半笑いのスイカ
「昔さ、志村けんがコントで半月切りのスイカをスゴい速さで食べてたの知ってる?」
「あぁ、見たことあるかも。」
「あれさ、子供ながらに『志村スゴいな』って思ってたんだけど、今思うと反対側を削ぎ落としてカメラに見える面だけ薄く残してたと思うんだよな…」
そんなに細かく分析する必要もないことなのだが、夫は真剣な口調で呟きながら、私に見える側の面を残しスプーンで丁寧に削り、その削りカスを嬉しそうに口に運んでいる。
「よーし、できた。ほれ、どーだ!」
「わぁ、スゴい。普通のスイカに見えるぅ!」…と言ってあげたいところだが、スイカの向こうから南の日の光が逆光でも透け、ものすごく水っぽそうなスイカがこちらを見て笑っている。
「わぁ、すごいわね。」
夫の余りにも嬉しそうな顔に全面否定することもできず、恥ずかしさを覚えるほどの社交辞令的な返しをしてしまう。
「よーし、見てろよ…あっ、あー!」
大人げなく力を入れて事に臨んでしまった夫はスプーンをスイカの上に落としてしまう。向かって右の皮との境目の実が剥がれた壁紙のごとくベローンとなってしまった。
「うわー、嘘だろー。苦労したのにー。」
悔しがる夫の大騒ぎに呆れて半笑いする私の顔が鏡に映っているかのような姿のスイカがテーブルの上に。