「紅麹」の事例から学ぶ誤情報や偽動画への対策方法
今年3月から話題となっている「紅麹」問題。未だ原因物質が特定されていない中、多くの憶測がSNSで飛び交っています。「ベニコウジ色素」という食品の着色料が危険だとするデマや、小林製薬の社長が記者会見で健康被害の原因について述べていない内容を述べたとするフェイク動画が拡散しています。本記事では何が正しい、間違っているといった情報を提示するのではなく、様々な偽情報が飛び交う中で意識しておくと良いポイントをいくつか紹介したいと思います。
個人の意見は信頼度が一番低い
情報の確認方法として、「出典を確認する」、「専門家の意見を参照する」、「複数の情報源を比較する」ことなどが重要と言われることが多いです。ただしここで注意して欲しいのは、例えその分野の専門家であったとしても、研究者の世界においては個人の意見の信頼度は低いものとみなされます。
上図は「根拠に基づく医療(EBM)」と言う考え方で用いられるエビデンスレベルを表したものです。根拠となる情報元や研究データの形態に応じてレベル分けされます。エビデンスレベルの高い方が科学的に根拠があると考えられます。
今回の「紅麹」のようなケースでは、「ワクチンとの相互作用が原因かもしれない」といった個人の憶測を鵜呑みにせず、実験による評価結果に基づく公的機関や研究機関の発表を待つのがベストでしょう。
脊髄反射を制御する
ダニエル・カーネマンが提唱しているように、人間の思考法には2種類(「システム1」と「システム2」)あると言われています。これらの概念は、私たちがどのように思考し、反応するかを理解する上で重要です。
システム1の特徴:
システム1は直感のように非常に高速で効率的な思考プロセスです。これにより、私たちは複雑な思考を必要とせずに、日常の多くの状況に対処できます。例えば、笑顔を見たときに自動的に幸福感を感じるのはシステム1の働きです。
システム2の特徴:
システム2は、集中力や意識的な努力を必要とする思考プロセスです。複雑な数学問題を解く、複雑な意思決定をする、または新しいスキルを学ぶときなどにこのシステムが活動します。
SNSのようなアテンションエコノミーが助長される環境では、システム1の反応を生み出すためのコンテンツ(=インプレッションを集めやすいコンテンツ)が多数出回っています。そのようなコンテンツに触れてシステム1の反応を示している際は、たとえ内容がフェイクであったとしても受け入れてしまう可能性が高く、注意が必要です。
今回の騒動で言えば、「小林製薬はシロだった」「こんなところにも紅麹が使われている」といった情報を見て反射的に許せない、怖いと思った人が多く、その結果デマの拡散に寄与したのではないでしょうか。
SNSのフィードには自分の見たい情報が集まりやすい
TwitterやYouTubeなどあらゆるSNSではAIを用いたレコメンデーションが行われており、大量の情報の中からユーザーにあった情報をフィルタリングしてフィードに表示しています。その結果、フィルターバブルという現象が生じています。フィルターバブルとは、インターネットユーザーが自分の興味や信念に合致する情報にのみさらされる現象を指します。
さらに人間は、自分の既存の信念や仮説を支持する情報を選びがちになり、反する情報を無視する傾向(=確証バイアス)を持っています。
その結果、見える情報が狭まってより自分の考えに固執してしまう危険性があります。自分と異なる意見を積極的に見に行くなどしてより多様な情報を意識的に得るようにすることが大事です。
上記のようなことに注意を払うことで、偽情報に惑わされるのを防ぐことができるでしょう。
■「TDAI Labについて」
当社は2016年11月創業、東京大学大学院教授鳥海不二夫研究室(工学系研究科システム創成学専攻)発のAIベンチャーです。AIによる社会的リスクを扱うリーディングカンパニーとして、フェイクニュース対策や生成AIの安全な利用法について発信しています。
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