが、上記の弱点を補ってくれるわけでは無い上に、《キリコ》で踏み倒せないサイキック・クリーチャーがメインデッキのクリーチャーに比べ遥かに高性能だったため、相対的に見ればむしろ向かい風ですらあった。
神化編の【キリコ】は《アマテラス》のカードパワーに依存したデッキ構成を取っており、トップからの高い解決能力で多少の妨害ならはねのけることが出来ていた。
ブーストを連打してから《アマテ》→《サイブレ》に頼るゲームプランもまかり通り、そのおかげでドロースペルの枚数を絞っても他デッキよりも素早く安定して高コスト帯に繋げられていたが、殿堂入りでそれをアテにすることが不可能となり、特にハンデスには滅法弱くなった。
加えて、《キリコ》本体の殿堂入りによって《キリコ》がシールドに埋まってしまった場合のケアが必要になったのも痛かった。《キリコ》は1枚見えていれば機能するためサーチや回収を増やせば大抵はどうにかなったが、盾落ちだけは割とどうしようもない。
しかも、前述の通り《アマテラス》殿堂入りでデッキ全体のパワーが著しく落ち込み、《キリコ》を出せないときの出力が非常に厳しいものになっていた。
《キリコ》本体はまだ出せれば強力なカードのままだったため、どうにかリペアしようというプレイヤーもそれなりにいた。進化元でありながらソリティアを強化する《薔薇の使者》を投入したり、《ヴァリアブル・ポーカー》《デビル・ドレーン》といった盾落ちケアカードを入れたり、【ミラミス超次元】に寄せてみたり。
だが、この頃のカードプールで《キリコ》を軸にするのには限界があり、結局一番マシな使い方は【不滅オロチ】に1枚刺しておくことだったと思われる(《ドラヴィタ・ホール》1枚から出せる《バルカディアス》の方が使いやすかったため趣味での採用になるが)。
2011年06月 E1第1弾 《サイバー・N・ワールド》登場
殿堂入りから多くの課題を解決出来ないまま1年が過ぎていた【キリコ】だったが、エピソード1で潮流が変わる。
第1弾で登場した強烈なパワーカード《サイバー・N・ワールド》は、《アマテラス》殿堂入り後に課題になっていた「《キリコ》に繋げやすく《キリコ》で踏み倒しても強い進化元」不足を補うカードであり、同時に《アマテラス》+《サイブレ》さながらにリソースを回復出来るカードでもあった。
E1では覚醒編での超次元ゾーンのインフレに合わせてメインデッキのファッティの質が一気に引き上げられたが、その多くは覚醒編環境を牛耳った【ドロマー超次元】に強いデザインとなっており、《N・ワールド》はそのあからさまな例と言える。
《N・ワールド》獲得で大幅に力を取り戻した【キリコ】。しかし、《N》だけでは《キリコ》の安定した早期着地・着地後の展開を補助する《アマテ》をリペアし切れたとは言い難く、またデッキパワーの面でもこの当時の環境内では力不足だった。【キリコ】が休んでいる1年の間に超次元ゾーンによる急激なインフレが進行しており、デュエルマスターズは文字通り別次元のステージに進んでいたのだ。
殿堂で主力パーツが根こそぎ殺されてもなお強い【ドロマー超次元】を筆頭に【ネクラ超次元】や【アナ超次元】・【青黒ハンデス超次元】といった超次元軸のコントロール、「シューティングガイアール」獲得により押しも押されぬトップメタとなった【Mロマ】が中心におり、その中に割って入っていくのは難しかった。
DMR-01発売から1ヶ月後に開かれた大型CSのおやつCSでは、全体の4割近くが【ドロマー超次元】を使用しベスト4に2人残っているのに対して、【キリコ】使用者は参加者189人の内たった5人。
その後1ヶ月間で研究が進んだためか徐々に使用率が増して行ったが、8月に行われた仙台CS・尾張CS・浜松CS・東京CS・新潟交流会のCSラッシュ(この年くらいからCSが開催される回数が激増した)の中では浜松CSで4位、東京CSではベスト8(共に《バルカ》型)に残ったくらいで、相変わらず環境を大部分を占めるのは上述の覚醒編からのメタデッキだった。
DMR-01期CS上位入賞数グラフ
※これ以降の表も含め、ベスト8は使用デッキが公開されていないCSがそれなりにあるため、不明なものはカウントしていない。
浜松CS 4位 バルカキリコ
神化編の頃からのレシピと比べると、《キリコ》殿堂によって《宝箱》が多めに積まれるようになった他にもいくつか変わっている部分がある。
