『歴史好きのための古文書入門』
高尾善希・著 柏書房
「私、上杉鷹山が好きなんです」
「へぇ~、じゃあ米沢に行ったり彼に関する文献を読んだんだ」
「いいえ…童門さんの本を読んで立派な人だなぁって」
「へぇ~…」(「物語の話かい!せめて内村鑑三の『代表的日本人』を読んで…って言って欲しかった…」)
近頃はかなりマニアックなところまで掘り下げた歴史好きも増えているが、小説やゲームの登場人物として歴史上の人物に触れ興味を持ち始める人も多いので、核心部分に触れずに他の人の受け売りで過去の人の思想を論じる人が少なくない。
その代表格は心理学者アルフレッド・アドラー。
「アドラーの考えっていいよね」という人に「へぇ~…じゃあ『子どもの教育』とか『人生の意味の心理学』とか読んだの?」と聞くと10人中10人が「それは知らないけど『嫌われる勇気』なら読んだ」と答える…あれはアドラーの著書ではなく岸見さんの著書(笑)
せっかく入り口で感銘を受けたならもう少しその世界の奥に入ってほしいなって思うんです。
この本は比較的読みやすい江戸時代の古文書にスポットを当てた古文書解読入門書の性格も備えつつ、我々が学校で「日本の歴史」として習ったものをどう捉えたらよいのか?歴史小説と歴史の事実をどのように捉えるべきなのか?…という歴史に触れる上での心構えに関する問題提起…「歴史好き」を自認する人達に、私達が「歴史」だと思っている「歴史」の意味についてもう一度考える機会を与えてくれる「歴史好き」必読の書と言ってもいいくらいの名著である。
私は大学時代「日本経済思想史」というゼミを専攻、自身の研究テーマは佐久間象山だった。担当教授は二宮尊徳、石田梅岩、横井小楠研究の第一人者。その担当教授から口酸っぱくいわれたのが「象山の著作の原文を読み込みなさい。そして出来るだけ多くの時間(象山の故郷・長野県長野市)松代に行きなさい。」だった。
さすがに象山直筆の文章を読むだけの知識・経験・時間もなかった私ですが、くずし字中心の直筆の文書を楷書に改めた翻刻文が収められた全集を国語辞典・古語辞典・漢和辞典に助けられ読みまくった覚えがあります。
近頃、歴史に並々ならぬ興味を示している長男に対して「お前さんが学校で教わった歴史が本当の史実とは限らない」「本に書いてあることだけでなく、必ず歴史の舞台、原文に触れなさい」と教えを説くお父さんとして、最近民俗学に興味があるのだが、昔の人が書いた文章や石碑の銘が読めないのが何といっても不都合…などの理由からこの本を手にした次第。
しつこいようだが「歴史好き」の人には一読賜りたい、「史観」とはこういうものなのかと再認識させられる…本当は学校で歴史を学ぶ前にこのあたりを頭に入れておかないと「前提条件」がない状態で問題と向き合っているという中途半端なことに気付かない怖さがあるのだが…