「行きつけの田舎」礼賛
長野県の山間市町村での重点施策として必ず話に上がってくる「移住促進」の話。
「住むのに良いところだよ」といわれ、自分でも何となくそう思えてても生活の拠点を移すということはかなりの決断がいる。
「ネット社会となった今ならどこでも仕事ができる」という言葉もよく耳にしますが本当にそうなのか?
1959年の統計では全就労者における雇用者(サラリーマン)の割合は約50%、時を経て2005年の統計では約85%に増加しています。
昭和30年代と令和となった今日では就労形態や勤務形態が異なっているため一概には言い切れませんが、サラリーマン=雇われ労働者は、自分の働く場所の所在を自由に選択できない(自分の意思でその会社に所属していますので最終的な選択の自由は雇用者自身にあるのですが、実際問題自分の将来を考えた場合自分の本当の意思に沿った決断ができるのかは難しいものがあると考えます)、自由に住む場所を決めることができない人が増えているとも推測することができます。
ここからは私の個人的感覚で何の裏付け資料もありませんが、多分サラリーマンの8割りくらいが「別に絶対に貴方でなくても代わりはある程度誰でもできる」仕事をしているのではないかと。
特に私もそうですが転勤や担当替えがある仕事。ある日から他の人に仕事をバトンタッチできる、同等程度の経験で同じサービスが提供できて会社の利益に影響が出ない…このような仕事に長年従事した人が、たとえ一定の準備期間を持ったとしてもある日から自分で生活するだけのお金を稼ぎだし始めるというのは簡単なことではありません。
もし何らかの理由で今の会社を去るとしてもまたサラリーマンとして就職するのが一番現実的。
そう考えると住む場所の近くに雇用してくれる企業がないとダメですし、なるべく沢山の企業がなければ選択の幅は狭まり、その近くに住もうとするプラスポイントは低くなるわけです。
以前ある地域で移住促進のイベントを開催し、移住者からの体験談を語ってもらおうと募ったところ、その全員が個人事業主だったという話を聞いたことがあります。元サラリーマンで退職後に夫婦で移ってくる方も多いと聞きます。
ただし、私はこの就労問題のクリアの他にもうひとつ移住のプラスポイントとなるものがあると思っています。
それは「縁」。
私の両親は長野県飯田市の出身。私が現在住んでいる長野県松本市は生まれ育った場所ではありません。既に親も松本市に家を構えて35年以上になりますが、そういった意味では私も「移住者」です(まぁ、元々定住地があったわけではないので一般的には『転勤族』と呼ばれていますが)。
中学3年生の終わり…既に4年松本市に住み、親も我々子供たちもそれなりに地元の人との繋がりができていました。なので父が松本市に家を買うと決めた時、家族の中に全面的に反対する人はいませんでした。ただ、父は今後は単身赴任になることが決定いたしました。父の会社は長野市に本社があり主に長野県内の支店への転勤でしたので「松本市なら東西南北どこに行くにも真ん中」ということで松本の地に決めたようです。
私の場合、父親の転勤という「きっかけ」で松本市を選んだわけですが、そうでない方々にどうやってその地域との「『繋がり』のきっかけ」を作ってもらうか…
そう…「繋がり」を作るのではなく、「繋がりの『きっかけ』」を作ること…んっ、何が違うの?
例えば…久しぶりに会った友達が近頃ランニングにハマっていると話している…コイツ、昔は運動音痴だったのにナゼだろう…「きっかけは?」と聞きたくなりますよね?
仕事終わり上司に誘われて初めて訪れる居酒屋…なかなか雰囲気もいいし料理も美味しい。上司はマスターと仲良く話しているからきっと常連なんだろう。「課長、この店によく来るんです?」「そうだね、もう10年くらいになるかな」…「へぇ、そんなに長く。きっかけは?」
何かを新しく始めるには必ずこの「きっかけ」が必要なんです。
「繋がり」を求めようとするより、「『繋がり』のきっかけ」を増やす方が最終的に繋がる機会が増えるということです。
ある地域との「『繋がり』のきっかけ」として私がよく口にするのが「通える田舎」「馴染みの田舎」「行きつけの田舎」って言葉。
長野県の中山間地域でも意外と知られていないがどこに行くにも真ん中という場所が結構あります。
長野県東筑摩郡筑北村。松本市から長野市に向かって北へ行った山の谷間の地区。特に有名な観光地もないので長野県民でも知らない人もいそうな村。
この地域も人口減少に悩んでおりますが、この村は長野市、上田市、安曇野市、松本市など長野県内の北中部の主要市に車で約1時間程度で行くことができます。おまけにJRは通っているし高速道路も村の真ん中あたりの麻績村に麻績ICもあり交通の便も悪くない。
北安曇郡池田町。雄大な北アルプスが眼前に広がり自然が豊かですが、北に隣接する大町市ほど雪は多くない。町内に大型スーパーが2軒もあり、高瀬川を渡れば安曇野市も程近く日々の買い物には不自由しない。ただ、この町は電車が通っていないことがマイナスのようにいわれている地域です。しかし、東部の山間の地域を除けばJR大糸線または篠ノ井線の最寄りの駅に車で15分程度で行ける…悩むほど不便な場所でもない。こちらは安曇野市・大町市には30分もかからず、松本市までも1時間も要さずにいくことができます。なのに燕岳の中房温泉登山口までも1時間かからない、山好きにはたまらない地域だ。
まずは週末や休みの日にこういった地域から「お気に入り」をチョイスして通ってみる。
今はSNSがあるから、面白そうなことをやっている地域や団体や人を探すのは簡単だ。
僕はネット上のみで人と深く繋がるっていうのがなかなかできない人間なので、気になる人や団体を見つけたときはネットでちょこっと繋がった段階でその人や団体、地域のイベントに顔を出してみます。その時に「いつもSNSを楽しみにしています」と言うと相手は必ず「どのフォロワーだ?」と気にしてきます。そこで「なぁ~んだ、貴方ですか」とその場で話が膨らむときもあるし、後でその人がそのイベントに関する投稿をしたときに「今日はありがとうございました」と書き込めば「あ~、貴方だったのね」とネット上での関係も強いものになります。
話は移住から逸れますが、このイベントなどに顔を出すときに結構重要かなと思うのが「独りでなく家族(独身の人なら友達)と行くこと」。
それぞれの事情、考えがありますので結婚や子育てが人生の最重要課題とまでは言いませんが、奥さんや子供がいると「あ~…この人は世間一般における『普通の人』だな」と思ってもらえるんです。
私は写真を撮るのが趣味なんですが、街角で気になる人がいると盗撮するのは嫌なので声をかけて撮らせてもらうことがあるんです。このとき私独りで声をかけると十中八九断られます(そりゃあ、40代後半のおっさんに声かけられれば引きますわ)が、面白いことに子供を連れて歩いているときに声をかけるとOKしてくれる人が多いのです。
昔、岐阜県高山市の街中で美味しそうに飛騨牛の握りを食べている学生の数人組がいて、あまりに美味しそうに食べているものだから「写真撮らせて」って撮ったことがあったんです。お礼を言って立ち去る後ろで学生たちのヒソヒソ話…「突然食べてる写真撮らせてって…あの人、変じゃない?」「大丈夫でしょ、子供連れてたから」って(笑)
その後、ネット上で情報交換を続けていて後日またイベント等で再び顔を会わせると「あれ、今日奥さんは?」とか「お姉ちゃん、大きくなったねぇ」と話題にも家族の話が上がる…そうすると徐々にその地域に対する思いも深くなっていくのです。