まず、受け札兼ワンチャン盾落ちケアとして《スローリー・チェーン》が投入され始めた。《スロチェ》自体は昔からあるカードだったが、ビートに対して盾で耐えてワンショット出来るデッキがほとんどなかったこと、パワーラインが低めで《スクラッパー》で除去したほうが有効な状況が多いこと、ビートへの防御トリガーとしてしか使えず汎用性が低いことなどが理由でマイナーカード止まりだった。
しかし、《スクラッパー》耐性の無さが深刻だった【Mロマ】が超次元軸ビートに鞍替えするなど全体のパワーラインが向上した結果火力の価値が下がり、コントロールデッキも盾焼却や呪文ロックのようなトリガー封じ(・《グレート・チャクラ》)ではなくメインデッキのスペースを取らず手軽な《ラスト・ストームXX》フィニッシュが主流になったため、受け札としての信用性が高まる。また、《N》が墓地を山に戻しながらサイバーを場に残してくれるカードであるため、盾回収としてもある程度計算できるようになった。
同様に、墓地リセット効果持ちの《N》が登場した影響で、役割が被り相性も悪い《ファル・レーゼ》は入らなくなった。
E1初期の【キリコ】にちょくちょく採用された《セブ・アルゴル》は結構面白いカードで、《パックン》などを横に展開出来る単体で優れたサイバー種族持ちであることに加えて、《シュヴァル》を出せば《バルカ》の進化元+星域の種を容易でき、デッキ自体とよく噛み合っている。
2011年09月 E1第2弾 《永遠のリュウセイ・カイザー》《ヴォルグ・サンダー》登場
《キリコ》のワンショット性能を大幅に引き上げる《永遠のリュウセイ・カイザー》と《ヴォルグ・サンダー》が登場した。
《アマテラス》殿堂入り以降、《キリコ》を出しても即効性が低くゲームを決められるまでにラグが生まれていたが、その部分が大きく改善されることになった。《永遠リュウ》はシノビブロッカー封じとマッドネスを、《ヴォルグ》は実質的なトリガーケアを兼ねており、決定力も以前より上昇。
以降、【キリコ】の主流は【ドラゴンキリコ】と【ザビミラキリコ】の2つに分かれていった。
ワンショットが容易になったことと同弾の4コスホール呪文の登場で、1ターン確実に耐えられる《スロチェ》やスパーク呪文のバリューが向上し、それまでまず入らなかった《ガブリエラ》もよく採用されるようになった。
発売直後の信州CSでは1位と3位・関西CSの2位・3位に【ドラゴンキリコ】が、川崎CS午後の部の1位に【ザビミラキリコ】が入賞。
ここに来て【キリコ】がトップメタへと返り咲いたことを示す結果となった。
信州CS 1位【ドラゴンキリコ】
神化編の【ドラゴンキリコ】と比べて変化した点はいくつもあるが、以前は採用されていなかったカードとしては《ヴェール・バビロニア》が挙げられる。このカードは、《キリコ》とドラゴンの両方に進化出来る上に、ドロー置換効果で《N》で引くカードの質を大幅に引き上げられ、同時に相手の《N》の対策にもなり、おまけのように疑似ピピハンもついているなど、結構器用に働いてくれる。
また、《ロマネスク》+《アマテラス》で容易に進化ドラゴンを立てられていた以前に比べて《永遠リュウ》で雑に殴り切ることが増えたため、進化ドラゴンを切った構築も多く見られた。
川崎CS午後の部1位【ザビミラキリコ】
《ヴォルグ》が登場したことで《キリコ》を出せば相手の山を削り切れるようになった【ザビミラ】型。
【キリコ】を見た【Mロマ】や【トリーヴァ】対策に《ホワグリ》+《スロチェ》、それらと相性がよく《星域》の種になる《ガブリエラ》が入ったり、(《アマテ》→)《ドレーン》で《キリコ》盾落ちをケアして場に《ガブリエラ》を立てたりとシナジーを意識したカード群によって動きの幅が広がっている。また、《ソード》や《バルカディアス》を採用することで《ザビ・ミラ》で決めきれなかった時の保険も掛けられている。
DMR-02期CS上位入賞数グラフ
再びトップメタとなった【キリコ】だったが、この時点ではまだ【Mロマ】や次元系デッキも引けをとっておらず、特にビートダウンに対しては不利が付きやすかった。
長らく超次元コントロール対面を重視する超次元メタビだった【M】が【キリコ】を仮想敵に入れたのがこの時期で、それ以外でも【キリコ】に強いトリーヴァカラーの超次元ビートダウンが上位入賞するようになっていた。【キリコ】vs次元ビート環境。
