始雨-菜種梅雨の下で片く結ばれた理を。
トットット。
耳に短く切れた音が響き始めて。
次第にーーーー。
さあさあ、さらさらと。
あの日に似たような雰囲気の雨が、
やんわりとした風と共に、
アスファルトをするすると、
濃く黒く染め上げている。
アスファルトを、
濡らし塗り、染め上げている雨は優しく、
天気の良い日に、大きな公園の広場で、
野外ライブの練習をしながら、
少しだけ疲れてベンチに座ってひとつ、ふたつと、
肩を下ろして休憩していたら、
奇妙な違和感を感じた瞬間に、
塗り立てのペンキのベンチに、
しっかりと腰を落として座ったことを理解した時の、
厳しさとは似ても似つかないくらい、
そのまま浸っていたいくらいの優しい雨だった。
あの人とあったのは確かにこんな雰囲気と質感の中だった。
今よりも遥かに気持ちの落ち込みと不安、
そして心の置き所と居場所をがむしゃらに探していた。
そんな時、あの人の声がわたしの耳に入って。
歌だった、どうしようもなく水びだしになった心の中に、
スポンジがゆっくりと覆いかぶさってくるような少し、
厚くて柔らかい声だった。
柔らかい雨よりは重くても、
きっとどこのなによりも綺麗かもしれない。
柔らかい雨よりは淀んでいても、
きっと何よりも晴れやかかもしれない。
そんなことを想起させる歌声と、周りの空気感に、
あの時はわたしは固く決断をした。
安易で、薄くて、軽薄なのかしれないけれど。
この眼で見たものを感じたものに、
どこまでも没頭してみようって。
ある日野外で歌の練習をしていた誰かと、
その時初めて眼を合わせた気がした。
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