特色入試体験記
はじめに
話としては今更ですが、特色入試に通過してこの春から京都大学の教育学部に進学することになりました。このことは自分の中で大きな出来事だったので記事としてまとめておきたいな…と前々から思っていたのですが、色々な手続きやその変更で筆をとるのが遅れました。
受験までの経緯
もともとはプログラミングが好きという理由で工学部の情報学科に進みたいなと思っていました。ですが京大で行われたELCASやWSCというプログラムに参加し、すごい同級生たちと知り合ったり目にしていく中で、一つの分野で将来活躍しようとするよりも教育に携わる形で多くの人と関われたらいいな、その前には学ぶことそのものについて勉強してみたいな、という気持ちが自分の中で大きくなりました。
また京大の教育学部は入試を受ける上では文理の違いはあまり関係ないものの、「人数が少ない分、仲の良い雰囲気」と紹介されるぐらいには枠が狭い(理系では10人しかない)学部です。そのため、単純ですが受験回数を1増やせる特色入試は自分にとって大きな選択肢でした。ここまでが高2の秋〜冬くらいの時期の話です。
このあたりから特色入試について興味が出てきたので、ELCASで知り合った先輩やその方の知り合いで教育学部にいる先輩(以降A先輩と呼びます)から話を聞いたり自分で情報を調べたりしていました。特色入試、というと理学部の数学の試験が特に有名ですが、他にも書類選考や論文試験、口頭試問など学部ごとに様々な形式があります。教育学部では「学びの設計書」、「学びの報告書」という形で書類による一次選抜を経て、二次選抜では論述課題と口頭試問が課された後、センター試験で八割以上の点数を出すことで最終合格が出来ます。
ただこの時点では学びたい動機まではあるとはいえ、教育学部に入ってからのはっきりとした将来像が見えず、親と進路の話になるたび「教育学部ってことは教師になるの?」「違うんだよなぁ…」というやりとりを繰り返していました。そのうちに受験勉強がちらつくようになり、具体的な進路を考えるうちに夏休みに入っていました。
書類選考
書類の提出が10月上旬だったので9月の始めから書類作成に取りかかりました。が、今から考えれば時間的に余裕のある夏休みからコツコツと準備をしておくべきだったと思います。模試での微妙な成績に気持ちが引きずられながら、そんな自分とは対照的に赤本や他の問題集をこなし着実に勉強を続ける同級生を横目に見ながら、受かるかどうかも分からんような推薦試験の書類作成に時間を割くのはかなり苦痛でした。いざA4の紙を前にして己の思いを上手く言葉に出来ないのがとてももどかしく、悩みながら書いた自分の文章も約3倍の書類選考では容易に落とされるものにしか見えず、疑心暗鬼の中で自分の特色(のように思えたもの)も分からなくなって気分的に病みました。
思えば「学びの報告書」で書いた活動も他の人と比べればささやかなもので(これは単にTwitter のFFにいる人たちの実績がおかしい、という一言に尽きますが)、それ自体で見れば半端なものばっかり。大体自分の特色って何??それこそ路傍の石ころだって世界に一つしか無いものだけど、そんなものに価値を感じる人いないでしょ…。
こんな感じで悩んで時間を浪費するくらいならいっそのこと受けない方がいい。そう思い一旦は諦めましたが、親の説得もあり、時間はかかりましたがなんとか書き上げました。まだ締切までに日数があったので学校の先生に添削をお願いしました。この期間のおかげで書類の内容をより客観的、論理的なものにすることが出来たのが良かったと思っています。特色で知り合った人の中には「締切3日前からなんとか書いて提出したら通った」みたいな猛者もいましたが、よっぽど自分の文才に自信があるというわけでないのなら第三者の視点から文章を客観的に見てもらうべきだと思いました。また、運の良いことに京大の教育学部の先輩が教育実習生として来ており、その人からアドバイスを貰えたのも大きかったです。これで落ちたら仕方ない、と思えたので、10月の最初に書類を大学に送りました。
二次選抜
書類を送ってから約一ヶ月後である11月6日に書類選考の合否が発表されます。去年の通りなら36人→12人と3分の1にまで絞られるので、かなりドキドキしながら一ヶ月を過ごしました。知らせを受けた時はとても嬉しかったです。
