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セシル・シャミナード :「Elévation」(6つの無言歌 Op.76より)

セシル・シャミナード(Cécile Louise Stéphanie Chaminade, 1857~1944年)はフランスの作曲家の中でも私が非常に好んでよく聞いている作曲家の1人です。クラシック音楽史の観点からは特に取り上げられることのない存在ですが、気軽に聞ける曲が多くて個人的にはおすすめです。今回は私の特に好きな作品である「Élévation」を紹介したいと思います。


実際の音源

音源はYouTubeにアップされていますのでまず聞いてみたい方は以下のリンクからどうぞ。

ちなみに、私が買ったCDはこちらです。

Apple Musicでこの曲を聞きたい場合は、以下に収録されています。ちなみに上記のアルバムは「6つの無言歌 Op.76」は全曲収録されていませんが、以下のアルバムには6曲収録されています。

簡単な曲の解説

この曲は、1893年に出版されたシャミナードのピアノ曲集である「6つの無言歌 Op.76」の2曲目です。

タイトルがこの曲のすべてを物語っています。タイトルであるフランス語のElévation(エレヴァション)は英単語のElevationとほとんど同じだと思いますが、私が買ったCDのライナーノートには「Exaltation」という訳があてられていました。

Exaltationとは「感情の高揚」「気持ちの高ぶり」というような意味ですが、まさにこの曲の旋律は、これ以上ふさわしいタイトルがないほどに見事にこの感情を音で表現しています。

この曲は、シャミナードお得意の、優しさと悲しさが溶け合った静かな激しさが感じられる曲です。

特に、この曲の主題となる心地の良く優しい旋律が途中フォルテ・フォルティッシモで現れる部分(楽譜上では45小節目)は、まさに人の涙を誘うような、苦しくどうしようも抑えきれずに高鳴る気持ち、これを作曲者は伝えようとしているような感覚を与えます。

調性は一貫してホ長調であり長調です。一般的に大半の人の認識として、「長調は明るい」「短調は悲しい」みたいなイメージがあると思いますが、この曲の旋律は長調であるのに、終始聞いていてどこか悲しさを覚えます。

全体的に、つかの間の転調以外に大きな場面の変化はなく、そういった意味で非常に単調な曲であり工夫はありません。

あくまでこの曲は「無言歌」なので、わかりやすくキャッチーな旋律がこのすべてであり、逆に言うとアピールポイントはそこだけになっていまいますが、それだけでも聞く価値はあるでしょう。

シャミナード旋律の良さが評価を受けている作曲家ですが、この曲でも特にそれがよく表れています。

第三者の評価

実際にこの曲はどのように評価されているのか、私が買ったCDのライナーノートに、解説があったので実際に載せてみます。全部英語であり、非常に詩的でカッコつけた言葉を使っているので訳しづらかったのですが、ところどころ意訳しつつ載せてみます。

Elevationは、その圧倒的な感傷表現を提供する作曲家としての名声をシャミナードに与えている曲であり、デマス(※訳注:ノーマン・デマス。『フランスピアノ音楽史』の著者)も「恐ろしい(dreadful)」と表現している。もっとも、この曲における華麗に調和した主題はやや狂信的なほどに使用され、演奏の仕方によってはおしつがましい誇張表現を生み出すものに過ぎないかもしれないが、温かさと節度を持って演奏されることで、この曲は後期ロマン派の純粋な理想主義の輝かしい一例となり、その姿を現すのである。

Chaminade: Piano Music, Vol. 1 by Hyperion UK (2005-10-21)のライナーノートより拙訳

訳しにくいところがいくつかあったので、正確ではないですが大体はこんな感じです。

少なくとも言えることは、私が最初に言ったように、この曲はこの聞く人を切ない気持ちにさせる曲、感傷的な気持ちにさせる曲であるということです。

ノーマン・デマスが指摘するように、主題もしくは主題のモティーフを利用したフレーズに固執しすぎているところがあって、若干変化が乏しい側面はありますが、それを補って余りある旋律の良さがこの曲の魅力でしょう。

曲としては小さな作品であり、それ以上のものではないのですが、シャミナードの個性と良さが出てくる曲であり、気軽に聞けるクラシック音楽、という意味でも私は良い作品だと思っています。

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