深夜食堂の夜
みなさんは「深夜食堂」というドラマをご存じですか?
新宿の路地裏の、コの字型のカウンターだけの飯屋。
深夜十二時から午前六時半頃まで営業の設定。
それぞれ、常連も飛び込みのお客さんも、小さな孤独はありながら、そのお店でのマスターやお客さんとの時間を楽しむ。
毎回、それぞれお客さんが、ちょっとした出来事を起こす。笑ったり喧嘩したり泣いたりするが、最後にはじんわりと温かく終わる。
そして、そのお客さんにとって、ささやかだけれど大切な料理もテーマになっている。
私は夏が過ぎ、少しずつ涼しくなって年末が近づいてくると、毎年のようにこの25分ほどのドラマが見たくなる。
話は飛びますが、我が家業の持ち帰りの天ぷら屋。
年を追うごとに、外国ルーツのお客さんが増えてくる。
最近、私より二回りくらい若い東南アジア系の女性が天ぷらを買いに来てくれる。
彼女は買って帰るのかと思ったら、店の前の長椅子で無心に無言で食べて、時にお替りをする。
昨日は3回目。
顔を覚えたので、食べやすいように箸を出してあげた。
長椅子は揚げ台の前にあって、座るとその人の後ろ姿がよく見える。
無心に食べているその後ろ姿がなんとも言えない。
もしこれが演劇の舞台だったら、この人の演技は天才だと思うほど、雰囲気がある。
日本語を聞くのも話すのも上手なので、日本での暮らしも長いのだろう。
日本人と結婚しているのだろうか、それとも介護の仕事などで来ているのだろうか、なぜここで天ぷらを食べるのだろうか。
彼女も私も、少しずつ顔見知りになったので、一言二言話すようになった。
彼女はさつま芋やカボチャを良く選んでくれる。
「このカボチャは一度茹でたの?」と彼女が聞いた。
それは農家さんから送られてきた無農薬のカボチャで、ホクホク、というよりシットリした味だ。
「いいえ、これは生からそのまま揚げたんですよ、美味しいですか?」と聞いたら、ウンと頷いてくれた。
彼女が生まれた国でも、さつま芋やカボチャをよく食べていたのだろうか。どの国で生まれ、どんな半生を送って、今この街でどんな生活をしていて、どんな思いでうちの店の前で天ぷらを食べているんだろう。
勝手にドラマチックなストーリーを想像したら、まるで深夜食堂みたいだな、と思った。
外国出身の人と、一つの惣菜天ぷらが織りなすストーリー。
面白いな。
ドラマ化しないかな(笑)…
この「深夜食堂」は以前アマゾンプライムでも見られましたが、今はNetflixで見られます。
シーズン1の第一話は、何度観ても「これで25分なの?」と思うくらい濃厚な時間が流れます。何度観ても飽きません。
是非みなさんも。