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「ストップモーション・アクション」という新ジャンルの発明

人形は木彫で、アクションもので、カメラも動かすという今回のような難易度の高いプロジェクトは、きっとどのアニメーターにとっても初めて挑戦するようなことだとみんな思っていた。しかし「人形が出来上がったら少し触って慣れたい」と言うアニメーターの稲積が次のミーティングに出してきたのは、チームの度肝を抜くこのテスト動画だった。

ジャパニメーション meets ストップモーション

プロジェクト資料の中に、時代劇を始めとする様々な侍モチーフのリファレンス画像が入っているページがあったのだが、稲積はその中にあった鬼滅の刃の画像を見て「これだ」と思ったのだという。木彫で時代劇を描くのは非常に日本らしい表現だが、では日本らしい表現とはどういうものか?と考えた時にジャパニメーションが浮かび、「世界でも評価が高いジャパニメーション的な表現で、ストップモーションでアクションを描こう」と考えた。稲積は普段からカメラワークやカメラのレンズ感を意識したり、途中でスローになるような表現は自身の手掛ける作品に取り入れていたとのことで、HIDARIのテスト映像に取り組むにあたって頭の中には明確にやりたいことのイメージがあったのだという。

動かす手が止められなくなった

テスト撮影の初日、通常の人形とは全く勝手の違う甚五郎という人形に慣れるために、まずはどんなポージングが映えるかを探った。2日目からコンテにあるアクションの動きをベースにキーフレームを探ろうと、アングルを見ながら甚五郎をポージングさせてみた。セルアニメのキーフレームのように、通常ストップモーションでも要所要所でアングルを切りポージングを作っていくものだが、甚五郎をポージングさせてみたら、もうちょっとだけ動かしたくなって、ふと次のフレームのポージングを作ってみた。そうしているうちにもう人形を動かす手が止まらなくなってしまって、キーフレームどころか、普通にアニメートさせ始めてしまったのだ。

(床が回転し、レンズも途中で変わるテスト映像のメイキング動画)

そうしてできたのがあのテスト映像というわけだ。アクションの動きは、川村監督のコンテも含めある程度稲積の頭の中にあったものの「敵がこう動いてきたからこのままこういこう」「ここでレンズを変えよう」というように、撮りながらそのシーンに最適なプランを練っていったのだという。実写のドラマなどで役者が現場でアドリブを入れるのと近しいが、稲積はアニメートしている途中で予想外のいい動きが起きた時に、最初のプランを捨てて新しいプランを採用する切り替えができるかどうかでその先のおもしろさが変わると常に感じているのだという。

攻め切った画とポージングが肝

ストップモーションは、1コマ1コマを積み上げながらアニメーションを作っていくが、稲積曰くちょっとずつ動かしながら滑らかさを優先してアニメーションさせていくやり方をすると、キーフレームが攻めきった画にならず、中途半端になってしまうことがあるという。ここでいう「攻め切った画」というのは、完璧な人形のポージングとカメラレンズとの距離感が理想的に組み合わさり、まるで漫画における迫力のある一コマのように見える状態のことをいう。稲積は、この「攻め切った画」をつくることがアニメーションのなかで最も重要で、なぜならこれがうまくいくと視聴者の記憶に画が残る効果が高まると考えているからだ。

たとえばキーフレームのポージングと人形とレンズとの距離感がイマイチだが、動きの緩急が滅茶苦茶良いアニメーションがあるとしたら、視聴者の頭に残るのは「動きが気持ちよかった」という記憶のみになってしまう。もちろんそれも大切ではあるが、手作りでつくられた人形の素晴らしさを引きだし、そして何より人形が語ろうとするストーリーを明確に伝えることの方がより大切であり、それを実現するのは「攻めた画」なのだと稲積は考えている。なので、間がどれだけガタガタになっていようが、「絶対にキーフレームのアングルとポージングを実現させる!」という強い気持ちでアニメートしているのだそうだ。

アクションシーンでレンズギリギリまで寄れるのもコマ撮りならでは

稲積は師匠たちから、完璧なポージングがすごく大事であるということを学んだと語っており、今回はその学びを爆発させた。おかげでHIDARIのアクションシーンは、全フレームがまるでキーフレームかと思うほど、どのコマを切り取っても非常に美しい。稲積はジャパニメーションや漫画の表現に見られるワイドレンズ感、無茶なパースや誇張の表現をストップモーションに落とし込み、「ストップモーション・アクション」という新たなジャンルが生まれることとなった。



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