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中央線ゲー厶

朝起きる。

頭に酒が残っているか?
行けそうか、

遠出はやめておいて、また山手線沿いでも一周するか。

山手線一周も飽きた。

行ってしまおう。

自転車に輪行袋を付けて、軽くチェーンに油をさして、明治通りを走り出した。

目指すは、多摩川と秋川の合流地点だ。

娘が以前好きだった「ダーウィンが来た!」で紹介された場所。

今までの大雨などで沢山の木などが流れ着き、そこに驚くような生態系が生まれていた、という。

いつか自転車で行ってみたいと思っていた。

立川のあたりかと思っていたら、拝島の辺だった。

拝島なら、それほど遠くない。山手線線一周位の距離だろう。

もう少し走れそうなら、八王子位まで走るか。

明治通りを池袋、大久保へと走り、大久保通りに入り西へむかう。

午前中にもかかわらず、大久保は沢山の観光客でいっぱいだ。匂いも独特だし、クラクションを鳴らしている高級車の音も、けたたましい。

その大久保通りは、山手通りを交差すると、落ち着いた感じになっていて、ギラギラした原色のプラスチックの電飾看板はなくなった。

都心を脱出したことを知る。

ここからは青梅街道、五日市街道と走り、どんどん、建物の高さが低くなり、緑が多くなり、空が広くなってくる。

拝島方面へは、以前に五日市の郊外にある温泉に自転車で行く時によく通っていたが、自分が地図を見て選んでいた道とは違う道をグーグルマップは選んだ。

今回はそれをフォローして走った。

被っていたルートは2割弱だろうか。

グーグルマップの方が走りやすかった。

朝から何も食べずにずっと走っていて、立川の昭和記念公園位まで来てしまった。

俺の脂肪って凄いなぁ。
プリウスか。

その街それぞれのホットスポットがあり、人はそれぞれの街を楽しんで生きている。

幸せそうだ。

平和だ。

昭島駅前を通り抜け、いよいよ多摩川が近づいてきた。

高尾山系の山々が、曇った空の向こうに浮かんで見えた。

「山だ〜、山が俺に話しかけてくるぞ!」

と今までだったら強く感じていたのだが、今回は何も話しかけては来なかった。

単なる線と色のままだった。

「あぁ自分は人混みの世界に、精神をからめ取られて、山と話す言葉を失くしてしまったか。そうかも知れない」

多摩川沿いの細い土手道に着いた。

川沿い、土手道沿いは鬱蒼とした森だった。

鳥が鳴いている。

柔らかい、草いきれの湿った空気が、自分に優しくまとわりつく。

小さな自然に抱きしめられているようだ。

原始的
東京です

走る。

走る。

山は最初は何も話しかけてくれなかったが、最後には語りかけてくれた。

 ◇ ◇ ◇

自然には死はない。

摂理はあるが、生も死もない。

人間の不条理は、自然の摂理に逆らうから生まれてくる。

山はそう言っていた。

 ◇ ◇ ◇

最近、どうも身の回りのささいな歯車がうまく噛み合わず、今朝もなんか魚の小骨がいくつも喉に引っかかっているような寝起きだった。

こんな時は、余りに日常的な日曜日を過ごしてはいけないと、多摩に向った。

来てよかった。

自転車で走りながら「絆」という言葉について考えていた。

木と馬をつなぐための綱、

木 綱

から「き ずな」という言葉は生まれたと言う。

自分が若い頃に旅にハマり、今でも小旅行、日帰りの自転車旅をするのは、綱を断ち切ろうとする動作だったのかも知れない。

断ち切ることは、できなかった。

人間は、飼われている馬みたいなものだから、 

今日の自転車旅もそうだ。

旅をしている時、自転車でも徒歩でも、移動している時だけが、深い安心感があり、ふるさとに帰ったような気持ちになる。

私達夫婦の4人家族については、そういう息苦しい「きずな」はないように行動しているつもりだが、それ以外の近い人間関係には、どうしても実存する、

と、勝手に感じている。

本当に困ったもんだ。自分。 

 ◇ ◇ ◇

「ダーウィンが行く!」等の番組で観られるピンポイントの場所まで行くには、茂みの中を歩かないと駄目みたいで、間近まで草むらを歩くのは諦めた。ここまで走る理由が欲しかっただけだ。

多摩川沿いの土手道を下流へ少し戻り、国道にぶつかり、そこから八王子、高尾駅へと向かい、自転車旅を終えた。

私は始発駅から帰るのが好きだ。

中央線の高尾駅から御茶ノ水へ。

山手線一周サイクリングを山手線ゲームと言っているので、これは「中央線ゲーム」だ。

駅前で自転車を分解し、トイレで体を拭き、着替え、電車に乗る。

自分にとって旅は、木と自分につながっている綱をどうにか取り払おうとあらがうが、取り払うのに疲れ諦めると帰る事である。

これからも、生きている限り永遠に続くだろう。

摂理と絆の間で。

さあ帰ろう。

おやすみなさい。

よい10月を。