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木彫人形のこだわりポイント

前回のエピソードからもお分かりいただけるように、今回八代が人形を作るにあたってこだわったポイントはたくさんありすぎるのだが、もうひとつは、関節を木で表現することだった。

徹底的にこだわった造形美

一般的な人形の脚は、しっかりとしたアニメーション用の関節が仕込まれており、バランスを取ればその足で人形自身の体重を支えることができる。しかし今回は関節自体も木でできており、機能よりも美しさを優先した「見せる関節」になっているため、通常の関節に求められる機能を全く満たしていない。
この作品の人形たちは、体を持ち上げると脚は操り人形のようにプラプラとしているので、タンクがなければ自立することすらできない。すなわち、アニメートさせるのがとても大変な人形だった。アシスタントを含むアニメーターたちも、最初に甚五郎人形を触った時には、通常の人形との違いに全員が戸惑いと驚きの表情を浮かべていた。しかしその人形たちが映像の中では力強く踏ん張ったり飛んだりしているので、ぜひそういった視点でもう一度映像を見直していただけるととても嬉しい。

足の関節についての八代のこだわりを聞いて、
稲積はどうしても脚の関節のヨリを見せたいと考え、このカットを追加したのだとか。

通常よりも形の美しさ優先で作られているのは脚だけではなく、首回りの構造も見所のひとつ。特徴的なその首回りについて、八代は服と体の間に木の枠のようなものを作り、その内部で硬いものが動いているのが覗いている(覗き見えている)状態を作り上げた。体と服を紐で縛り付けるというのは本当の人間ではあり得ない構造のため、これによって「からくり人形感」を出すことができたのは大きな発見だったという。
首回りの木のあしらわれ方が非常に特徴的なため、通常のような肩関節を肩の位置につけることができず、肩周りも独特の構造になっている。バトルシーンで大立ち回りができるようにするためには腕の根元を動かす必要があるので、首回りの木を避けるように、脇の下のあたりからグイッと腕が突き出てくるような構造になった。

造形を仕上げていく過程のこだわりポイントは「ゴリゴリとした彫り込み」。例えば髪の毛は普通膨らみがあるものだが、逆に彫ってへこませることで膨らんで見えるような「錯覚」を使っている。ノミ跡のテクスチャー感は、甚五郎の苦労してきたであろうバックグラウンドの表現にも一役買っている。

木の質感というのは、古くなるとちょっと粉を吹いたり乾いた様にカサカサする部分と、手脂などがついたりして、艶が出てしっとりしてくる部分があるのだという。八代はその質感の差がうまく絡んだ美しさを目指して、人形たちの塗装を進めていった。今回の甚五郎は、白い髪の方には日本画などで用いられる白い土につなぎとしてアクリル絵の具を混ぜて使用している。それを布やブラシでこすりつけることで、歳を重ねた肌感を出していった。

こちらは犬丸の子分のお面の制作の様子。同じ白い土を使って色付けを行った。

「服ではなく構造物を作りたい」

衣装を担当した崎村は、八代から「衣裳じゃない、服じゃない、構造物を作りたい」というオーダーを受けたという。木彫の人形を布で覆って襟を作るのでは八代の目指すからくり性が出ないと感じ、「木の構造物」を目指して八代とディスカッションを重ねながら、昔の帆船の木と帆布の扱い方や、発明されたばかりの頃の飛行機の木枠に布を張る構造、楽器の鼓(つづみ)の皮の紐の作りなどを参考にしながら試行錯誤していった。

ミニチュアの衣装や小物などは、本物と同じ製法で作ればリアルになるかというと一概にそうとは言えないものなので、今回も様々な工夫を凝らして作られている。例えば大工っぽさのある法被は、サイズが小さくても服の重さ感を出すことができるよう革の素材を使用した。左紋のデザインはシルクスクリーンでプリントし、素材をやすったりして、数十年間旅をし続けている流浪感を演出している。甚五郎は命の危険がある身なので、ただのボロじゃない、魅せるものをと意識して作られた。

背中にあしらわれた左の紋は、既に存在する家紋をベースに、デザイナーの高谷がオリジナルの紋を制作。まずはじめに、左甚五郎の成り立ちや背景に当てはまる既存の家紋を探し、「家や城を守る」という意味のある「筋違紋(すじかいもん)」をベースとすることにした。「親方との仁義を守る」という意味を込めつつ、彫刻職人であった甚五郎の大工道具の「ノミ」を使って表現した「筋違紋・鑿(すじかいもん・のみ)」という、甚五郎の生き方ともマッチするオリジナル紋が完成した。

当時の法被は、裾に角字という「正方形の中で、水平・垂直のラインのみで漢字を表現した日本古来のグラフィックアート」を入れるのが主流だったということで、角字もデザインした。縦読みで「大工」と書かれており、それを並べて配置することでパターン化している。

また、草履も全て手編みで作られた。小さい縮尺で編んで作ると、実際より硬くなってしまい、逆に草履らしい曲がり方をしなくなることがあるそうだが、今回はサイズが大きめだったので、リアルな編みの良さを出すことができた。

こうして瓜二つの甚五郎人形が完成。映像内のどのシーンがどちらの甚五郎か、ぜひ考えながら見てみていただきたい。

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