星、翼紙工停止

人知れず眺め待つ男の話。


いつのまにか、夢をみることをやめてしまった。

少年時代の輝きも、青年時代の高鳴りも。

今の自分には関係ないと言い聞かせて、

今日も暗闇の中、上を向いて星空を見る。

ああ、またいつかの、

記憶の中にある白い翼の女性に遇いたい。

小さな頃に、マンションの四階から落ちそうになった時。

不思議な体験をした。

迫るアスファルトに眼をつぶってしまった自分が、

気がつけば、ゆるりふわりと浮いて、

子どもだった自分の腰に、

雪細工のようにまっしろな手が伸びて支えられていた。

ベランダの地に足がついた頃、

緊張しながらも後ろを振り向くと、

そこには銀髪のような、

白髪の様な綺麗な髪をした女性がいた。

俺は彼女を天使だと思った。

彼女は、ハッと驚いた表情を見せた後、

俺の頭を撫でて、こう言った。

「次に会った時はわたしのことを忘れているかもしれないですね。」

眼を細めて、柔らかく笑った彼女は気がつけばスッと消えていた。

それが元かはわからないが、

俺は翼に執着した。

最初は鳥の羽根から。

そして折り紙で飛行機や鶴を折ったり。

そうしてあの人と同じように浮遊していたかったのかもしれない。

けれど数十年経った今でも、彼女が俺の前に現れることはなかった。

憎くはない、ただあの時言えなかったお礼と初恋を気持ちを、

どんな形でも良いから伝えたかったんだ。

だから、天使は空にいるものと思いながら、

地味にでも、いつまでも空を観ている。

ああ、この人生に。

淡い夢を灯しながら生きる残酷さよ。


ため息をついたあと、寒くなった場所から少し離脱しようとしたとき。

流れ星の様なモノがこちらに向かってきているのが見えた。

これは、もしかして。

と思っている内に襲って来たのは、

ありえない程の冷や汗と、

三角のとんがり帽子を身に着けた小さな小人だった。

「ヤアヤア、ソコの退屈そうな人。ボクたちとゲームをしてみないかい★」

そう言われて、俺はヤツの言葉に無意識に頷こうとして。


目の前に、白い数枚の羽根が、

落ちているのが見えた。

「その方は、残念ながら、私たちの陣営なのです。

手を出さないでいただけますか? 」

懐かしい背中をみた。

「ヤレヤレ……案外ト早かったネエ★

じゃあ、ゲームを始めようか★」

そう聞こえてすぐ、俺の視界は歪んでいった。


2020.08.06







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