2011年10月 フルホイルパック 《ボルバルザーク・エクス》登場
既に非常に強力なデッキに進化していた【キリコ】だったが、《ボルバルザーク・エクス》登場で更に強化された。
殴り返し・マナ基盤・《星域》の種・ドラゴン進化元になり、何より《キリコ》で捲れれば更なる展開が可能と、非常に高い汎用性を兼ね備える。
《N・ワールド》との相性も抜群によく、ここで成立した《N》+《エクス》基盤は【キリコ】のデッキパワーをより強固なものにした。
当時の【ドラキリ】一例
《エクス》が入ったことで、《キリコ》を絡める場合もそうでない場合も進化ドラゴンを立てるのが容易化。ファッティが過剰になったため手出しで弱い非ドラゴンの《ギャラクシー》が抜けやすくなる。
《エクス》の枚数が2枚に抑えられることが多かったり、まだ構築を模索している感じが伺える。
この月の月末から公式大会のビクトリー1(以下V1)の権利戦が始まる。コントロールに滅法強い【キリコ】、【キリコ】に優位な【Mロマ】【トリーヴァ】【速攻】、ビートに耐性がある【ドロマー次元】の三つ巴のメタゲームが繰り広げられた。
参考URL:ビクトリー1店舗予選突破デッキ分布集計(3週目)
その後のエリア代表決定戦はE1限定構築戦だったため《キリコ》はお休み。そちらはフルパワーを発揮できる【Nエクス】が上位を独占した。
2011年12月 E1 第3弾 《ドンドン吸い込むナウ》登場
《アマテラス》で打てるトリガー付き除去札かつサーチ札という最強のバウンス呪文《ドンドン吸い込むナウ》が登場し、最大のネックであった防御面が大きく強化された。
単に汎用性の高い受け札であるというだけでなく、《星域》などを拾いながらサイキック・クリーチャーを除去出来るため次元系デッキ全般への回答になる。《キリコ》に有利とされていた【トリーヴァ】のような次元ビートダウンは《カトラス》や《ハイギル》《チャクラ》を《吸い込む》で容易に処理されてしまうようになり環境から後退した。
12月までの二ヶ月間は公式大会があったため大型CSは殆どなかったが、年末からまた頻繁に開催されるようになった。
下町CS1位と3位に【ドラゴンキリコ】、関西CSでも1位【ドラゴンキリコ】3位に【ザビミラキリコ】、紀州CS1位と4位に【ドラゴンキリコ】3位【ザビミラキリコ】、川崎CS午前の部1位・午後の部1位に【ドラゴンキリコ】(午後の部は《ザビ・ミラ》入り)。
新規カードによる強化と研究が進んだ結果、爆発力・防御力の増した【キリコ】は非常に高い入賞率を誇った。
下町CS 1位 【ドラゴンキリコ】
川崎CS 午前の部 1位 【ドラゴンキリコ】
《エクス》がデッキの核として3~4投されるようになったためその展開力を活かす《N》の採用枚数が多めに取られやすくなり、それによりハンデス耐性が高まったことと《エクス》の性能のおかげでゲームエンドに必ずしも《永遠リュウ》を必要としなくなったことで、《永遠リュウ》は2枚が標準になった。この頃になるとNX基盤のお陰でクリーチャーの質が他デッキと比べて段違いに高くなっているため、メタカードで《キリコ》を出せない状況を作ることは決定的な対策にならなくなっている。
《吸い込む》の登場によって《盾》《エナスパ》《スパゲ》といった軽量除去、《ディメゲ》《クリメモ》のようなサーチカードは採用率を落とし、手軽にボードに触れられるようになったため《スーパーヒーロー》《ドルボラン》あたりの除去クリーチャーも抜けていった。更に、デッキ内の防御トリガーの増加とフルホイルパックでの白のブロッカー《メリーアン》獲得で白の4コスホールのバリューが増し、高いビート耐性を獲得できる《ホワグリ》(偶に《ブルホワ》)が固定枠になる。合わせて、盾埋めの択を作る《DNA・スパーク》の採用率も上昇。後のビマナの定番セット《吸い込む》+《ホワグリ》+光トリガーの歴史はここで始まった。
ついでに、同弾で《ジオ・ナスオ》、フルホイルパックで《ザビ・クロー》を獲得していた【黒緑速攻】が環境に戻ってきたため、《エンフォーサー》や《ホワグリ》の重要性が増した。
