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アルメニアとっとこ弾丸ひとり旅 夜行列車でハチャプリもぐもぐエレバン到着〜圧巻の聖なる修道院と絶景の神殿へ! いつの間にか密輸の片棒担いでた編


前回のお話はこちら。良かったらどうぞ

トビリシ→エレバン夜行列車〜素敵な出会いと華麗な密輸〜

 プラットフォームでトビリシに滞在している友人と一旦別れる際に、悠然と「I'll be back!」と叫びながら親指を虚空へ突き立てたら服にかけていたメガネが床へ吹き飛んだ。ガラでも無いことはするもんじゃないなぁ…と少し反省する。


アルメニア文字の書かれたビニール袋

 

 夜行列車内は基本、ひとブースにベッド兼長椅子が4台あり(上下二段ずつ)、下段席はゆったり窓際備え付けのテーブルを使えるのでお気に入りなのだが、向かい側の下段の人と必然的にガッツリ顔を合わせるので毎度少し緊張する。どんな人だろう…と思ったら既に同年代ほどの女性が腰掛けていたので挨拶。ジョージアで生まれ育ったアルメニア系のトビリシっ子で、これからテレワークしながらエレバンに少し滞在するという。


私が荷物を置いているせいで散らかっているが、
基本的に寝床もトイレ等も新しく清潔


 
 このお姉さんが本当に本当にすごく良い人で、お互いの国の文化や言語、食べ物の話から朝の目覚まし、ホテルの予約、地下鉄の乗り方までとてつもなく親切にして頂いた。興味深い話からお互いのお気に入りのおやつまで交換して色々と貴重な時間を過ごし、正直トビリシの客引きで少し消耗していた私にはオアシスのような空間だった。
 
 私「ジョージアとアルメニア、もしくはトビリシとエレバンで何か人や文化とか違いはありますか?」
 お姉さん「ある。なんでかわからないけど人はエレバンの方が優しいよ。ジョージア人は何ていうか、もっとアグレッシブというか、私達が空港にいたら誰か一人は叫んでるし、というか空港で騒いでる人がいたら大体スペイン人かイタリア人かジョージア人ね。うんうん。」
 私「えぇ…」


 
 お姉さん「でも大声で言えないけど、アルメニアには腐敗があるから…前に警察が声をかけてきて、スピード違反でお金を取られた。でも後で気付いたけど、違反切符をくれなかったしメーターも見てなかったよ。」
 私「じゃあ彼のポケットマネーに…」
 お姉さん「うん、なったんだろうね…」

 ちなみにブルガリアの警察も大概ですよ、知り合いは運転中に止められて薬物かアルコールか何かの検査を受けさせられて、結果クリアだったので「それ見ろ何も無かったろ」と帰り際に警官を煽ったら部屋連れてかれて警官3人に殴られたらしいですから…と言ったら仰天していた。正直私も仰天した話なので2人でしみじみびっくりした。 

 お姉さん「あ、ジョージアでは警官の腐敗は無いよ。胸元にカメラあってレコーディングされてるから、警官が何か不当なことをしたら逆に警官が逮捕される。そのカメラが作動してない時は気をつけた方が良いのかも?作動中はわかるようになってるからね。」
 私「なるほど、気をつけます…」

 などと和やかな歓談を楽しんでいたら、斜め向かいの壁際の席に座っていたおばちゃんが「荷物が多いからあなた達の席の下に置かせて貰っても良い?」と聞いてきた。もちろん、と快諾すると、ありがとう!と荷物を奥へ押し込み、私のリュックをその手前へ置いてくれた。

 若干私のリュックが座席の下からはみ出ていたので、直してくれるなんて優しいな〜、なんかおばちゃんって感じだな〜と思ったので呑気にスパシーバスパシーバと告げるとご機嫌におばちゃんは去っていった。

