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X(Twitter)のコミュニティーノートに関するビッグデータ分析

SNSの世界では、真実と虚偽の境界線が曖昧になりがちです。そんな中、X(旧Twitter)が導入した「コミュニティーノート」が、情報の信頼性向上に一石を投じています。ユーザー自身が情報の正確さをチェックし、注釈を付けるこの画期的なシステムは、どのように機能し、どんな影響を与えているのでしょうか?


コミュニティーノートとは?

コミュニティーノートは、X上の投稿に対してユーザーが注釈を追加できるシステムです。従来のトップダウン型のモデレーションとは異なり、ユーザー同士が協力して情報の正確性を評価します。注目すべきは、単純な多数決ではなく、立場の異なるユーザーからも支持される注釈が優先されるという点です。

このシステムは、まずユーザーが投稿に対する注釈を提案します。次に、他のユーザーがその注釈の有用性を評価します。そして、多様な背景を持つユーザーから高評価を得た注釈が、元の投稿に表示されるのです。これにより、偏向のない、バランスの取れた情報提供を目指しています。詳細はコミュニティノートガイドを参照してください。

コミュニティーノートの実例

コミュニティーノートの威力が最も発揮されるのは、フェイクニュースや誤情報との戦いです。一例として、災害時や緊急事態において、コミュニティーノートは重要な役割を果たしています。デマや誤った情報が広まりやすい状況下で、現地からの正確な情報や公的機関の発表をタイムリーに追加することで、パニックの防止や適切な行動の促進に貢献しています。

こちらのツイートには「カナダ地震」として動画が添付されていますが、コミュニティノートによって訂正されています。

コミュニティノートでは以下の点が明確に示されています:

  • 投稿された動画がフェイク画像であること

  • 実際のカナダ地震に関する正確な情報へのリンク

  • 信頼できる情報源からの状況報告

この事例は、コミュニティノートシステムの効果を如実に示しています。ユーザーが誤った情報に惑わされることなく、迅速に正確な情報にアクセスできるようになったのです。さらに、このような訂正が行われることで、フェイク情報の拡散を未然に防ぐ効果も期待できます。

コミュニティーノートの分類

コミュニティーノートでは、ミスリーディング情報や誤解を招かないコンテンツを詳細に分類して、ユーザーがどのような背景情報を意識しているか集計しています。この分類は、情報の性質をより正確に把握し、適切な対応を促すために設計されています。

具体的なミスリーディング情報は以下のカテゴリーに分類されます:

  • misleadingOther:その他の理由で誤解を招く

  • misleadingFactualError:事実と異なる

  • misleadingManipulatedMedia:メディアが改ざんされた

  • misleadingOutdatedInformation:情報が古い

  • misleadingMissingImportantContext:重要な文脈が欠けている

  • misleadingUnverifiedClaimAsFact:事実とはまだ検証されていない主張

  • misleadingSatire:風刺であることが明確でない

さらに、誤解を招かないコンテンツに対しても以下のような分類があります:

  • notMisleadingFactuallyCorrect: 事実として正確

  • notMisleadingOutdatedButNotWhenWritten: 現在は古いが、書かれた時点では正確だった

  • notMisleadingClearlySatire: 明らかな風刺

  • notMisleadingPersonalOpinion: 個人の意見として述べられている

  • notMisleadingOther: その他の理由で誤解を招かない

この詳細な分類システムにより、ユーザーはコンテンツの性質をより正確に特定し、適切な対応を行うことができます。例えば、「事実と異なる」情報に対しては正確な事実を提供し、「重要な文脈が欠けている」場合は背景情報を追加するなど、状況に応じた効果的な注釈が可能となります。

コミュニティーノートの運用状況

コミュニティーノートの実際の運用状況を把握するため、日本語のツイートにおけるミスリーディング情報と誤解を招かないコンテンツの傾向を、2021年1月28日から2024年6月25日までのデータを使用して分析しました。分析しました。情報ソースが付いた60,663件のツイートを対象とした調査結果から、日本のユーザーが重視している点が明らかになりました。各カテゴリーの数値は、そのカテゴリーに該当するフェイク情報が指摘された回数を示しています。

コミュニティノートの分類

調査結果によると、日本のSNS環境において特に問題となっているフェイク情報の特徴が浮かび上がります:

