インバウンドと自転車と長渕剛
大学時代に所属していたサイクリング部と、長渕剛のことを考えていたら、ある人から電話がかかってきた。
「おい、元気〜!実はさ、ちょっと相談があって。」
彼は学生時代、大学のサイクリング部に所属していて、自転車でアメリカ大陸を横断したり、様々な自転車関係の団体に顔が広く有名人だった。
大学は違い、学年は一つ上。
私は彼のアメリカ横断の旅行記を読んで、自分も海外を自転車で走ることを決意、彼に連絡をとった日から、今につながる腐れ縁である。
自転車雑誌の編集、アメリカの自転車メーカーでのマーケティング、日本の自転車ショップチェーン本部などで働き、今は日本の自転車業界の中心的な組織で働いている。
彼のところには今、いろいろな自治体から問い合わせが来ているという。
自分の自治体にインバウンド客を増やしたい、そのために自転車ツアーも検討していきたいし、海外に自分の地域の魅力を発信できる人がほしい、と。
私は25年くらい前に、外国人向けに日本国内のサイクリング情報を提供することを始めて、今はFacebookグループがメイン。参加者は5300人強になった。
何ができるかなぁ、と考えていると天ぷらを買いにお客さんが来たので、それではと電話を切った。
彼も長渕剛が好きで、大学時代のサイクリング部や長渕剛のことをまさに今、考えていたときに電話が来たので不思議もんだなぁと思った。
よくキャンプしながら、夜中まで一緒に長渕剛の歌を歌った。
私が所属していて部長を務めていたサイクリング部は、当時、学生サイクリング部では日本で一番大きかった。
表面的には偉そうにしていたが、自分の同期だけでも40人くらいいて、彼らをまとめるだけでも大変だった。
そもそも、自転車で旅をする(という本来自由であるべき)クラブでありながら、準体育会のようなしっかりした組織であるべき団体でもあるため、一人ひとりの価値観が違いすぎて、総勢120名をまとめるのは至難の技。
結局、自分の意見をまとめる前に、部長としての一年の任期は終わってしまった。
その間、顔では笑っていたが、正論を言う声のデカい同期からの突き上げが激しく、内心は辛くキツかった。
当時、長渕剛に支えられていた。
世の中で「アンプラグド(unplugged)」と言って、アコースティックな楽器だけで演奏するのがロックグループでも流行っていた頃に、長渕剛はアコースティックメインのアルバム「STAY DREAM」を発表。
その最後の曲、タイトル曲の「STAY DREAM」
死んじまいたい苦しみがあっても、塞ぎ込んでも答えはない、あきらめないで、子供のように、と歌う。
その歌詞の中に「そんな夜は心で いのちの音を聴け」というのがある。苦しい時は、自分の心臓の鼓動を聴け、ということと受け取った。
この歌詞に何度救われたことか。
あれから30年強。
もう、そんな苦しみに普段は出会わない。
最近、瞑想をする時、自分の心臓の音を聞くようにしている。
どんな時もどんな時も、心臓は黙ってひたすら動いてくれている。
その音を聞くたびに、初めて聞いたかのように驚く。
こんな神様のような器官が自分の中にあるのか、と。
そして、心臓の音を聴くたびに、長渕剛のこの曲を聴いていた大学時代のことを一瞬思い出すのだった。