 お姉さんはクッキーとハチャプリを、私はハニーマスタード味のプレッツェルと果物をそれぞれテーブルいっぱいに並べ、「なんだか私達食べ物ばかりね…」と少し笑いつつ夜食をつまんだ。

 この時頂いたハチャプリは具が中に包み込まれているタイプで初めて食べたがやっぱり非常に美味しかった。優しさと一緒だと尚更美味である。



食べかけで申し訳ないがパンと同化している黄色いやつがチーズ、そして中に見えるのがたまご


 
 ちなみに、私がリュックから食べ物を取り出したり歯磨きのためにブラシを探したりと、私の荷物を動かすたびにおばちゃんがすかさず元の場所に戻してくれた。

列車内で国境越え 

 その後も色々とお喋りに興じていたら、1時間半ほどして国境駅に停車した。外へ降りる必要は無いからここで大丈夫だよ、とお姉さんが教えてくれ、乗り込んで来た審査官にそのままパスポートを渡し、出国審査は座ったままで通過した。

 出国審査は割とスムーズだったが、長かったのはアルメニア側の入国審査で、ここで私達以外のお客さんには荷物検査をされている人もいた。斜め向かいの荷物の多いおばちゃんに至ってはひとつひとつ袋を開けられ、質問攻めにされ、中身の書類を書いていたので非常に時間がかかった。私達は荷物検査こそなかったが、肩掛けの大きなカメラを持った審査官がひとりひとりの顔を恐らくビデオ撮影して回り、別の審査官がパスポートの名前とワクチン書類の有無をチェックしていた。

 間抜けだったのでアルメニア国境に来て気付いたのだが、私達の座席の下にあるおばちゃんの荷物は、私達のリュックの陰にあるおかげでノーチェックでスルーなのである。ここでやたらとおばちゃんが私のリュックの位置を調整していた理由を理解した。このババ…おばちゃん、やり手だな…?

 つまり私は、遥かなるアルメニアで、言ってしまえば密輸の片棒を担がされた事になる。お姉さんは恐らく最初から全てをわかっていたのか、おばちゃんが私達から荷物を回収した時にちょっと笑っていた。

 このおばちゃんは国境を越えた次の駅でご機嫌に去っていった。「お嬢ちゃん達!ありがとう!ンーマッ💕」と投げキッス付きで。その時の私は脳内お花畑だった自分に若干引いていたが、なんとなく投げキッスに投げキッスで返した。こちらは日本よりも頼み事をお互いにするのがカジュアルだよなぁと思いつつ、これは流石に色々強すぎるだろと笑うしかなかった。異文化交流複雑怪奇…

 国境を越えると車内の照明も落ち、その日徹夜だった私は数々のハイライトをよそにすぐに眠りにつく事ができた。

 朝の6時半前、揺れる車内でお姉さんと車掌が起こしてくれて目を覚ました。疲れ過ぎて昨晩アラームのセットを失念していたのである(間抜け)。窓外はのどかな緑の平野で、寝坊なりにのんびり身支度していたらお姉さんに「今日のホテルは予約してあるの?」と尋ねられた。実は旅程を急遽変更したのでまだ…SIMカードを市内でゲットしてから探そうと思います、と答えたら、「良い所は埋まってると思うよ!今のうちに探したほうが良いよ、テザリングするから!」と、ものすごい気配りとご厚意を頂き、その場で今日のホテルを予約したのだった。

朝のエレバン到着と投げキッス再び

 シーツ類を車掌に渡した後で、ついに列車はトビリシへ到着した。お姉さんと一緒に降りた瞬間プラットフォームにいたおっちゃんに「タクシー?」と聞かれたが、お姉さんが「前にもこの人いたよwまた聞いてきたw」とウケていて面白かった。

 ATMでお金降ろすのでここら辺で、と言おうとしたら、ここより中心部で両替したほうが良いよ!と言われ、でも、現金が今無いのでメトロ乗れないんです…と答えたら「なら、私持ってるから一緒に乗ろうよ!」とのお返事。