二次選抜では11月16日に論述の試験が、17日に口頭試問が行われます。結果発表からそれほど間隔が空いてないので、Web上にある平成31年度の過去問を時間を測ってやってみました。絶望しました。量がおかしい。英文やグラフを含む資料九つに対して3時間で200+600+800+1500=3100字の論述を解かないとダメ、というのは厳しすぎる…。
問題を解く中で自分はひとつの要点に対して30~40wordsで文を書くことが分かってきました。これを踏まえると、例えば600字の問題が出た時に15~20のポイントを見つけて記述すれば良いんだ、ということがすぐに分かって便利です。このようにして解く時間を少しでも短く出来るよう工夫しつつ、もう一年分あった過去問を演習する中で、論理を構築する流れを試験場でも再現出来るように意識して答案を作りました。
また口頭試問に至ってはWeb上に全く情報がありませんでした。A先輩に色々と質問をしたところ、一次選抜の書類の内容を聞く圧迫面接と与えられた課題に対する受け答えを見る面接をそれぞれ30分行うらしいという話を聞いたので、先生方に相談して「学びの設計書」と「学びの報告書」を元に圧迫面接をしてもらいました。このときに「沈黙を恐れない」ようアドバイスを受けました(話を繋げようとして墓穴を掘るよりも、黙ってはいても質問に真摯に向き合おうとしている姿勢を見せるメリットの方が大きい、という意味です。もちろん即答が難しい質問に対しては、先に考える時間を貰うよう尋ねた方が良いと思います)。
以下、実際の試験についての感想を書きます(問題がWebに上がるのは恐らく夏になると思いますが…)。
論述試験
開始の合図が出ると同時に緑の封筒から課題冊子と資料集を出して内容を確認します。問題の傾向にあまり変化はないものの、資料の数が6つで過去問と比べてかなり減っていて驚きました。
問一は英文資料1と2の読解問題で(1)は資料1の要約(600字)。ひと目inequality についての内容ですが、序論で経済、国家、教育における不平等という内容の出し方をしていたので、文章をざっと見つつ三つのテーマについてそれぞれ五つくらい要点を絞ります。資料2はある世論調査とその回答結果で、その結果が示すことを300字で述べるものが(2)。さすがにそのまま要約するのはダメだよな…と思いつつ、深読みし過ぎて点を落とすのが怖かったので、回答者の年齢や人種で簡単に対比して傾向を述べるくらいでとどめた気がします。(2)で戸惑ったのもあって、ここまでで一時間半くらい。
問二は残りの資料3~6について、述べられている状況とその方策について論じるもの。字数制限が無いものの10行ある解答欄のうち最初の1行を書いてみると40字くらいだったので、大体10個くらいのポイントを書けば良いのかな、と見当をつけます。最後まで読んでから全体をしっかり掴むのがベストだとは思いましたが、資料一つ一つが割と長くて時間もないので二、三段落読んで逐次要約することをやりました(今から考えるとあまり良くなさそう)。
問三は対立や不一致の起こる事例を自分で設定した後、当事者になったときどう判断するかについて書くというもの。とりあえずトロッコ問題について書き始めましたが、入った時点で残り十分だったので、中途半端に書いて読む側の心象を悪くするくらいなら見直した方が良かった気もします。A先輩曰く、例年の二次選抜の合格者の成績は全体で五割から六割だそうですが、今回の課題は100点満点のうち問二までで70点あり、回答の内容が八割合っていたら全体で六割近く取れている計算です。少なくとも論述試験で大きく差をつけられることは無いかな、と考えて二日目に臨みました。
面接1
現状は圧迫面接しか対応出来ませんが、課題に対する口頭試問で1日目の内容が出るかもしれないと思い待ち時間に読んでいました。両方とも受験生一人に教授三人、という形式でした。
自分の場合は最初が圧迫面接でした。「学びの設計書」から聞かれそうな質問を何個か考えて練習していましたが、大抵の質問はその場で答えることになるだろうし、自己紹介もそれほど時間を取らないだろう(他の質問に時間を取るはず)と思っていたので、最初3分間の自己紹介の時間になり、全く考えていなくて焦りました(アホすぎる…)。初手から沈黙しかけましたが、中高で色々なクラブに入っていたことや友人と暗号の同好会を作った話をすると、興味ありげな反応だったのでそのまま話を続けて乗り切りました。危なかった…。
