自分史コラム 京北マジカル・ミステリー・ツアー
「時代が変わる」とはよく聞く言葉ではありますが、これまで生きてきて、今ほどそれを実感する日々はありません。
私の場合は2011年の福島原発事故がとても大きな自分史の転機でした。
福島原発事故でばら撒かれた大量の放射性物質で関東一円が汚染されてしまい、「食べものの安全性」について考えなければならなくなったことは、人生を変えるのに十分するぎるきっかけとなりました。
その後「自分で食べるものは少しでも自分で作れるようになりたい」と畑を借りて自給率を高める生活を相模原に発見し、2016年、愛すべき故郷横浜から引っ越しました。
この約10年のあいだ、社会はどんどん変わり、政治や文化の劣化が加速してきたように感じます。
私と同じような思いから生活を変えた人たちは全国にいます。
自分らで食べものを生産したり、生活を助け合ったりして、お金に縛られない生活を選択する人たちのコミュニティが各地にでき、それは確実に時代の流れとして感じれるほどになってきました。
そんなコミュニティのひとつに、京都の街中から約1時間ほど、車で深い山道を上っていった先にある「京北(けいほく)」と言われるエリアがあります。
そこでは地元の人と移住者が力を合わせ、里山文化を継承しつつも新しい生活モデルを実践しているのですが、先日そこで開催されたお祭り「ツクル森」 に行ってきました。
京都の山里で行われる「ツクル森」とは?
京北は、くねくねと細い山道を約一時間も走ったすえに、いきなり現れる小さな町。
聞くところによると、古くは都落ちした人たちが移り住んだ隠れ里で、近代は材木業で栄え、高度経済成長に伴い人口が減少したものの、地元の人が大事に守ってきた豊かな自然と都市部へのアクセスの良さに、移住者が急増し、新しいかたちのコミュニティができている場所だそう。
このツクル森は、もともと行われていた地元のお祭りに、移住者のみなさんが協力して始まったもので、今回が3回目。
京都府が貸し出してくれた草原を、住民が協力して草木を刈った会場を舞台に、地元作家による工芸品の販売やワークショップ、オーガニックフード、ミュージシャンやダンサーによるステージなど盛りだくさんのフェスです。
動画でご覧いただくと、その楽しそうな雰囲気をお分かりいただけるかと思います。
それまで京都市内は何度も訪れたことがありますが、この京北エリアは、コミュニティの中心人物の方を紹介されて7月に来たばかり。
この豊かな自然と共生をしている人々の穏やかな空気感がなんとも心地よく、すぐに好きになってしまい、今回のツクル森になんとか行きたいと、仕事の出張スケジュールを調整し、参加表明したのです。
自然と人々の繋がりが導くミラクル
参加表明した直後、主催者の方から「トークショーに出て」との突然の依頼にビックリしましたが、せっかくの機会だと、錚々たるメンバーにならんで参加させていただくことにしました。
テーマは「京北のコミュニティの魅力について」。
京北はまだ二度目なのに何を話せばいいんだろう…
左から映像作家の丹下紘希さん、ジャーナリストの守田敏也さん、ツクル森実行委員長でソーシャルデザイナーのフェイランさん、ミュージシャンのきしもとタローさん。
私はライターという性分もあって、この京北での生活経験からにじみ出るようなみなさんの深い言葉に、自分が話すより、もっと話を聞きたい、質問したいという気持ちがいっぱいの心地よいセッションでした。
トークショーが終わったら、あとはもう楽しむだけ。
事前にフードの出店内容を見て、たくさん食べようと決めていましたが、それにしても何から何までとにかく美味しい。
すべてがオーガニックな食材を使って手作りされたまごころを感じるものばかりで、全部の写真を撮らなかったことが悔やまれます。
京都市内で大人気の無添加たこ焼き「みはし屋」さん。
近隣で伐採した杉で建てた小屋に石窯を据えた「松橋雑貨店」のピザ。
伝統工芸の漆の保全活動を行っている「工藝の森」の野点。
ススキの中でのお茶席が素敵。さすが京都!
もちろん魅力は食べものばかりではありません。
ステージでは本当に多彩なミュージシャンやDJにより、イベント中はずーっと心地よい音が会場全体を包んでいました。
初日の夜は心配していた雨が本降りになってしまいましたが、ステージからの大音響のなか、傘をさしながら踊る人たちもたくさんいて、最高にマジカルな空間に。
自然のパワーでみんなナチュラル・ハイとでもいうんでしょうか、寒さもそれほどでもなかったのも幸いし、宴の夜は最後まで楽しく過ぎていきました。
明けて二日目、雨もやみ、美しい秋晴れ。
お客さんも増え、それはそれは楽しい時間が1日中繰り広げられました。
みなさんの出す気が穏やかで、きさくに話してくれるうえに、フードが美味しく、心地よい音が流れ続けているので、長時間いても全然疲れないんですよね。
エンディングはみんなでフォークダンス。
各々がキャンドルを手にして輪になって踊り、二日間のミラクルな祭りはあたたかく静かに幕を閉じました。
まるで竜宮城にいたような感覚
祭りが終わってすぐに私は京都駅まで送ってもらい、二日間ぬかるみを歩いた泥だらけのまま、新幹線に飛び乗って神奈川に帰り着きました。
翌日通常通りの仕事に戻ったわけですが、このツクル森での時間は、なんだか浦島太郎に出てくる竜宮城のような感覚を私に残してくれました。
日本各地にお祭りやこうしたフェスがあれど、ちょっとひと味違うこの感覚はなんだろうと考えてみたのですが、まず感じたのは、日本で守られてきた里山文化と、世界を俯瞰したクリエイティブな感性が融合することから生まれる無国籍感なのかな、ということ。
それには、移住者の多様性を受け入れる地元の人の懐の深さが大きく影響することは間違いないし、移住者もそれに甘えず、しっかりと地元の人との協働生活に貢献する姿勢も大事。
京北の場合は、このようにバランスの取れた人間関係がコアな種火になり、そこに豊かな自然と歴史的背景も相まって、有機的にコミュニティが動いているのだろうと感じました。
ボランティアでこれだけの規模の祭りを企画運営してくれたスタッフのみなさんに心からの敬意を表するばかりです。
これからはこうしたコミュニティ同士が連携し、人間や情報が繋がっていくことで、現在人口が集中しすぎている都市部から地方へのゲートウェイができ、バランスよく生きる人が増えるといいな。
新しく幸せな生き方を感じられるコミュニティが、日本にたくさん出てきてくれることを願いますし、私もその流れに乗っていくために、来年もこのマジカル・ミステリー・ツアーに参加したいと思っています。
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映画監督松井久子が編集長となり、生き方、暮し、アート、映画、表現等について4人のプロが書くコラムと、映画づくり、ライティング、YOGA等の…
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