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下ネタから読み解く言語学:映画『ロング・ショットー僕と彼女のありえない恋』の勃起スラングを例に

映画『ロング・ショットー僕と彼女のありえない恋』で、フレッドがシャーロットと知り合った頃のことを回想している場面がある。

ウィキペディアにも書いてあるように「フレッドとシャーロットは幼馴染みで、年上のシャーロットはフレッドのベビーシッターでもあった。ティーンの頃、フレッドはシャーロットに恋心を抱いていたが、それを伝えることが遂にできなかったのであった」という関係だった。

その頃の「黒歴史」をフレットが、親友のランスに語っている場面:

Fred Flarsky: She was amazing, and she was smart, and she seemed to kind of like me, and I felt like we were having a moment. You know what I mean? Like a romantic moment. (彼女はすごかったし、頭も良かったし、俺のことをどちらかというと気に入ってるように思えたから、ある瞬間が来るような気がしたんだ。俺の言いたいことわかるだろ。ロマンチックな瞬間のようなものさ)
Lance: Oh, shit.(くそみてえなことだな)
Fred Flarsky: So I did something, that in retrospect was highly inappropriate. I kissed her. I looked down, I got a fucking thirteen year-old boner, man!(だから、俺がやったのは、今になって思えば、きわめて不適切なことだった。彼女にキスしたのさ。そうやって下を見ると、13歳なのにカチカチになってやがったんだよ、おい)
Lance: Oh!(うわあ)
Fred Flarsky: Hard, but not big. But hard. And pronounced, thirteen year-old boner. And she looks at it. She sees it. And she goes…(固くなってたが、大きくはなかった。でも固かったんだ。それにはっきり目立つ13歳のカチカチだった。で、それに彼女が目を向けて、それを見て取って、言ったのは…)
Young Charlotte: “It’s okay.” (いいわよ)
Fred Flarsky: And then, her boyfriend comes into the room, who was in the other room watching Blossom! Points out my fucking little boner. He makes a joke!(その時、彼女のカレシが部屋に入ってきてさ、やつは別の部屋で『ブロッサム』(テレビドラマ)を見てたんだ。そいつが俺の小さなカチカチを指さして、からかったんだ)

ここで何度も出て来るbonerというのは、bone(骨)に-erという「…の性質をもつ人・物」という意味の接尾辞を付けたもので、「カチカチになったペニス」「勃起」「立ちまら」を表す。

面白いのは、この名詞にthirteen year-oldという形容詞的フレーズをフレッドが付け続けている点である。ある名詞を形容詞によって限定する(つまり形容詞を名詞の前に置いて限定用法として使う)場合、その典型例(プロトタイプと認知言語学では呼ぶ)から離れていることを示唆することがある。

日本語でも「化粧品」と言えば典型例は肌に色を付けるファンデーションや口紅、マスカラなどで、スキンケアに用いる化粧水などは「「基礎」化粧品」と呼ばれる。ここでは「基礎」という形容詞的要素が、化粧水が化粧品の典型ではなく、周辺例である(判断が微妙になってくるものである)ことを表している。

「カチカチ」も、典型例は成人男性の立派なペニスが完全に勃起しているようなものである。13歳の子どものペニスは、成人男性のものほど大きくはなく、典型的な勃起したペニスのイメージとは大きさという点でかけ離れていて、周辺例だと言える。

この種の周辺性をおそらく自覚していたであろうフレッドは、成人しきっていないお粗末な(典型的なものとは言えないレベルの)「カチカチ」だと言うことで、当時自信がもてなかったこと、まともに相手にされなくてもしかたなかったことなどを弁明しているように私には読み取れる。

さらに、フレッドはbonerに初めfuckingという卑語の形容詞を付けている。fuckingは『ジーニアス英和辞典』(第5版)で「((性俗))[形] [限定][副] 《◆語気を強めるだけで特に意味はない》❶ いまいましい[く], ひどい[く]」と定義されていることからもわかるように、語気を強めるはたらきが主ではあるが、自分の思い通りにならないという苛立ちを示唆することも多い。ここでは自分の意思とは関係なく勃起してしまったことに対する苛立ちが、fuckingの使用に現れていると言える。

下ネタから読み解く言語学... 皆さんは面白いと思いませんか?

私、授業ではさすがにこういう話はしませんが、ここで述べた形容詞の使われ方のような話は、ゼミでも時々話している内容です。



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