  1. misleadingImportantContext(重要な文脈が欠けている):約39,000件 最も多く指摘されたカテゴリーが「misleadingImportantContext」であることは、断片的な情報発信や一面的な報道が誤解を招きやすい現状を反映しています。実際、生成AIによって情報の要約や切り抜き動画を容易に作成できるようになったことが起因していると考えられます。さらに、SNSの特性上、短い文字数制限や視聴者の注目を集めるための過度な簡略化が、重要な背景情報の欠落につながっている可能性があります。

  2. misleadingFactualError(事実と異なる):約38,000件 「misleadingFactualError」の多さは、誤った情報が容易に拡散される危険性を示しています。この背景には、情報の真偽を確認せずに共有してしまうユーザーの行動や、意図的に虚偽情報を流布する悪意ある行為者の存在が考えられます。また、AIによる自動生成コンテンツの増加も、事実と異なる情報の拡散に寄与している可能性があります。

  3. misleadingUnverifiedClaimAsFact(事実とはまだ検証されていない主張):約23,000件
    「misleadingUnverifiedClaimAsFact」が多いことは、速報性を重視するあまり、十分な検証がなされていない情報が広まりやすい傾向を示唆しています。SNSの即時性と拡散力が、未検証情報の急速な広がりを助長している側面があります。また、センセーショナルな主張や噂が注目を集めやすい傾向も、この問題を悪化させている要因の一つと考えられます。

この分析結果は、メディアリテラシー教育にも重要な示唆を与えています。ユーザーが情報を批判的に評価し、文脈を考慮し、出典を確認する習慣を身につけることの重要性が改めて浮き彫りになりました。

コミュニティーノートの情報源

コミュニティノートの重要な特徴の一つは、ユーザーが提供する背景情報や修正内容に信頼できるソースへのリンクが含まれることです。これにより、情報の正確性と透明性が大幅に向上しています。先ほどの実例で示したように、災害時のデマ対策などにおいて、このリンク機能は極めて重要な役割を果たしています。そこで、上記分析のコミュニティノートで使用されているリンクの出典を集計しました。

コミュニティーノートのドメイン

調査結果によると、最も頻繁に参照されているドメインは以下の通りです:

  1. Twitter - 約15,500回

  2. 厚生労働省 (mhlw.go.jp) - 約15,500回

  3. Togetter - 約10,400回

  4. Yahoo! Japan - 約7,600回

  5. NHK - 約7,500回

  6. X - 約7,000回

この結果から、いくつかの興味深い傾向が浮かび上がります:

  • プラットフォーム内の信頼性: Twitter、Togetter(Xポストまとめ)、Xのドメインは全て現在のXと情報源は同じため、実質現在のX自体が最も参照されていることになります。これは、プラットフォーム内での情報の循環と検証が活発に行われていることを示しています。ユーザーは他のツイートや公式アカウントの情報を積極的に活用して、誤情報を訂正したり、追加の文脈を提供したりしています。

  • 公的機関の重要性: 厚生労働省のウェブサイトが二番目に参照されていることは、公的機関の発表が重要視されていることを示しています。これは、COVID-19パンデミックなどのヘルスケアに関するデマが多くあったことと関連しているのではないでしょうか。

  • 伝統的メディアの信頼性: Yahoo! JapanやNHKなどの主要メディアが上位に入っていることは、デジタル時代においても従来の報道機関が信頼できる情報源として認識されていることを示しています。

この分析結果は、コミュニティノートが多様な情報源を活用しながら、情報提供を実現していることを示しています。ユーザーは公的機関、メディア、そしてプラットフォーム内の情報を組み合わせて、より信頼性の高い情報環境を構築しようと努めている姿勢が見て取れます。

まとめ

コミュニティーノートは、デジタル時代の情報リテラシーの在り方を問い直す重要な試みです。ユーザー1人1人が情報の送り手であり、同時に評価者となる。この新しいパラダイムは、より信頼性の高い、健全なオンライン空間の創出につながるかもしれません。私たちユーザーも、単なる情報の消費者ではなく、積極的に真実を追求し、共有する主体として、この革新的なシステムに参加することが求められています。

■「TDAI Labについて」
当社は2016年11月創業、東京大学大学院教授鳥海不二夫研究室(工学系研究科システム創成学専攻)発のAIベンチャーです。AIによる社会的リスクを扱うリーディングカンパニーとして、フェイクニュース対策や生成AIの安全な利用法について発信しています。