在宅生活をスタートさせるということ②
【退院後編】
紆余曲折はあったが、なんとか無事に 私たち家族の在宅生活はスタートした。それから15年、実に多くの人の手を借り、支えを得て、今なお楽しく自宅で暮らしている。
しかし最初はとにかく不安であった。特に私。平日は朝になると夫は仕事に出かけていく。平日はほぼ毎日、日中のいずれかの時間に訪問看護師さんが訪問してくれる。とは言え、せいぜい1時間程度のことで、それ以外の時間は基本的に私は1人であつぼんの様子を見ることになる。最初のうちは本当に緊張していたし、夜中に呼吸器の緊急アラームがなっても素早く対応できるように、熟睡はしないように、そして途中に何度かは状態観察のために起きるよう心がけていた。
幸い、夫婦ともに性格的に、追い詰められるタイプではないので、その状態がしんどいとかつらいとか思うこともなく、次第に適度なルーズさを身に付け、今に至る。
こういうケアが必要な子のケアということになると、両親の次の人員は祖父母や親族となるパターンが多い。しかし私たちは、祖父母にはあつぼんに対して過度に責任を持つ立場になってほしくなかった。とにかく役割としては「ただただ孫としてかわいがる人」であることを求め、大いにその期待に応えてもらっている。とは言え、ついつい私は妹(あつぼんの叔母)には甘えがちであることは認めなければならない。素直にありがたいと思う。
親族に依存せず、親だけで、となるとその生活は、やがて破綻したりひずみが生じるのが定石である。
訪問看護ステーションの所長さんから、退院直後から、介護事業所のヘルパーを利用することを勧められた。その頃は、義母や私の妹に通院の同行をしてもらっていたので、これをいつまでも続けるわけには行かないとも思っていた。
それに閉鎖的になるのではなく、いろんな人の知恵を借りて、自分たちの気持ちが後ろ向きにならないように、ちょっと前のめりなくらいに生活をオープンにしていこうというという思いがあった。そこでヘルパーさんにも居宅サービスや移動支援に入ってもらうことにした。今まで多くのヘルパーさん、看護師さんに関わってもらい、暮らしてきた。もはやなくてはならない存在である。
新しいことを取り入れるということでもう1つ。レスパイトという制度がある。あつぼんのようにケアが必要な子や人の家族に休息の時間を確保することが目的であるのだが、病院や施設に1泊から数日程度の短期入所をさせるというサービスである。
夫は実は消極的だった。しかし私が病院だか誰だかの勧めで早い段階で始めた方がいいと言われたといって意気込んだ。
結果、お試しで預けたその1時間後、あつぼんは謎の急変体調不良を引き起こし、親を施設に引き戻すことに成功する。夫は息子をこんな風に家から(俺から!)離すようなことをしたからだと言い、二度とレスパイトは利用しないと宣言した。
多くの家庭で利用しているサービスであるので是か非かという問題ではない。ただ単に、我が家には合わない形であったというだけである。しかしこの事で、良さそうと人が勧めるものをなんでもかんでも取り入れるのも考えモノだな、とも思った。真に今、我が家にとって必要かということを家族でしっかり話をし吟味し、導入するかどうかを見極めることになったきっかけにもなった事例である。
何でもそうだが(宗教や健康食品なども)誰かにとってものすごく良いものが、すべての人にとってもすごく良いものかどうかはわからない。在宅生活のベテランになってくると、逆の立場になることもある。人になにかを勧める時には、押しつけすぎないよう「こういう選択肢もあるよ」という程度に留めておきたいものである。