この世界は、理想郷と成り得るのか。
白い光に包まれた穏やかな世界の事を理想郷というのかもしれない。
けれど、ワタシにとっての、/ボクにとっての。
外の世界は、
理想郷であったことなど一度もなかった。
肉体はおざなりに放置され、
日々の時間はため息を吐けばつく程、石化している。
こんな世界は望んでいない。
そんな苦しみは欲しくない。
空が灰色に見えることも、
部屋の中に光が入らず、
閉め切ったカーテンが重く見える程に厚くおぞましくみえる。
たまに部屋の中をうっすらと泳ぐ、太陽のゆるやかな光が、
鉛筆の尖った芯のように、鋭く残酷にみえている。
あ――またこの虚無感か。
一人だけの意識では理想を保つのにも時間がかかる。
現実の中で実現させるには、
途方もない意志と多くの命が居る。
あなたの理想はなんですか。
わたしの心はどこですか。
俺の希望はなんですか。
探し求めても。
長く時間のかかった身体も思考も、
優しさを求める指先も、
ひかりを掴んで撫でることもない。
ああ、誰か。
わたしたちの想いを移して、
ああ、誰か。
俺たちの中身を流して、
ああ、誰か。
あなたの理想郷を映して。
たくさんの視界と気持ちを覗いて。
誰かが口を開いた。
「おお、しょうがないなんて言うのは前時代的だ。
けれどこの眼が見ているのは、
きっと技術的にはまだ時間を止めることも、
巻き戻すことも出来ない世界だろう。」
――なればこそ、わたしが触れることのできない昔の、
気持ちに対して、
こう言うしかあるまいて。
過去、あなた方が生きてきた世界は、
確かに難しく悲しいモノだっただろう。
言ってみれば、その世界は。
「理想郷には成り得ない。」
けれども、今流れ進んだ世界では、
そうではないんだ。
皆が皆自分の理想を求めて、
自分の中身や想いを、電子の海たる場所へ流すことができるようになった。
だから、昔よりは幾分、悲しさも寂しさも苦しさも、
薄くすることができるだろう。
故に、今の解答をするならば、
「この世界は、理想郷成り得る可能性を持っている。」
あの頃、恐怖や虚無感で動かなかった指先で、
今は意気揚々と、空を撫で、ひかりを撫でている。
今日も空からの陽は強い、
けれども風が心地いい。