 どこまで優しいのだ…と思いつつ流石に申し訳ないので辞退しようとしたが、いいからいいから、と言ってくれたので、私は新品の除菌ウェットシートを渡して「せめてこれを受け取って…」と言うことで手打ちになった。

 改札でもうひとり困っている外国人旅行者がおり、お姉さんはその人の分も入場料を払っていた。テラ優しい…ブラジルから来たというその人ともお喋りしつつ地下鉄に乗り込んだ。聞くにはブラジルにも「日本人見てる〜?」的なジョークがあるらしい。私達同じ事してるのね、としばしワハハタイムになった。

 目的駅のリパブリックスクエアでお姉さん達と惜しみつつお別れし、アルメニア旅行は「あぁ、アルメニア大好き…」という大きな気持ちと共にスタートした。自分も、いつでも他人を助けられるくらい強くて朗らかな人になりたいなぁ。

 リパブリックスクエア(共和国広場)に着くと、7時という時刻もあってか、車のほとんどない朝の清涼な空気がかなり良かった。

 てくてく国立博物館の前を歩き、SIMカード目当てに大通り沿いの24時間営業のViva-MTSへ向かう。ちょうど大通りを渡ろうとしたら、エンジン音がでかいタイプの細長い車が通りかかり、私の前で減速して通りすがりざま運転中のグラサンお兄さんが投げキッスをしてきた。すごい挨拶だなーと思いながら半分警戒しつつ、軽く手を振ってそのまま横断歩道を渡っていたら、路肩に止まったその車は急に加速して爆音とともに去っていった。あれ、投げキッス、やっぱり挨拶じゃなく出会い目的でした…?

 なぜ騒音と共に行く手を塞いでサングラスと共に投げキッスしたら外国人が助手席に乗ってくると思ったんだ…異文化交流複雑怪奇…

 その後無事にSIMカードをゲットした私は、そのままエレバン郊外のガルニ神殿とゲガルド修道院へ向かうべくバス停へ移動した。

聖なる修道院と神殿、俗なるおっちゃんとタクシー

 ゲガルド修道院方面行きのバスは、交通アプリYandexによれば9時始発だったので急ぐ必要はなかったが、念の為少し早めに着いて待機していた。が、9時になっても、一本後の9時半になっても一向にバスが来ない。ここで私は諦めてYandexでタクシーを呼び、ゲガルド修道院まで走ってもらった(3200ドラム)。

ひたすら谷沿いに奥まで向かっていく
岩山だらけの車窓で既に背筋が伸びる
ゲガルド修道院外観


 この修道院の名前「ゲガルド」はアルメニア語で「槍」を意味し、初期キリスト教期から建てられ、以前はあのロンギヌスの槍を保管していたという、世界遺産にも指定されているまさしく由緒正し過ぎる名所旧跡である。

 現在残る建物は13世紀造らしいが、なるほど岩を掘って作られたという修道院内の雰囲気は隔世の感があった。

 岩を掘って作られているのと、歴史ある建物ということで窓は少なく余り外の光は入ってこない。その代わり、僅かな太陽光が限られた場所を照らし、メインのイコンや床の中央の聖者廟、蝋燭の灯る十字架前を浮かび上がらせている。

曇り雨の日に訪ねたので暗すぎて奥に何が潜んでいるかドキドキ状態。蝋燭を灯すと十字架が浮かび上がる様はさながら神聖なホラーハウス…


 一人で訪ねたので、ビビリの私は正直めちゃくちゃ怖かった。前述のように内部はかなり暗く、更に聖堂内で湧き出している水の音と湿気、冷たさが身体的にも沁みてくる。異教徒なりに敬意を払おうと蝋燭を購入していたのだが、すぐにもっと買えばよかったと後悔した。とにかく目が慣れてもなお薄暗く、蝋燭を台に備えて振り返ったら浮かび上がるデカ目のイコン…壁にも水の沁みがあり、十字架のそばで意味深なディテールを添えている(偏見)。まるでラスボスの待つ神殿のような空気に全く圧倒されてしまった。昔の人しゅごい…恐らく暗闇にイコンがもっとあったり、彫像なんかが置いてあったら私は恐怖で見て回れなかったろうと思う。

