デザイナーのポートフォリオ、就職希望とフリーランス希望では作り方が違うんじゃない?という話
元WEBデザイナーが、デザインについてつらつらと書いていきます。今回は、デザイナーのポートフォリオは、実務未経験者の就活、経験者の就活、フリーランスの集客・営業用でそれぞれ作り方が異なってくる、という事について語ります。デザイナーを目指したい人、デザインを学んでいる人、就活中の人、駆け出しデザイナー、フリーランス開業予定の人に読んでいただければ幸いです。
ネット上にあふれるポートフォリオの作り方の情報は、実務未経験者の就活向けのものが多い
デザイナー志望者が増えてきているせいなのか、ネット上でもデザイナー向けのポートフォリオの作り方に関する情報発信が増えてきているように感じます。
それらの情報の発信元を見てみると、デザイン系のスクールであったり、実務未経験からデザイナーとして企業に就職できた人の就活体験に基づく情報であったりで、その内容は実務未経験者の就活用ポートフォリオの作り方であることが多い様です。
デザイナーのポートフォリオといっても、実務未経験者の就活、実務経験者の就活、フリーランスの営業では、目的、要件、ターゲット、訴求ポイントがそれぞれに異なりますので、サイト構成も掲載内容も、それぞれの用途に合わせて作り変えていく必要があります。
それでは、実務未経験者と経験者、就活用とフリーランスの集客・営業では具体的に何処が違ってくるのか?を掘り下げてみる事にしましょう。
就活向けポートフォリオ、未経験者と実務経験者では見られているポイントが異なる
就活向けのポートフォリオですが、当然ながら実務未経験者と経験者では見られるポイントが異なります。したがって、ある程度実務経験を積んだら、ポートフォリオに掲載する内容、構成、アピールポイントを作り変える必要があります。実務未経験者と経験者で見られるポイントにどのような違いがあるのか、概要を記載しておきますので、ポートフォリオ作成の参考にしてください。
実務未経験者の場合
企業の採用担当者が実務未経験者のポートフォリオで見たいポイントは以下のような項目が想定されます。
基本的なデザインスキルと質
ー 情報設計
ー 構成・レイアウト
ー 色彩設計
ー タイポグラフィ
ー 写真やイラストを利用した視覚表現・演出力各種ツールの習熟度
制作事例のデザインコンセプト
実務でどの程度、独力作業・自律稼働が可能なのか
デザインの分野、デザインテイストの幅の広さ
実務未経験者のポートフォリオで一番よく見られているのは、やはり制作事例と、そこから汲み取る事の出来るデザインスキルのレベル感です。デザインコンセプトの立案能力の有無については、アートディレクターの権限が強い環境だとあまり重視されない事もあります。その場合はデザインの要件、目的の理解力、アウトプットの出来具合を見られます。
また、企業側に実務未経験の新人を受け入れる余力や教育にリソースを割く余力があまりない場合、各種ツールの習熟度、即実戦投入できそうかどうか?独力作業・自律稼働が可能なのか?が重視されます。
自己紹介をポートフォリオサイトに長々と掲載する実務未経験者もみかけますが、就活の場合、自己紹介の機会は別途設けられますし、履歴書、職務経歴書といった資料も別途提出しますので、ポートフォリオに掲載する必要はあまりないと思います。
実務経験者の場合
一方、企業の採用担当者が実務経験者のポートフォリオで見たいポイントは以下のような項目が想定されます。
プロジェクトの規模感、予算の価格帯、制作期間
プロジェクトでの役割、ポジション
プロジェクトの概要、背景と課題、要件、目的、ターゲット
デザインコンセプトの建付けがプロジェクトの目的、課題に対する解としてふさわしいかどうか
プロジェクトの成果
携わったことのある業界、分野
デザインスキル
実務経験者の場合、デザインスキルだけでなく、どの程度の規模、予算感のプロジェクトに参加し、どのような立ち位置で役割をこなし、プロジェクトの課題に対してどのように考え行動したか?その結果、どのような成果を得られたのか?を見られている事が多いです。
フリーランスのポートフォリオサイトは集客ツールにするか、営業資料にするかで作り方が変わってくる
ポートフォリオサイトを集客ツールとして活用したい場合、対象となるのはデザインを依頼したいお客様になります。そのようなお客様はもちろん、デザイナーの実績も見ておきたいと思うでしょうが、それより先に知りたい事があるはずです。
お客様の知りたい情報は、実績よりもサービス内容、価格といった事業内容、デザイナーの経歴、デザインに対する考え方といった信用度、人柄に関係する情報の方が、優先度は高いのではないでしょうか?
