リレー小説 No.4 『狐の嫁入り・前途多難』

おはこんばんにちは。Team:Clutch のかめです。
リレー小説 No.4 の記事担当となりましたので、小説とそれに対する振り返りを少し書かせて頂きます。

テーマ『狐の嫁入り・前途多難』

執筆時期: 2020/03/22~2020/07/28

一体、どうしてこんな日に!?
今日ばかりは寝坊してはいけないといつもより目覚ましの時刻を
早め念入りに複数セットしておいたにも関わらず、寝坊してしまい頭を抱える。
しかし、いつまでも項垂れている訳にもいかない。今日は大切な姉の嫁入りなのだ。
急いで身なりを整え足早に廊下を駆ける。すると廊下の突き当りで両親が話し込んでいた。
両親の話をまとめるとこうだ。
姉と新郎が当日に喧嘩をし、不貞腐れてしまい、姉が部屋に閉じこもった。しかも、説得のため式場に向かおうにも、車の調子が悪く出発できないと。
それを聞き、決心した。かの傍若無人な振る舞いをする姉を正せねばと。
両腕を振って、正義の矢を発射するかの如く、玄関から走り出た。すでにあたりは、夜だった。
疎らな照明灯は、山道を闇が切れ切れに分断することを許してしまっている。
ただ幸いなことに、晴れた月夜のもと、夜目を効かせば駆け抜けるのには十分だった。
少々感傷的だったことを自省しながら思い馳せる。さすがの姉にだって、こんな日にこれだけのことをしでかすには、なにか重大な理由が必要なはずだ。
と、不意に足を止めざるを得なくなった。晴天の折、なぜか豪雨が地すべりして途絶した山道に降り注いでいる。ピンポイントに、そこだけに。
この現象は知っている。ああ、くそ。また姉の癇癪が爆発したのだ。
ピンポイントに降り注いでいる道を避けようにも降り注ぐ雨の範囲が徐々に広がっており、
なかなか思うようにはいかない。自棄になりながら雨が降り注いでいる中を突っ切る。
ああ、なんてことだ・・・せっかく新調したスーツがずぶ濡れになってしまった。
ようやく姉と新郎が住む新居に辿り着くと、新郎がこちらを見ながら苦笑している。
もう式の時間はとっくに過ぎ去っている。それでも姉が部屋から出てくる様子はなさそうだった。
姉は昔から癇癪を起こすと、物を揺らす、音をたてるなど、物に当たることが多かった。
しかし、静かに部屋に閉じこもっていた。
「何があったんです、一体?」
と新郎に聞けば
「なんだか色々気に入らなくなったらしい。」
と答えた。
マリッジブルーというやつだ、きっと。土壇場になって不安が爆発したに違いない。
よくある話ではあるそうだ、幸せな未来を案じて、けれどその道筋が暗中にそれるのではないかと。
ただ姉の場合、そのいっときの感情が、現在に与える影響が他人に比べて段違いだ。
異常気象がさらに実害を増す前に、姉の気持ちを持ち上げる。姉の癇癪と異常気象との関連が皆に感づかれれば結婚などともう言ってられない。言うて新郎がやれよと思うが仕方ない。
「ねえさん。他の人は入れないから、鍵を開けてくれない?」
扉の向こうからの億劫そうな物音に耳を澄ませば、逡巡の末といった風体で扉の鍵が開いた。
扉を開け、部屋の中に足を踏み入れた。姉がベッドの上で足を抱えて蹲っている。
「急にどうしたの?」聞けば、ぽつりぽつりと姉の口から言葉が漏れる。
要するに、こんな風に泣くだけで雨を降らせるような特殊な体質の自分が
新郎と結婚してもよいものか不安になったらしい。
何を今さら言っているのか。そんなことは、とうの昔に散々人を巻き込んで騒いだ末の今の結果だというのに...。
ほとほと呆れていると話を聞いていたらしい新郎が部屋へと足を踏み入れた。
「別に良いじゃないか、雨降らせたって。感情に蓋をするより、よっぽど良いし、健康的だ。」
と新郎が、姉に近づきつつ言った。
「僕はね、君のそんな素直なところが好きなんだ。」
と更に言葉を付け足した。長年、体質により悩まされてきた姉は、目に涙をためながら、新郎を見ていた。
「だから、僕と結婚してください。」
純朴な新郎の言葉に、あとはもうトントン拍子だった。披露宴中両親からの心からの謝辞で感極まったとき、世界中が虹に包まれたのも、まぁ笑い話だ。
ただ、新郎くん。あの言い方では厄介なことになるぞ。僕はもう知らないからな。あとは頑張れ。
後日。僕はTVニュース「今日の異常気象」コーナーを眺めている。局所的豪雨の下に生活する人たちを少し思い馳せながら、でも僕はもう、見て見ぬ振りをすることに決めていた。

振り返りなど

最終的に『感情の起伏が天候に作用してしまう力を持つ姉の結婚式はやはり波乱万丈で、未来も前途多難だね』という物語になりました。

このリレーをおこなっている最中のメンバーの口癖が、『これ難しいな……』だったあたり難産だったのが目に見えます。自分自身もかなり頭を悩ませていました。
(まぁ、すべてのリレー小説に対してみんな難しい難しい言ってるんですが)

他のリレー小説も同様、他者の物語を継ぐ難しさはあるのですが、とりわけこの小説が難しかった理由を振り返ったときに、バトンをまたいだ際の場面描写のズレというのが常にストーリラインを分断してこようとしてくる感じがつきまとってきたことを覚えています。

『寝坊して急いでいたのに夜』『式場に向かっていたら新郎たちの新居についていた』あたりですね。特に前者について、説明のために自分がファンタジーを持ち出してしまったために難易度が更に跳ね上がりました。しかもそんな説明できてないという。ごめんね(メンバーに向けて)。

設定描写先行になってしまって、主人公に何かしらの葛藤を感じられる描写を書いていなかったというのが反省点です。場面のズレを主人公の葛藤の説明に結び付けられたらもう少し骨太な物語(というよりは主人公がいる意味のある物語)になったのではと思います。

個人的には荒唐無稽でてんやわんやな世界観を書けたのでよかったです。

最後に

次回以降に紹介される小説は
・最長2順でまとめる(三人でのリレーなのでつまり6節までで完結するように)
・初めにやる人(初節担当)は、物語の落ちに向かえるような展開を示してあげるというルールが適用されています。

・1テーマ毎の回転率向上
・物語の冗長部分を発見する訓練

あたりを意図して適用されました。

というところで、ではでは次回のリレー小説をお楽しみに。

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