 半ばノックアウトされながら外へ出て、あたりを少し歩いてみた。すると、「そこは外れたらあと全部外れるやろ」という部分が落ちかけている石橋を見かけたので、渡ってみた。

猫かわいい


そこ外れちゃダメでは…な石が外れかけの石橋
ちなみに怖かったのでこの石橋は叩かずに渡った
奥まで石塔が続き、
更に奥には個人の遺影等があった


 渡った先には高く奥行きの浅い洞窟があり、入口から奥まで、薄く平べったい石が上に行くほど小さくなるように重ねてあるミニタワーがびっしりと置いてあった。あぁ、これはお墓だろう…と思いつつ一応奥まで歩いたところで遺影や十字架を見つけたので、すみません…という気持ちと共に引き返した。おびただしい数の小さな石塔を一つでも崩したら何だか非常にまずい気がしたので細心の注意を払いながら。

 が、洞窟から石橋は10メートル程しか離れていないのに、その道に花火の燃えカスと焚き火のあとがあった。誰がやったかは知る由もないが、こんな場所で花火なんてパネェ…

 アルメニアでプチ三途の川と日本の夏の河原的な光景が見られるとは思っていなかったので奇妙な気分になった。

 そこからはまたタクシーでガルニ神殿へ。呼んだタクシーの運転手が、テンプレのウザい会話を仕掛けてくるおっちゃんで、

おっちゃん「ガルニまでだけでいいのか?」
私「はい、1時間ほどガルニで散歩する予定なのでエレバンまではバスで帰ります」
おっちゃん「でもタクシーの方が速くて簡単だぞ!」
私「ありがとう、でも結構です」
おっちゃん「一人で来たのか?」
私「はい、休暇で」
おっちゃん「おおーそうか、一人ってことはエレバンでコレ(片手で作った輪っかにもう片方の手の中指を抜き差しするジェスチャー)はしたか?彼氏はいるのか?」
私「しませんよ!恋人いますし」
おっちゃん「でも一人で来た?」
私「はい、一人旅です」
おっちゃん「そうかそうか、それはそれとして、君にはエレバンまでタクシーという選択肢がある!」
私「要らないですwww」
おっちゃん「wwwww」

 ツッコミどころは満載なのだが、何よりもまず運転中に両手でジェスチャーしないでくれ…

 そして、走っている最中に道端で農耕機を高圧洗浄機で洗っている人がいたのだが、その水しぶきが道路側へかかっており、見事に私達のタクシーにもヒットした。ただの泥なら良かったのだが、洗っていたのは付着した牛糞だったようで、ミスト状の牛糞がフロントガラスへまんべんなく吹き付けられ、ワイパーがそれを拭っても車内まで匂ってくる有様だった。ワッハッハ。

 そんなこんなで到着したガルニ神殿は断崖絶壁の谷の上にあり、圧巻の景色だった!

ギリシア様式で建てられた神殿。今見られる建物は近世になり再建されたものだが、オリジナルは2000年ほど遡るとか…
ガルニ神殿すぐ横の写真
川が山々を削って作った圧巻の渓谷


 後にアルメニア国立歴史博物館の展示を見ても思ったのだが、こんなところまでギリシア文明が到達していることに感動した。17世紀の地震でオリジナルの建物は崩れてしまったようだが、301年にキリスト教国となったアルメニアで、この神殿が壊されずに残っていたのはミステリーらしい。余りにすごい場所に建っているのでもったいなくて壊せなかったのだとしたら、それも納得のロケーションである。

 「アルメニアすげ〜」になりたい方は、ゲガルド修道院とガルニ神殿を是非おすすめする。



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