桜の園と、新しい時代と、演劇と
PARCO劇場50周年記念の舞台「桜の園」をようやく観ることができた。
チケットは発券手数料など込みで12.000円強。
望んでいた、前寄りの、わりと真ん中に一つだけ席が空いていた奇跡。
しかし、観劇日の2日前に咳が止まらなくなり断念。
演劇が好きな姉に観に行ってもらった。
出演者のみなさん、豪華絢爛だった。
もう観ることはできない、と諦めていたら、NHKで深夜に上映されたので、観ることができた。
私は登場人物の名前を覚えるのが苦手で、さらに外国名となると、全くついていけなくなる。
桜の園の舞台は、貴族の時代が終わり、新しい時代に移り変わっていく、とある貴族や周りの人間の物語。
今回の舞台で、楽しみだった出演者は、八嶋智人さんと安藤玉恵さん。
八嶋さんが出る映画を見ていると、いつも小憎らしいのに痛快で、その人の演劇を見てみたかった。
安藤玉恵さんは私の地元ご出身で、ここ10年くらい、東京エリアで舞台がある時は観に行っている。
「桜の園」は、昔のロシアが舞台で、時代背景も良くわからないし、人間の名前も覚えられないし、我が家のテレビスピーカーで聞く役者さんの声も多少聞きづらく、3時間の大作を全部観られるか最初の数分は心配だった。
安藤玉恵さんが登場すると、早口でありながら他の誰よりも、テレビでも聞きやすく、これは単なる地声じゃなくて、相当な訓練のたまものなんだろうなぁと感動し、その安藤玉恵さんの声に導かれるように、その舞台の世界に入り込んでいくことが出来た。
貴族の時代、領主を頂点に家族や使用人等が一つの集団として成り立っていた。
時代が動き、それまでの常識が通用しなくなる。放漫なお金の管理で借金がかさみ、領主は領地を手放さなければ利子も払えなくなる状態に。
昔の生き方しかできず、気品を持ち、気品にしばられ、古き良き昔を懐かしみ、新しい時代の価値観では没落とされる人。
これをチャンスとのし上がる人、新しい時代に夢を描く若者、過去の体制を批判する学問の虜になる人。一生を過去の時代に捧げる人。のらりくらりと生きて結局上手く世間を渡れた人。
そうして、旧時代には一つの集団だった人々は、領地が人手に渡るのを期に、それぞれの道を目指し、離れていく。
完全な勝者も敗者もないまま、それぞれが、自分が信じる大切と思える場所へ向かっていく。
体制も、領地も、人も消えてなくなっていく。
この舞台の最後のシーンは、それを象徴していた。
映像でも十分楽しめ、気づいたらあっという間の3時間だったが、あの最後のシーンは、やはり劇場で、演じている人、観劇している人、すべての人と、その場で感じたかった。
その空気感こそ演劇の醍醐味だ。
映像はNHKオンデマンドでも見られるようなので、興味のある方は是非。
ところで、古い時代の没落と新しい時代の勃興、というと、幕末から明治維新への日本も同じことが起きていたはず。
その時代の日本を、チェーホフの桜の園を基にやったらどうなるんだろうか、と夢想しながら床についた。
今の日本と、その頃の日本では全く違う日本人、日本文化だった。それをフィールドワークした宮本常一の世界も垣間見れたりしたら、面白いだろうなぁ。
来年の2月には、神奈川芸術劇場で安藤玉恵さんの一人芝居があるので、この時はちゃんと劇場で観られることを楽しみに、年内頑張って仕事をしたい。
皆さんも是非。