『特別定額給付金とお面と私』な一年を振り返る。
※こちらの記事は『CivicTech & GovTech ストーリーズ Advent Calendar 2020 - Qiita』の12月20日公開記事となります。
『Civictech1年目 Advent Calendar 2020』に空きがあったようでしたので、激動の2020年を振り返りつつ、激変の2021年を創り出すためのキッカケにしたいなと思います。
アンタだれだよ!!
という方も多いと思います。現在、加古川市の情報政策課というところで仕事をさせていただいています。
今年、シビックテック界隈で僕の名前を知っていただいた方は「特別定額給付金」「DIY都市(Decidim)」「お面」がキーワードになっていたんだろうと思われます。
この何年かは「スマートシティ」の取り組みについて話をすることが多かったのですが、「特別定額給付金」によってさらにチャンネルが増え、「DIY都市(Decidim)」によって拍車がかかったような気がしてます。
今年は、色々なところで市の取り組みについてお話をさせていただきましたが、新型コロナ感染症の関係で、年度が変わってからは当たり前のように全てオンラインだったりで、ほとんど対面で話す機会はありませんでした。
今年度の登壇一覧
・2020.1.20 日本・バルセロナ スマートシティフォーラム
・2020.6.20 東京オープンデータデイ2020
・2020.7.13 iEXPO「保育士の働き方改革に関する挑戦」
・2020.7.16 SCI-Japanウェビナーシリーズ「コロナとの共存時代のスマートシティを考える」
・2020.8.24 DSS座談会
・2020.10.7 サイボウズ自治体セミナー
・2020.10.17 CFJ Summit 2020「DIY都市を実現する参加型ルールメイキング」
・2020.10.18 CFJ Summit 2020「特別定額給付金とお面と私」
・2020.11. 9 SHIBUYA スマートシチズンシップ 「バルセロナ発の市民共創プラットフォームDecidemを渋谷に-」
・2020.11.28 地方創生セミナー「これから始める行政のデジタル変革~DX~」
・2020.12.17 会津地域DXミーティング
記憶しているだけでこんな感じでした。
仕事はちゃんとやってますのでご安心ください。
それぞれの場に立たせていただけるほど何かを話せたわけではなかったのですが、一つ一つが自分自身にとっての学びでしかないというか、改めて気付かされることの多さに驚いた一年でした。
恐ろしいことに、いつものグダグダなトークがYouTube上に残っているということろ。
一介の素人がしゃべっているのでさぞかしお聞き苦しかったのではないかと思います。今となってはさすがに怖くて見れない。
この記事を書いている時点で、SCI-Japanのウエビナー動画が500回も見られているので責任を感じてしまいますね。
いろんな転機と色々やばかった特別定額給付金
全ての元凶はコレにつきます。
まだネット上に残り続けているのか・・・
コレには裏話がありまして、朝日新聞の記者さんが新聞の紙面の都合で小さく掲載されてしまうことに対してお気遣いいただき、念のためにということで顔写真をと言われたので、どうせ掲載されることないでしょう〜と思って気を抜いて写ったらまさかのデジタル版に掲載されるという結果に。
しかもいつ掲載されるかあんまりちゃんと聞いてなかったので、たまたま駅のホームで市に関するツイート検索をしていたら、自分の顔がスクロールするたびに出てくるというなんとも言えない状態が発生してました。
で、いったい何をしてたのか
簡単なシステムを作っただけです。ホントに。
それぞれのポイントを時系列を大雑把に整理すると以下のような動きです。
今振り返ると、ターニングポイントはGW中の5月5日。これで全て決定したような気がします。(以下、丸数字がターニングポイントを表す)
この時点では、兼務発令も出ておらず、部下がマイナポータルから受け取ったデータの印字テストなどをしていると聞いたので様子を見に行くだけだったのですが、マイナポータルからの印字位置をチェックしていると、ZIPファイルの中にちゃんと構造化されたデータが入っていることが確認できたので、コレ使ってデータを取り込んだほうが早いんじゃないの?と。
ちなみに国の動きなどは、ネットニュースなどを振り返ると大雑把に以下のような感じでした。
マイナポータルの受付も各市町村の判断に委ねることとなったため、早くマイナポータルを開始することが報道で称賛された時期でもありました。
(1)「管理システム(最後まで名称はつけてない)」の作成
そんなわけで、5月5日からGW返上で「管理システム」をMicrosoft Accessで作ることに。
そんな管理システムの主な機能は以下の通り
・CSVファイルの一括取込(取り込んだZIPファイルは日付ごとにフォルダに分け、CSVファイルは取り込み用フォルダに入れる。取り込み後は日付ごとのフォルダに格納)
・申請者世帯主情報から申請者番号(受付番号)の取得
