リリエンタール_表紙

オレ達は善良さに飢えている 〜賢い犬リリエンタール〜

 ※この記事は一部ネタバレを含みます。

どうもMr.ストマックです。 

早速だが皆さんは「賢い犬リリエンタール」という作品をご存知だろうか? 


この作品は『週刊少年ジャンプ』にて2009年42号から2010年23号まで連載されていた作品である。
全4巻だ。ちょうど良い長さだ。思い立ったらすぐ読み返せる。
そして作品の世界にどっぷりとトリップできる。
そして愛さずにはいられないのだ。

この作品にオレはずっとずっと惚れ続けている。
読み返すたびに何回も何回も何回も涙を流してしまうのだ。 

一応あらすじくらい書いておこう。

弟が来るのを楽しみにしていた、てつこと兄。けれど二人の前に現れたのは喋る犬だった。その妙に賢い犬リリエンタールは自分の身体が光ると不思議なことを引き起こす。そんな二人と一匹の日常と優しい人々がおりなすハートフルでSF(少しふしぎ)な人の胸を打つコメディ作品である。

何故この作品はオレの心にこうも真っ直ぐ届き、涙が出るのか考えていこうと思う。 


唐突な自分語りになってしまって申し訳ないんだが、オレは人からの善意を素直に受け取れなかったりする。
この一言じゃあまりにも印象がアレなのでもうちょっと言葉を足して説明させていただくと、善意だけじゃなく人からの言葉や感情を上手く受け取れなくなってきている気がする。

あくまで個人的な考えだが「大人になる」ということは「様々な妥協を知る」ことだと思っている。
もう一つ、沢山の情報が溢れている今の世の中だからこそ「色々な話を無意識のうちに疑うようになった」かもしれない。

もちろん「大人になる」につれてプラス的感情な楽しいことも下世話なことも大量にあって日々をなんとなく楽しく過ごしいるが、子供時代の自分と一番変わった所はそんな感じじゃないかと思っている。

これに関してオレは、大人になる成長過程でどんどんと良かれ悪かれひねくれていくからだと思っている。あと予防線を張る。大人は予防線を張るのだ、傷つきたくないから。

自分がまっすぐじゃなくなっていくからまっすぐな感情が受け入れがたくなっている。
純粋かつド正論な善意を受け取ることにだんだんと怯えが生じてきているのかもしれない。


しかし

リリエンタールは超当たり前のことを言ってくれる。

上記のシーンは異空間へ落ちそうになった、自分を狙う強盗を助けた後の一言だ。

当たり前だ。誰だって暗い所に落ちるのは怖いんだ。
でもそれを自分のことを狙ってた悪者に言えるだろうか?


オレ達大人は余計なことを考える。
妥協を知り、疑うことを覚え、ひねくれていき、予防線を張る。

だから善意の感情はみんな持っていても、それを即座に引き出すのが難しくなっているのかもしれない。

リリエンタールはまっすぐで、正直で、そしていつも本気だ。
思考にノイズが一切ない、混じりっけなしの感情や言葉。
だから俺たちの胸を打つのだろう。


この作品で凄く好きなシーンを一つ紹介させてほしい。

このシーンは幽霊船と言われた無人の船の中を、自分が死んだことに気づかずに彷徨っている幽霊の女の子が成仏するのを引き留めるシーンである。

この幽霊の女の子は未練があるから成仏できないとかのタイプではなく「自分の死を認識できていない」だけだったので、元の世界に帰るために登場人物の一人が、幽霊の女の子に対し自身の死を認識させ成仏させようとする。


リリエンタールの言葉は続く。

オレ達は仮にこの幽霊の女の子がそのまま成仏して、元の世界にみんなが帰ったら「晴れ晴れしい気持ち」になれるだろうか。

きっとなれない。

そしてリリエンタールの言葉を聞いて初めて作中の登場人物は自分の気持ちに気づくのだ。

怪談話を聞いて何となくスッキリしなかった自分の気持ちがリリエンタールの言葉でクリアになる。そして「みんなで」家に帰るのだ。

これを最高のハッピーエンドと言わず何と言えばいいのだろう。


複雑な感情や現象をリリエンタールはまっすぐな言葉とまっすぐな気持ちで簡単にほどいてしまう。そう、優しさは簡単でなく、しかし簡単でもあるのだ。

リリエンタールという主人公を通して周りの人間たちは、自分がないがしろに、後回しにしてしまっていた大事な気持ちを取り戻していくのである。この周りの人間とは作中の人物のみならずもちろん我々もだろう。

オレ達はノイズまみれかもしれない。
でも善意であったり優しさであったりは確かに持っているはずだ。

どうか一度皆さんにこの作品を読んでほしい。
リリエンタールがオレ達の善意に触れてくれるだろう。
色んなノイズをまっすぐに吹き飛ばして。


とまぁポエミィなダイマをしてしまいましたが本当にオススメです。
特に物語のラストは必見。全ての伏線が完璧に回収され、全てのキャラクターがあるべき場所に収まりストーリーが進行していく感じはパズルのピースがカチッとはまっていくような快感と感動があります。

特にコミックスでは最終話に大幅な加筆修正が施されており、丸々1話描きおろしも収録されています。この描きおろしがまたいいんだマジで・・・もちろん本編最終話も最高なんだけどさ・・・。
ジャンプ本誌で読んでたなぁ、なんて人は是非この機会にコミックスを!マジでまとめて読む快感がこの漫画にはあります。

ともかく大名作だと思ってます。最高峰の完成度だと思っています。少しでも興味が湧いた方、是非ご一読を!

※画像は全て「賢い犬リリエンタール 1巻 集英社」より引用

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