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毎日の暮らしを豊かにする余白/伝統芸能が伝えるもの

地方都市伝わる能

全国の地方都市を歩ていると古来より能が伝わっている町があります。
そんな町の人たちに会うと、能があることを自慢され、そこに能があることを誇りに思っています。

能楽は室町時代に観阿弥・世阿弥親子によって大成され、全国に広まりました。各地の武将や有力者に保護され、独自の進化を遂げた能楽は、現代においても地域に深く根付いています。

今回は、その中でも特に有名な「黒川能」についてご紹介します。

山形県鶴岡市に伝わる「黒川能」

山形県鶴岡市黒川地区に伝わる黒川能は、約500年前から続く春日神社の神事能です。世阿弥以前の猿楽能の流れを汲み、シテ方五流(観世流、宝生流、金春流、金剛流、喜多流)と同様の演目を持ちますが、独自の演出や装束が見られます。

最大の特徴は、農民によって演じ継がれてきたことです。黒川の人々にとって、黒川能は生活の一部であり、地域社会の結びつきを強める役割を果たしてきました。現代においても役者はすべて地元住民で、黒川能保存会があります。

黒川能の舞台は、春日神社境内に設けられた能舞台です。毎年旧正月にあたる2月1日から2日間開催される「王祇祭」では、五流とは異なる珍しい演目が奉納されます。また、毎年8月には「黒川能」定期公演が行われ、多くの観光客が訪れます。

伝統芸能が伝えるもの

黒川能のように、日本各地には地域の人々の熱意によって守り伝えられてきた貴重な伝統芸能が数多く存在します。

私の故郷である島根県の石見(いわみ)地方は、特に神楽が盛んな地域です。子供の頃から神楽の太鼓の音に親しみ、その力強いリズムは、まるで私のDNAに刻まれているかのように、今でも鮮明に記憶に残っています。

石見神楽の太鼓の音はいつでも思い出すことができます。それと同時に、故郷の風景や人々の笑顔が浮かんできて、温かい気持ちに包まれます。

それは、私にとって単なる郷愁ではなく、自分自身のルーツを再確認し、未来へと繋がる力強いエネルギーを与えてくれるものと言えます。

伝統芸能は、単に芸能を伝えているだけではありません。そこには、古来から脈々と受け継がれてきた、人々の生活、信仰、そして生命そのものが伝えられているのではないでしょうか。