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ナットウキナーゼの話

十五年以上前に店を作り直した時、厨房にグリストラップという設備をつけることになった。

シンクから排水管を通じて流れるもののうち、細かい固形物は沈殿させ、油分は上に浮かせて、真ん中の液体の部分だけを下水に流す沈殿槽で、これは法律で設置を決められていた。

床の下にあり、定期的に固形物と油分を取り除かないと悪臭がし出す。

それらをすくって、燃えるゴミとして出す必要がある。

毎日やるのが理想だが、大変な仕事で、設置した水道屋さんからは、週一回はやるように、とのこと。

その時からずっと、それら固形物や油分をどんどん分解、食べてくれる菌を繁殖させられないか、と考えていた。

そういう商品もあったが、さらに必要な設備を取り入れる必要があり諦めた。

腐って悪臭がするのは、酸素がいらない菌が繁殖し、その菌が栄養分を分解する時に臭いを出すからだそうで、好ましい菌を繁殖させる設備とは、水温を上げ、日常的に槽の中を撹拌して沈殿している栄養分にしっかり酸素を入れることで、悪臭を出さない菌が優勢になり、分解が促進される仕組みとのこと。コンポストみたいなものか。

日本酒作りの杜氏が、日本酒の元になる米の液体の入った巨大なタンクの中を櫂で撹拌している映像を見たことがあると思う。

あれは空気を入れて、コメの栄養分を分解してアルコールを作る酵母菌の発酵を促進させるため。

酵母菌は酸素が必要で、悪臭を出さず、コメの栄養分を分解してアルコールと乳酸(酸性になる)を作り、それによって他の菌が死ぬらしい。

一時、日本酒のことに興味があって勉強していた時に、面白い話があった。

酒造りの間は、納豆を食べては行けないそうだ。

なんで納豆だけなんだろう、と不思議に思ったがそれ以上に深掘りをせずに忘れていた。

 ◇ ◇ ◇

先日、偶然ユーチューブのオススメに上がってきた動画に仰天した。

雑草だらけの畑が、なんと納豆菌を利用することで雑草を根っこごと枯れさせるだけでなく、肥料にしてしまう動画だ。

ぬるま湯の入った容器の中に納豆を数粒入れて、砂糖も少し入れて時々撹拌すると、納豆菌の繁殖した液体が出来る。

それを、雑草だらけの畑に撒いて、晴れが続く日にその上に黒いビニールシートを被せて3日置くと、雑草は蒸れて弱り枯れ、納豆菌によって分解されて肥料になってしまうという動画。

そんなに強いのか。

他にも似た動画がいくつも出てきて、それを見ていると、いろんなことが分かった。

納豆菌は100度近い高温にも耐え、乾燥にも強く、酸性やアルカリ性にも強いらしい。

ぬるま湯を入れた容器の中に、納豆粒、あるいは納豆の入っていた容器、コメの研ぎ汁やご飯粒、砂糖などの炭水化物を入れて置いておくと納豆菌を繁殖させることが出来る。

病気になりかけた植物には、病気にかかった葉っぱを取り除いた上で、この液体を薄く撒くと、葉の表面が納豆菌でコーティングされて病原菌が入り込めなくなるという。

恐るべし、納豆菌ですね。

日本酒作りに納豆が厳禁なのは、酵母菌よりも強いからなのか。

 ◇ ◇ ◇

と言うことは、ひょっとしたら…

そこで、自分でも、納豆菌を培養してみることにした。

簡単だ。普段食べている納豆のパックをぬるま湯の中に入れて、ご飯を炊いたガス釜にこびり付いた米粒を入れて放っておく、たまに撹拌して酸素を入れる。

それだけだ。

培養した液体を、グリストラップに入れてみた。

それから1週間。

そんなに変わらない気がしたが、変化を感じたのはステンレスだ。ステンレスは軽く拭くだけでピカピカになった気がする。

ステンレスの表面のごく微妙な凹凸の汚れを分解してくれたんじゃないだろうか。

納豆菌は、炭水化物だけでなく油分やタンパク質も分解するようで、グリストラップの中も、少し様子が変わった(気がしなくもない)。

これで、栄養分を分解した後の臭いが納豆臭く、それが厨房中に広がったらさすがに不味まずいが、そういう臭いは全くない。

気を良くして、今日もまた納豆菌液を作った。

どうしても、汚れに手が届きにくいところ、落ちにくいところに撒いてみた。

少しずつでも分解されて、後に軽くこすったりするだけで落とせたら、いい。

是非、皆さんもどうですか?

お風呂の中に食べ終わった納豆の容器を入れて入浴したら、お肌表面のカスが分解されてスベスベになるだけでなく、浴槽もピカピカ、排水管も綺麗になったりして(笑)

…結果は自己責任でお願いします。

では。

納豆万歳。