デザインを依頼したいお客様が実績より先に知りたい情報としては、
1.経歴
2.デザインの仕事に対する考え方、理念
3.得意分野、事情に明るい業界等
4.提供しているサービス内容と価格感、規模感、スケジュール感
5.受注から納品までの業務フロー
6.実績
が想定されます。制作実績へのユーザー導線はトップージのダイジェスト(優先順位はあまり高くない)からの導線と、上記3、4、5の詳細ページから実績の情報へと導く導線が設計されているのが望ましいと考えられます。情報の優先順位とユーザー導線の設計が、就活用のポートフォリオとは異なってくるということを意識しましょう。
フリーランスの集客用ポートフォリオサイトで、トップページが制作実績の羅列で終わっているサイトをしばしばみかけますが、集客用ポートフォリオサイトの情報設計としては悪手と言えるのではないでしょうか。お客様が自身のポートフォリオサイトを訪問した目的・理由をもっと考察・検証してみることをおすすめします。
また、実績詳細ページに、画像のみを掲載して詳細情報を載せていないデザイナーもいるようです。お客様はビジュアルデザインの見た目の良さ、美醜だけを求めてはいませんし、それだけで発注先を選定する事もほぼありません。実務経験者のポートフォリオと同等のプロジェクトに関する詳細情報を掲載しておかないと説得力に欠けます。
営業資料としてポートフォリオサイトを活用したい場合は、商談の際の補足資料として活用する事を想定することになるので、情報設計・構成は実務経験者の就活用ポートフォリオと大体同じになります。集客用のWEBサイトと営業資料用ポートフォリオサイトを分けて作っておくのも良いでしょう。
大きな仕事、有名企業の案件は、自分の実績として迂闊に公表できない
ネット上で誰でも閲覧可能な体裁のポートフォリオの場合、自分の実績として仕事の成果物を掲載するには、クライアントの掲載許可が必要になる事がよくあります。
ですが、大きな仕事、有名企業の案件は守秘義務や権利関係に厳しく、ポートフォリオへの掲載許可が下りない場合が多いです。なので、大きな仕事や有名どころの仕事をしているデザイナーほど、自らの実績をネット上で大々的に公表するようなことはしなくなります。
では、そのようなデザイナー達はポートフォリオを作らないのか?というとそうでもなく、パスワード保護で関係者以外に対して非公開にしている、検索エンジンにクロールされないようにしている等、公にされない作りのWEBサイトにしているか、PDF形式でデータ化しているがネット上にはアップしていない、印刷して冊子の体裁で作っている(グラフィックデザイナーはこの形式が多い)等、普段は自分の手元にあって、営業時に客先に持ち込むような形式にしていたりします。
デザイン系の専門誌では、有名デザイナーのポートフォリオを公開するという特集記事が組まれる事がしばしばあります。興味のある方は図書館や古本屋に行ってバックナンバーを調べてみると良いでしょう。
実務経験が増えてくると、掲載可能な実績だけでなく、掲載不可能な実績も増えてくると思います。得てして掲載不可能な実績の方が出来が良かったり、クライアントへのアピールとして有用であったりしますので、一版に公開するポートフォリオと、クライアントだけが閲覧可能なポートフォリオを分ける必要が出てくることもあるかと思います。
いわずもがなですが、公にしないポートフォリオであっても、掲載内容は機密保持、守秘義務に反しない範囲、一般に公開されている範囲にとどめておく必要があります。
以上のように、目的、用途、自身のキャリア・立ち位置によって、ポートフォリオに求められる構成、内容は変わってきます。自身の目的からズレているにも関わらず、ネットの情報を鵜呑みにしたり、自身のキャリア・立ち位置が変化しているのに、一度作ったフォーマットをそのまま使い続けるといった事をしていたのでは、ポートフォリオを有効に活用する事ができません。定期的にフォーマット、構成・掲載内容の見直しとアップデートを行いましょう。