・給付対象者と住基情報との突合(カナ、生年月日などによる突合)
・給付対象者の人数、住基情報の世帯人数の格納
・住基情報と一致した給付対象者人数カウント
・金融機関コード取得
・申請回数のカウント(複数申請者の突合)
・エラーチェック処理
・不備申請の修正用画面
・添付ファイルの目視確認機能(直接ZIPファイルを開く)
・その他もろもろ
各市町において、マイナポータルからデータで受け付けたものを紙で印刷し、チェックできたものをまたデータ化するという過酷な作業が繰り広げられていました。
また、チェックに時間がかかる上に不備が多いといったことから、マイナポータルでの受け付けを停止する自治体も出てきました。
管理システムを先に作っていたおかげで、そういったトラブルに見舞われることなく、申請終了日の令和2年8月28日までマイナポータルからの申請受付を行うことができました。
※加古川市では後述の市独自のオンライン申請を実施しましたが、マイナポータルは停止していません。(←よく勘違いされる)
(2)問い合わせサービスの問い合わせ
特別定額給付金の事務にあたっては、マイナポータルの準備よりも、申請書をどのように作成するかというところに色々な職員が携わり準備していました。
どうやれば混乱が発生せず、不備が発生しにくい申請書を作れるかというところに多くの時間を割いてくれていたおかげで、後々の事務がスムーズに流れたのではないかと、振り返るとこれが全てではなかったかと思います。
4月末頃から新型コロナ感染症生活支援課に職員が配属されることになり、コールセンターの立ち上げなどの準備が進む中で、特別定額給付金の支給に関する問い合わせが殺到するのではないかという懸念がありました。
そんな中、コロナ禍で環境がガラッと変わってくるので、次の展開を考えるヒントがあればと思い、4月30日にCode for Japan主催の「行政向けICTハンズオンセミナー」にGWだったこともあったので参加させていただきました。
知った方々ばかりだったのもあり、セミナー終了後のオンライン飲み会にも参加させていただき、市川さんよりLINEチャットボットを活用した問い合わせサービスを作ろうとしているといったお話がありました。
そのときはまだ特別定額給付金の事務に携わることは想定してなかったので、それほど気にもかけていなかったのですが・・・
GW以降(5月12日)に兼務発令を受けたので、市川さんが話されていた内容をもう一度確認するために5月15日の夜中23時51分にメッセンジャーで連絡をすると、すぐさまSAPジャパン横山さんをご紹介いただき、翌日10時に打ち合わせとなりました(横山さんはあまり覚えていなかったらしい・・・w)
(3)問い合わせサービスサービスイン
市ホームページから遷移する形で作って欲しいこと、可能な限り早くサービスインしてほしいとコチラの無茶振りにも関わらず、なんと5月20日にサービスイン!!!
SAPジャパンさんのチームワークに感謝しかありません。
受付番号、オンライン受付番号、受付日、ステータス、振込予定日という5つの項目だけで、申請者からは受付番号かオンライン受付番号のいずれかを入力するだけでステータスなどが確認できるというものでした。
アップロードするデータは、当然ながら管理システムから出力できる仕組みとしていたので、職員の手間はボタンを押し、データをアップロードするだけとなります。
問い合わせサービスに遷移する市ホームページの5月、6月のアクセス件数を改めて調べてみると、308,000アクセスとなっており、
コールセンター1件あたりの平均通話時間(Average Talk Time)を単純に5分(電話受付、内容確認など)とした場合、約25,600時間の削減ができたことになります。
(4)市独自のオンライン申請発案
マイナポータルからの申請は、誤記入や複数申請という問題もありましたが、大きな影響を受けませんでした。
その一方で、本丸である郵送による申請をどのようにしてさばいていくかは当初から大きな課題となってました。
AI-OCRによる手書きの認証サービスも様々なソリューションが提供されている中で、AI-OCRの設定を入れる作業をお願いしたり、読み取りテストをしてもらったりしていたのですが、116,000件の対象世帯を1日1万件さばいたとしても12日以上かかるという状態。
読み取る前に申請書が正確に記載されているかという確認はもちろんのこと、AI-OCRで読み取った内容を点検することもしないといけないので、1枚あたりの申請書に対して思いのほか時間はかかります。
それ以前に、封筒を開封するというのも結構手間だったりということは意外と知られてないところです。(当然ながら大都市になればなるほど時間はかかりますよね。。)
そういった中、AI-OCRに読み取る箇所をいかに減らすかということを思案していたところ、そもそも市側から対象者の氏名などはあらかじめ印刷して送っているわけですから、そういった内容をAI-OCRでわざわざ読み込む必要はないとか。
そこで気づく。
「照会番号」を申請書にも本人控えにも印字してることに。