これに同系や環境へのメタとして《GILL》やらランデス呪文やらが入ったりもするが、ともかくE1の【ドラゴンキリコ】はここで概ね完成形になったと言って差し支えないだろう。
一方の《ザビ・ミラ》型はというと、《マグナム》や同系の《スロチェ》を貫通しやすいのは強みだが、既存の赤抜き基盤またはタッチ《エクス》だと《エクス》のカードパワーをフルに引き出せるとは言い難く、更に《キリコ》に依存しなくともフィニッシュ手段を確保しやすい【ドラキリ】と比べて《キリコ》が盾に落ちると途端に厳しくなり、かといって【ドラキリ】に色の合わないフィニッシュ専用の《ザビ・ミラ》を4投するのはデッキパワーを落としてしまいかねないなど、純正の【ドラゴンキリコ】にはやや見劣りする印象があった。
この後、V1日本一決定戦の直前に、殿堂前最後の大型CSである関東CSが開催される。またもや【キリコ】が上位を占める……ということはなかった。
《吸い込む》が登場して以降、めっきり上位入賞から遠ざかっていた【Mロマ】が【キリコ】メタに《ギガボルバ》を積んで優勝をかっ攫い、上位は【MΛ】や【黒緑】、【ネクラ】などの【キリコ】メタデッキがずらり。【キリコ】はベスト8に1人いたのみだった。
そう、神化編よろしく、またもや一強と化した【キリコ】がガンメタを貼られる時代がやってきたのである。神化編ではあまりメタカードとして信用されなかった《マグナム》は、超次元呪文の登場以降大半のデッキに刺さる定番カードになっており、【キリコ】自身にも《ギャラクシー》や《ハンゾウ》が入らなくなったため通りやすくなっていた。
DMR-03期(新殿堂まで)CS上位入賞数グラフ
※【MΛ】は【Mロマノフ】として集計している。
第3弾で《次元流の豪力》を3打点にする《フォーエバー・カイザー》(+《カモン・ピッピー》)、有力フィニッシャーの《コスモ・セブ Λ》が登場していたにも拘らずビートダウンの上位入賞率が減少しており、《吸い込む》の影響の大きさを物語っている。
関東CS直後の日本一決定戦は、OPクラスの【キリコ】使用者は1人、地雷と【メタコン】ばかりで優勝は【マーシャルビート】。ここでもEMと同じ状況が発生していた(ただしRGは【キリコ】が6/8という一極環境だった)。
この年までの全一決定戦OPはトップメタが別に存在する場合でも地雷に食われることは頻繁にあったので恒例のような感じはある。
2012年02月 殿堂発表
その日本一決定戦から半月後、3月からの新殿堂が発表された。
時期的に、日本一決定戦前から殿堂入りカードは内定していたのではないかと思われる(エリア代表戦で殿堂入り希望カードのアンケートを取っていたし)。
この殿堂発表で本体が禁止になった【エンペラー・キリコ】デッキは完全に終焉を迎えた。
《キリコ》が抜けたNX基盤はこの後も【紅蓮ゾルゲ】【猿Nエクス】といったトップメタデッキの基盤を務め「ボルバルマスターズ再来」とか言われながら次回の殿堂発表まで環境を荒らし続ける。一方でプレミアム殿堂となった《キリコ》と《Mロマ》の方はというと、前年に新設された殿堂ゼロデュエルに戦場を移して(やはりNXを搭載した)【パクリオループ】などと戦っていくことになる。が、それはまた別のお話。
余談:札束デッキとしての【キリコ】
資産ゲーと言われやすかった【キリコ】デッキだが、神化編の頃とエピソード1の頃とでその度合いは大きく異なる。
当時はカードショップの数が少なく地域差が激しい為、ヤフオク相場での話になるが、神化編の頃は【キリコ】デッキに入る高額カードは一部の再録の無い人気SR(+《ハンゾウ》)くらいで、そこに該当し複数枚投入される《キリコ》や《ロマネスク》は1000円台中盤で購入することができていた。環境内で比較しても、【ライゾウ】の方が構築費用は高かった。
だが、エピソード1のSRはゴールデンリスト制定もあってかカードプール全体が高額化。《N・ワールド》《エクス》《永遠リュウ》いずれも2k~3kで取引される高価なSRカード郡をふんだんに投入し、それ以外のカードもかなりお高めの希少カードを複数積むため、ネットを駆使してもデッキ構築費が(当時としては)大変なことになっていた。「資産家向けデッキ」とか、「こんなのデュエマのデッキじゃない」とか言われたり。
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