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別の世界線
夢の中にいたい
貴志祐介の書いた『ダークゾーン』という本が結構好きだ。
将棋のプロを目指していた主人公が、目が覚めると自分が将棋のようなボードゲームのコマになっており、異形のまま仲間と戦うという話だ。
将棋に似ているけれど微妙にルールが違っており、主人公含め仲間たち自身がコマなので、やられると壮絶な痛みで絶命する。
戦い続けなければならない架空の世界。でも、主人公は、それでも、うまくいかない現実よりも、この架空の世界の方がいいのではないかと考える描写がある。
なれるかも分からない将棋のプロの世界よりも、ただ集中、ある意味で熱中し続けられるこの架空のゲーム。ここにもし居続けるのだとしたら、どちらがいいのか。
現実から逃げる事は出来ない。何か嫌な事があって、そこから逃避しても、また別の現実が見えてきて、それを繰り返して、人生は一つの道になっている。
夢の中に、架空の世界に、いたいと思う事もある。現実とは別の世界線。ルール、常識。
現実でうまくいかなかったことが、その世界でなら、うまくいくのかもしれない。
こんなはずじゃないとか、何か変わればとか、それが叶う別の世界線。
成功する人とそうでない人の違いが、ほんの僅かな何かならば、現実でなくて、この夢の中に、いたいと思う、その気持ちも、すごく分かる。遠くを見つめた時に、そのまま遠くに吸い込まれたらいいのにと、別の国に行って知らない街を電車で通り過ぎた時に、この風景で暮らす人は、どんな仕事をして、どんな恋愛をして、どんな事を思いを馳せているのかと、現実を離れて、考える。
でもそんな別の世界線はやっぱりなくて、今日も電車に揺られている。