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男と女のショートストーリー 「助手席」
私が過去に書いた「男と女のショートストーリー」vol.2です。
vol.1はこちらから→note三年目の抱負と、私の過去の仕事について|teaまるお
第2話 「“ちょいプレ”を渡すなら横向きくらいがモテるんです」
その男は話を聞くのとプレゼントを渡すならクルマの中で、と決めていた。
運転席と助手席は周囲が気にならない密接な距離にいながら、ふたりの視線が交差しないことで特別な空間を作り出すからだ。
「聞いてもらったらスッキリしたわ」。
いつしか夕日に照らされはじめた道のかたわらにとめたクルマの中で、ようやく女の表情に晴れ間が見えた。
「それは良かった」。
ずっと黙って仕事の相談を聞いていた男は、女に優しいほほえみを返す。そしておもむろに「ちょっと貸して」と、女からスマートフォンを受け取る。
「無防備な戦い方もいいけど、着飾るのだって女の武器だからね」。
男はあらかじめドアポケットに隠しておいた、水彩画をあしらったスマホケースを女にプレゼントした。
金額的にはいわゆる“ちょいプレ”だが、いくつ持っていてもいいものだし、レザー製はケースの中では最高級品なのを男は知っている。
ゴールドのチャームストラップが、対向車のライトにきらりと上品に光った。
「赤くてさっきの夕焼けを閉じ込めたみたい」
女はうれしそうに男の顔を覗き込む。男は照れくさそうに正面を向いたまま、静かにクルマを発進させた。男性がはにかむ笑顔も、女性の好物なことを知りながら───。
おわり
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【第2話の裏話】
今回はクルマを絡めたストーリーを、というのが編集者さんからの要望。
1話目ではストーリーを作ることに必死すぎて、商品の良さをほとんど伝えられなかったため、今回からはもう少し商品にフォーカスしたストーリーで、という指摘あり。広告なのだから当然である。
雑誌自体のコンセプトやきまりごと、今回の企画のコンセプト、そしてストーリーコンセプト、そして商品コンセプト、それらすべてを入れた上で「男と女のショートラブストーリー」を作らなければならない。
「クルマ」というと走っている時のことを考えがちだが、「商品」を渡すことを考えれば停まった状態であることが現実的。
最初は海沿いの道にクルマを停めて、みたいなことを考えていた。画的にも映えるし、動きもあるからストーリーが作りやすいかな、と思ったけれど、なんか普通だなぁ・・・とも思っていた。
登場する男女の距離感とか、関係性などを想像していた時にふと「パーソナルスペース」という単語が浮かび、そこへ恋愛心理学的なアプローチを落とし込んだ結果、出来たのが2話目のストーリーだった。
「表情に晴れ間が見えた」という表現が気に入っている。
なお「赤くてさっきの夕日を閉じ込めたみたい」は編集者さんの言葉。私には絶対に書けなかったセリフ。なぜなら───
私には全く別の商品画像が送られていたため、その表現はあり得なかった。赤くもなければ夕日とは似ても似つかない商品。大きなミスに「・・・」だったが、ミスを責めたところで何も始まらない。
大事なことは、協力していいものを作ること。
結果としていい雰囲気のストーリーに仕上がったのでよかった。
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