ドラム式洗濯機みたいなキスをした(第一話)
彼は色気を感じている。
彼は大学で六限の開始を待っていて、時刻は16時58分である。
窓の外では、沈み際の夕日が、暴力的な光線を放っている。
その光は彼のいる教室にも射し込んでいる。
彼の顔は、まるでオレンジ色に発光しているように照らされている。
彼は窓の方を見ていた。
正確に言えば、彼は夕日の手前に位置する横顔を見つめていた。
その横顔は逆光で真っ黒。
コロナ感染予防のマスクが、シルエットすら変形させていた。
ただ、彼女の目元は色気を放っていて、その色気は夕日の輝きよりも暴力的だった。
そう、一目惚れだった。
授業が終わった。
駅までの道。10m先を歩く彼女に小走りで追いつき、身体中にある全ての爽やかさを奮って声をかけた。
知り合い以外の女子に声をかける経験は初めてだった。
「どうも。チナさん?であってるっけ?」
「そうだよ。君は友達いないの?」
彼女が唐突に言った。
「いない。」
「チナも一人なの! じゃあさ、友達にならない? ぼっちで受けるの寂しすぎてさ。てか、チーって呼んで。」
彼は名前を確認しただけで、呼び捨てする権利と友達になる権利を得る世界を知らなかったので面食らった。
面食らった彼は、「LINE。」と呟いた。
「そうだね、交換しよっ」と知南が返した。
そして、QRコードが表示された画面を準備して風馬に見せつけた。
風馬は爽やかなQRコードの読み取り方法を模索したが、見つからなかったから普通に読み取った。
アイコンを見てみる。
成人式の振袖を着た写真はマスクを外していた。
その横には「椎名知南」と漢字で書いていた。
BGMも設定されていたが「maroon 5」が風馬には読めなかった。
「LINE」という呪文は唱えるだけで、あまりに多くの個人情報を明らかにした。
方面が違って、二人は駅で別れた。
一人になってすぐ、チナとの個人チャットに「好きな食べ物は何?」と打ち込んだ。食事に行くことが目的なのに、好きな食べ物を聞いていることがくすぐったかった。
送信するか悩んでいたら、電車が来た。
メッセージをそのまま送信し、急いで電車に乗り込んだ。
座ってから送信した内容が不適切だった気がしてきて、後悔が渦巻き始めた。
すると、スマホが揺れた。
「グミ、ラーメン、辛いもの」
チナからの返信が来た。
奇遇にも彼もラーメン好きであったから、「美味しいラーメン屋知ってるよ」と打ち込んだ。
すぐには送信せず、少し間を置いてから返信することにした。スマホの画面を暗くして、今何駅なのか確認した。
目的地まではあと15分くらい。
15分も待てば、返信に適切な間だと言えるだろう。
あの駅に到着したら送信しよう。
返信したら、食事に行けるかもしれない。
彼は目的地に到着することを待ち遠しく思った。
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