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肘掛犬誕生秘話

「肘掛」がほしかった

犬丸の人形を作ってる時に、小川のこのスケッチを見ていて、犬丸用の脇息(肘掛)と煙草盆が必要だという話になった。
犬丸ロボと合わせて武内が担当するか、人形を作った八代が担当するかと話していたところ、八代に少し時間の余裕があるということで、犬丸の手のサイズに合わせて八代が担当することになった。

本当にただの肘掛が出来上がってくると誰もが思っていたが、次のミーティングの時に八代が「肘掛作りましたー」と言って出してきたのが、まさかの、犬だった!(笑)

犬だ!犬だ!

まだ犬丸のキャラ設定について話していた頃に見ていたリファレンス画像の中に、悪者キャラの持っている杖の頭がライオンになっているようなものがあった。様々な都合もあり、最終的に犬丸は座っている演技のみになったが、そんな過去の会話を振り返って八代は「あの杖のように、肘掛のどこかに愛でれる犬の頭があるといいかも」と思ったらしく、肘掛の形をダックスフンドの形にして、撫でられる頭のある肘掛を作ってきたのである!ただ、この時八代としては「これは犬の彫刻であって、生きてる犬にしたつもりはなかった」とのこと。(しかし作ってみたら八代が見ても生きてるように見えてしまったらしく、ちょっと死んだ目にして彫刻感をプラスしたのだとか。)

しかし肘掛のような犬を見せられたスタッフは大興奮。
イマジネーションが止まらず、「え、これ動くんですか?」「動いて欲しいー!」「甚五郎の猫に対して犬丸は犬っていうのがすごくいい!」「尻尾は動きます?」などなどあっという間に盛り上がってしまった。動かない設定なのだと説明する八代に、アニメーターのオカダも「こんなの見たら動かしたくなっちゃうじゃないですかー!」と言ってしまった。

「そうか、動いてもいいのか!」と思った八代。なんとその日の夜に、手足と尻尾が動いて、舌も動かせるバージョンを作って、翌日のミーティングに持ってきたのである。最高のパスミスから素晴らしいゴールが生まれた瞬間だった。あっという間に彫り上げてしまうそのスピード感はまさに現代の甚五郎そのものである。

左が動かない初号機。右が手足と尻尾が動く、命の宿った2号機。

そして清涼剤になる

肘掛犬の誕生は偶然の産物だったが、犬丸はただの悪者なのではなく、実は動物に愛があるという設定を加えられたことで、ちょっとだけ人として深みが出たことは、原作者の川村としても喜ばしいことだった。今回のパイロットフィルムでは語られていないが、昔は甚五郎と犬丸は仲の良い仲間であり、彼も最初から悪者ではなかったのである。また、甚五郎が猫を愛してるのと同じように、犬丸は犬を愛していて、愛しすぎるあまり肘掛けにしてしまうくらい性格が歪んでいる人間であるということを、わざわざ説明せずに表現することができたのも良かったポイントのひとつである。

肘掛犬の誕生により、肘掛犬がトップカットを飾ることになり、そして、ロボが起動する際に主人を気にしながら逃げ去るカットも追加された。撮影香盤が切迫しまくっていて、逃げ去りカットは時間的に無理だったら撮影を諦める可能性もあったため、このカットは現場で「ドリーム」と呼ばれていた。1ヶ月間に及ぶ撮影で、アニメーターのオカダが手掛けたシーンのラストを飾ったのはもちろんこの「ドリーム」である。
バトルシーンが終わり、驚いてあたりを見回す犬丸の動きに合わせて実は肘掛犬も周りを見回していたりするので、彼の細かな演技にも注目してもう一度見ていただけるととても嬉しい。

ちなみにこの肘掛犬の声は…なんと川村監督の声!(笑)


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