コレに気づいたのが5月21日の昼過ぎだったか、気づいた瞬間にAccessで職員に照会番号と口座番号を入力させるフォームを作り担当者に相談。
さらに気づく。
申請者に口座情報などを入れて送ってもらえばいいことに。
サイボウズの野水さん、トヨクモの田里さんに色々アドバイスをいただきながら、kintoneとFormBridgeとkViewerを組み合わせて、Web入力フォームのプロトタイプを2時間ぐらいで作り、翌日デモンストレーション。
(5)市独自のオンライン申請(郵送ハイブリッド方式)サービスイン
入力情報をどこまで削れるかや法的に問題ないかなども検証し、申請書送付日の5月27日にあわせて、市長の緊急記者会見を実施することに。
サービス開始までに色んな職員にテストをしてもらい、改修をかけたりUIの調整をしたりとゴニョゴニョやりながら、何とかサービスインにこぎつけました。
その前日には、加古川市版電子申請方式動画も作成してました。
オンライン申請の実際の画面イメージは以下の通り。
サービスが始まった翌日、朝一番にデータベースを見たら1件も来ておらず、ひょっとして失敗??という不安がよぎりましたが、しばらくすると一気に申請が増えてきたので一安心。
しばらくすると、色んなメディアに取り上げられ出したりと予想外の出来事がたくさん発生し、今に至っているわけです。
これを作ったことで一番良かったのは、市民の皆さんの手間を大幅に削減することができ、迅速に支給できたことに尽きます。
外出自粛が行われていた最中でしたので、コンビニにコピーを取りに行く、ポストへ投函するといったこともせずに、スマートフォンのカメラを利用することで本人確認書類を送付できる機能などもありましたので、おそらく紙の申請書に書くよりも格段に早かったのではないかと思います。
職員側の確認作業も本人確認書類や口座確認書類を一画面で見れるように作っていましたので、点検そのものも非常に迅速に行うことができました。
オープンデータの公開
この仕組みを市のオープンデータカタログサイトにアップしたところ、通常だと月50件程度のダウンロードだったものが、5月6月だけで2,500件と格段にあがりました。
それだけ反響が大きかったのでしょう。その後も色々な自治体の方から質問を受けたりもしました。
最終的にどれぐらいの効果があったのか
令和2年9月に開催された総務教育常任委員会の資料によると、
9月6日時点の支払状況については
【対象世帯数】 116,251 世帯
【申請済み件数】115,843 件(99.6%)
【給付済み件数】115,667 件(99.5%)となっており、
内訳としては、
・オンライン申請(マイナポータル) 3,928 件
・郵送申請 97,847 件
・加古川市版オンライン申請 14,040 件
となっています。
こうやってみると独自のオンライン申請を利用された方は全体の12%ぐらいとなっています。
84%以上を占める郵送申請をどうやって支給したかについてですが、今回作成したオンライン申請を改良し、審査済みの申請書の照会番号をバーコードリーダーを使って読み込み、口座情報のみを入力するという方法を取りました。
そうすることで、最大処理件数の実績で比較した場合、郵送申請の場合における職員1人あたりの処理件数は12.8件/時となりましたが、加古川市版オンライン申請の場合は114件/時と約9倍の処理能力を発揮できています。
このあたりの説明については、「行政&情報システム」2020年10月号において記事を書かせていただきました。
なぜお面なのか
相当長い記事になってしまいました。。。
ココまでたどり着かれた方は、そもそも「なぜお面なのか」と思われているかと。
前述したような記事やニュースを見ておられたおくみかさんが「株が爆上げなのでみんなで愛でたい」と申し出てくださり、6月25日にお面のイラストを作っていただき、そのお面をかぶってイベントをやろうということで7月4日にイベントを開催させていただきました。
なかなかのインパクトがありますね。。。
その後、「Code for Japan Summit 2020」のセッションに参加させていただくこととなり、そのときにおくみかさんにつけていただいたセッションタイトルが「特別定額給付金とお面と私」というわけです。
グラレコチームとの一体感あふれる素晴らしいグラレコも。
まとめ
色々とありましたが、本当に多くの方のご協力、ご助言があったからこそ、何とか無事に特別定額給付金の事務を終えることができました。
その後、加古川市新生児特別定額給付金の事務においても、今回のオンライン申請システムは使われており、原則この仕組みを利用して申請いただく形となりました。
課題はあったものの、マイナポータルにおいて電子申請を使ったことは大きな前進でした。
一方で地方自治体の個人情報保護条例「2000個問題」、カナ問題、外字問題、ネットワークの三層分離の課題などなど。。。電子申請を進めるにあたって、以前から言われ続けていた課題も明らかになったと思われます。
今後の電子申請がスムーズに進むことを期待して「特別定額給付金とお面と私」な一年を締めくくりたいと思います。
「Decidim」についてはまたの機会に。