その後、真ん中の教授からは「学びの報告書」に書いた活動について、自分から見て左の教授から「学びの設計書」に書いた内容を深掘りする質問を、右の教授からは生徒会活動に入っていたこととプログラミング教育についての質問を受けました。聞いていたほど圧迫感は無く、一番最後の質問が想定していたものだったこともあって、後半は安心して答えることが出来ました。
面接2
次の口頭試問は与えられた二つの議題に対してそれぞれ2分で考え、2分で自分の考えを述べた後、残り10分間で左右の教授からひたすら質問を受ける形式でした(真ん中の教授がタイムキーパー)。最初の議題は記憶に関するもので、内容ははっきりとは覚えていないものの、それなりに答えることは出来たと思います。
二つ目の内容が自分にとって印象的でした。「ある産婦人科医が『赤ちゃんの体はお母さんの体の一部だ』と言った。この言葉に対してあなたはどう思うか」というもの。抽象的過ぎるしどういう意味だ…?赤ちゃんの体は赤ちゃんのものでは…?と最初見たときに思ったので、逆にこの産婦人科医はがどうしてこの発言に至ったのかについて考えました。恐らく普通の人が赤ん坊とその母親を見たとき、同じ家族と見なすことはあっても、同じ体を共有していると考えることはあまりないはず。でも産婦人科医という職業なら出産の瞬間にも立ち会うわけだから、赤ん坊が母親の形質や本質といったものを受け継いで生まれてくることを人より強く意識しているということだろうか…。
ここまでで時間が来たので、今までの考えを述べました。すると、自分から見て右側の教授から「ここで述べられてるような『体』と、あなたの今言った『本質』との違いは何か」と聞かれました。昔、漫画「火の鳥」で、部品を全て入れ替えた船は同じものといえるか、みたいな寓話(テセウスの舟)を聞いて同じような疑問について考えたことがあったので、『体』については人の細胞が日々更新される話も例に出しつつ、その主体が経験する時間の積み重ねや受け継がれる部分に『本質』を見出せると思う、と答えました。
今度は左側の教授から、「あなたは人の『体』を箱物として捉えている一方で、先ほど記憶を脳によって起きる作用と説明していましたが、脳という箱物によってなされる記憶は、その『体』と時間の積み重ねである『本質』という図式に改めて当てはめてみるとどのように説明できると思いますか」という内容の質問を受けました。全然予測していない方向からの組み合わせで来たので混乱してしまい、少し時間をもらって考えてみるものの全く答えの糸口が掴めませんでした。結局、その場しのぎの内容で答えていた気がします…。つらい。
ここで口頭試問の時間が終了しました。自分なりに考えて答えられたとは思いますが、やや心残りの部分もあります。ですがそれ以上に、一介の高校生であった自分が大学教授と口頭試問の場でやりとりすることが出来た、というのが嬉しかったです。これで受かっていたらいいな…と思いつつ、受験勉強中心の生活に戻りました。
その後
教育学部の特色入試で最終まで残るのは6人ですが、前の年の選考結果を見ると二次選抜で8人が残っています。目に見えてやらかした部分はないはずだから、なんとか上位7人くらいまでに残ってくれ…と懇願しながら結果発表の日を待っていました。
二次選抜で残っていたのは6人でした。そして自分もその中に入っていました。
かなり喜びました。あとはセンター試験で八割以上の成績を取ると無事最終合格になります。良かった…センターはやらかさない限り大丈夫やろ、と思っていたらやらかしました(ごめんなさい)。八割はありましたが、マークミスなどが怖いので発表があるまでは二次の勉強をしたり本を読んだりしていました。なんとか合格が決まったときは安心しました。良かった…。
最後に
「記事としてまとめておきたいな」から軽く書き始めたつもりが、書いているうちに入れたい内容が増え、結果としてかなり長くなってしまいました…。というか体験記を書いてはいるものの、この時点では4月から本当に授業はあるのかとか、新歓の延期の有無とか、どこまでオンラインで授業があるのか、などがはっきり分かっていません(大丈夫か…)。まだまだ不安が多いですが、知っている先輩方から話を聞いたり、同回生と協力したりしてなんとか楽しいキャンパスライフを送りたいなあ、となっています。
最後になりましたが、ここまで読んで頂きありがとうございました。
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