おわりに #会計の地図
この記事は、2021年3月16日発売の書籍「会計の地図」を全文無料公開したものです。3月8日から項目ごとに約1ヶ月連続で、200ページをまるごとすべて公開しています。最初から見たい方は、以下の記事へ(本記事は最後の記事です)。
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それではここから本文つづきです。
おわりに
僕はもともと、ビジネスやお金の話が大の苦手だった。それなのになぜ、会計の本を書くことになったか、最後に少し書いておきたい。
創業した会社で、「社会課題をクリエイティブで支援する」活動を行っていた。NPOなどの最前線で社会課題に立ち向かう人たちと対話することが多くなった。想いを表すブランドロゴ、信念を届けるテレビCM、寄付を募るWebサイト、パンフレットなど、つくれるものは何でもつくったが、活動する上でいつも課題になるのが「お金」だった。
とにかく、お金が足りない。お金が足りないと活動できない。社会的な課題の解決は、ただでさえ活動する上で受益者負担(利益を得る人がお金を支払うこと)が成り立ちにくい。たとえば子どもの貧困問題を解決する活動では、価値を提供する相手は子どもやその家庭になるが、貧困な家庭は対価としてのお金が出せない。
社会に必要とされる活動をしているにもかかわらず、活動が継続しにくい。社会課題に対しては、クリエイティブだけでなく、経済合理性もあわせて成り立たせる必要がある。でも、それが難しい。もどかしかった。
そういう課題感から、僕はビジネススクールに通った。学び始めると、ビジネスへの苦手意識は食わず嫌いで、じわじわ「面白い」と思うようになってきた。ビジネスはクリエイティブで、人間の英知が詰まった、とてもよくできた仕組みだった。
「よくできた仕組み」そのものが好きな僕は、ビジネスのおもしろさを伝えたくて、2018年に『ビジネスモデル2.0図鑑』(KADOKAWA)という本を、50人規模のコミュニティのメンバーと一緒に上梓した。世界中の100のビジネスモデルを図解して紹介した。僕にとっての「図解」とは単に「絵にする」という意味ではない。ある概念の構造をとらえ、どんな仕組みやルールで成り立っているのかを明らかにする方法だ。この本は幸いにも多くの方に読まれ、9万部以上発行された。
本書の編集担当であるダイヤモンド社の今野さんから連絡をいただいたのは、2017年の11月だった。最初は「ビジネスモデルの図解」をテーマにした本の相談だった。しかし、その数日前に別の出版社の方から同じテーマで依頼をいただき、すでに話が進んでいた。
そこで新たに持ちかけたのが「ビジネスワードの図解」。いわゆるビジネス用語をヒト・モノ・カネに分け、それぞれ図解する企画。会計用語のほか、ファイブフォース分析やポーターの基本戦略、組織変革の7Sのようなフレームワークも含めたビジネス用語全般を図解する内容だった。
進めるうちに、メッセージが絞りづらいと感じた。扱う範囲が広すぎて、一つひとつの内容が浅くなってしまう。しかも「図解でビジネス用語を解説する」趣旨の類書は、すでにあった。同じことをやっている人がいたら、自分がやる必要はない。「お先にどうぞ」という気になってしまう。本書で紹介した「逆説」的な企画じゃないと、やる気が起きなかった。
「何か根本的にやりかたを変えなければ」と悩んでいたとき、仕事で「入社1年目で知りたかったお金の話」という、売上と費用と利益の関係を図解する記事を書いた。これに予想以上の反響があった。
その出来事と、冒頭で書いたような、かつて自分が抱いていた「ビジネスにおける経済合理性」の問題意識をきっかけにして、ヒト・モノ・カネ全部を網羅するのではなく、「カネ」の話に絞る、つまり会計の本にする方向を見出した。このとき2019年5月。
この時点では、50以上の会計用語を扱おうとしていた。しかし、再び「網羅的に解説するより、本当に伝えたいことに絞りたい」と思うようになり、考案したのが「会計の地図」だ。PLとBSを組み合わせたシンプルな図を、色分けするだけで用語を表現した。それをツイッターに投稿すると、関連投稿とあわせて1万いいねを超える反響があった。
その投稿に反応してくれたのは、主に、これまで会計に触れることのなかった人たちだった。学ぶ必要性は感じていても、昔の僕と同じように、会計に苦手意識を持つ人たちだった。そんな人たちが読める「入門書の前に読む入門書」を書きたいと思った。
これまでの会計の本は「学ばなきゃいけないもの」 という前提で書かれているものが多かった。「仕方なく」学ぶと、どうしても苦しんで暗記する方向になりがちだ。そうではなく、「学びたいから学ぶ」とか「おもしろそうだから読んでみる」という本にしたいと強く思った。
だから、用語の数も、会計の要点をつかむに当たって最少に絞り、一つひとつをていねいに図解することにした。そして、これからのビジネスはどうなるか、どんなことが社会から求められるか、自分は何をするか、そういうビジネスに携わるすべての人に関わる広い問題と、会計をつなぐ架け橋になれるよう、本書を構成した。
振り返ると、紆余曲折だらけだった。ここまでこれたのは、支えてくれた方々のおかげだ。この本を書き始めてから出会い、執筆中に結婚し、いつも心の支えになり、公私ともにパートナーである妻、吉備友理恵に礼を言いたい。深夜に何度もフィードバックしてくれた。ありがとう。そして当初からずっと伴走し、すべての打ち合わせに参加し、僕が苦手とするところもふくめ、本を一緒に書き上げてくれた沖山誠に感謝がつきない。いつも本当にありがとう。
会計用語を図解したもともとのきっかけは、かつてグロービス経営大学院に通学していた際、会計の授業に惹かれたからだ。松本泰幸先生、あらためて感謝申し上げます。先生の話が面白過ぎました。執筆過程でも多数のフィードバックをいただき、松本先生なしに書き上げることはできませんでした。そして、監修者の岩谷誠治さんに大変感謝している。初学者のための「わかりやすさ」と会計的な「正しさ」のバランスを踏まえ、こちらの想いを最大限受け止めた上で、どのような記述であれば最適なバランスになるか、難しい表現を最後までとても親身に考えてくださった。
僕の会社のメンバーは、執筆に悩んでいる時期でも変わらず見守ってくれた。初期段階で尽力してくれたコミュニティのメンバーにもお礼を言いたい。僕が力不足なために、うまく進行することができなかったけど、みんなとディスカッションを通じて得られたことも大きかった。
そして編集担当の今野さん、ありがとうございます。3年かかっちゃいました。今野さんが諦めずに価値を見出しつづけてくれたから、この本があると思います。ほかにも書ききれないたくさんの人が支えてくれたことに、感謝してもしきれません。
この本が、少しでも多くの人にとって、自分と社会とのつながりを感じ、未来に向けた前向きな行動を起こす機会になれば幸いです。
2021年3月 近藤哲朗
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これで会計の地図の全文公開は以上です。ついに連続全文公開も開始から1ヶ月が経ち、無事おわりを迎えることができました。ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
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