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毎日の暮らしを豊かにする余白/火の神様と火の用心
日本には、いろいろなものに神様が宿ったり、ある時は妖怪になったりと、自然や自分の力だけではどうしようもないものに対する畏敬の念が根付いているといえます。昨日のブログでご紹介した囲炉裏やかまどにも、火の神様が宿っていました。
火の神様
古来より、火は人間の生活に欠かせないものであり、同時に畏怖の対象でもありました。火を使う場所である囲炉裏やかまどは、その火を神聖なものとする信仰と結びつき、神様が宿ると考えられるようになったようです。
かまど神は、火の神としての性格以外にも、家を守護する神、家族の健康を守る神、食物を司る神など、様々な役割を持つとされています。
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こうした囲炉裏やかまどに神様が宿るという信仰は、単なる迷信ではなく、火を大切にし、火事を防ぐための知恵でもあったのではないでしょうか。
現代では、囲炉裏やかまどのある家は少なくなりましたが、火を大切にする心、そして火を使う場所を清浄に保つという考え方は、ぜひとも伝えていきたいものです。
子ども達の火の用心
火を大切にする、火事を防ぐという意味では、福島県の只見町におもしろい風習が今もなお伝わっています。
只見町では、子どもが数え年六歳になると、正月二日の事始めの日に「火の用心」と半紙に書き、我が家にはったり、親類や近隣の家々にくばったりする習俗があります。
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私が訪れた只見町の家でも、「火の用心」と書いた習字が貼ってあり、印象的でした。これを受け取った家では、火災予防の護符として大切に年神様のお棚などに貼ってくれます。そして、子どもには「なんと上手に書けたことだ」などとほめ、こづかい銭やお菓子などを与えているようで、子どもたちは、とても楽しみしていると聞きました。
夜回り
火の用心といえば、都会では夜回りをしている地域が今もなおあります。私は田舎で生まれ育ちましたので、横浜に住むようになって、初めて夜回りを見ました。火の用心の夜回りは、江戸時代から続く風習です。
江戸は木造家屋が密集しており、火災が頻発していました。そのため、火事を防ぐための様々な対策が取られていましたが、その一つが夜回りでした。明治時代以降、消防隊が組織され、火災予防の役割を担うようになりましたが、夜回りは地域の自主的な防災活動として、現在でも多くの地域で行われています。
夜回りは、町人によって組織された自警団によって行われていました。彼らは夜になると、拍子木を打ち鳴らしながら町を巡回し、「火の用心!」と声を上げて、火の始末を注意したり、火元を点検したりしていました。
このように日本では家庭で使用する火にも、いろいろな文化が育まれていると言えます。最近は完全電化住宅などもあり、火を扱うことも少なくなってきました。
しかし、人は火を使い始めて大きく進化したともいえます。火に対して畏敬の念を持ちながら大切にしてきた文化や心は伝えていきたいものです。