先進国と途上国の対立が議論を難しくさせていた「パリ協定」が採択できた理由
チャーリーです。
1年間、ビジネス誌「THE21」で連載した内容を特別に公開許可いただいたので、1つずつ記事にすることにしました。
この記事では、パリ協定がなぜ採択できたかについて、簡単に紹介します。
パリ協定はなぜ採択できたか
温室効果ガス削減を途上国にも義務づけた
2021年1月に米国大統領に就任したバイデン氏は、トランプ前大統領が離脱したパリ協定に復帰する方針を示しています。
パリ協定は、2020年以降、各国がどのように二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量削減に取り組むかを定める枠組みで、15年のCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)で採択されました。
世界の平均気温の上昇を産業革命前と比較して2℃、できれば1.5℃未満に抑えることを目標としていて、米国以外のすべての国が参加しています。
2020年までは、1997年に採択された京都議定書が、各国の温室効果ガス排出量削減の枠組みでした。
京都議定書では先進国だけに排出量削減が義務づけられていましたが、パリ協定ではすべての国に義務づけられたことが大きな違いです。先進国だけでは気温の上昇を十分に抑えられないので、途上国にも義務づけられたのです。
しかし、これには途上国が強く反発しました。地球温暖化が起こっているのは、これまで先進国が大量に温室効果ガスを排出してきたからであって、その責任は先進国にある。これから工業化を進めなければならない途上国に削減を義務づけることは経済発展の妨げになる、というわけです。特に中国やインドなどが強く反対し、議論が紛糾しました。
どの国も合意しやすい目標設定方法とは?
しかし、途上国すべてがパリ協定に消極的だったわけではありません。地球温暖化で国土が水没する可能性があるマーシャル諸島などは積極派で、同国が中心となって「高い野心同盟」が結成されました。
欧州の国々やオバマ政権の米国などもこれに参加したことで議論がまとまり、史上初めてのすべての国が参加する枠組みであるパリ協定の採択が実現したのです。
パリ協定の内容を見ると、途上国が合意しやすいよう、目標の立て方が工夫されていることがわかります。各国にトップダウンで割り当てられるのではなく、各国がそれぞれ目標を提出するボトムアップ型になっているのです。
立てた目標に向けての取り組みの実施状況は国連に報告し、検証を受けることになっています。達成できなくても罰則はありませんが、他国の目を意識せざるを得ないようにして、目標達成の努力を促すようにしているわけです。
目標は5年ごとに見直し、より高くしなければならないことも決められています。ボトムアップ型の目標では、気温の上昇を産業革命前と比べて2℃未満、できれば1.5℃未満に抑えるという長期目標の実現は難しいのですが、5年ごとに目標を高くしていくことで実現しようということです。
中国と米国の二酸化炭素の排出量を合わせると世界全体の40%を超えます。京都議定書では途上国である中国には削減の義務がなく、米国は京都議定書から離脱していました。米国が復帰することで、この2国がパリ協定に参加する意義は大きいと言えます。
図解:チャーリー
取材執筆:桃山透
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説明は以上です。
こちらの記事は、PHP研究所が発行しているビジネス誌「THE21」で2021年1月号から12月号まで連載していた「図解で深掘り!時事ワード」の内容を掲載したものです。本記事が掲載された号は以下です。
誌面に掲載するフォーマット上、図解は2枚ずつ掲載しています。
本来は2枚じゃなくもっと枚数をふやして図解すべき内容もあるなと思いつつ、誌面の制限に従い、いったん全て2枚ずつでまとめるフォーマットで揃えています。
今回、日をあける形で記事の掲載を許可いただいたので、少し時間が経過しているものもありますが、ご了承ください。また、記事中にもし間違いなどありましたら直しますので、教えていただけると嬉しいです。
これらのテーマについて記事にしていきます。
サステナビリティー・リンク・ボンド【公開済】
TESLAの炭素クレジット【公開済】
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オリンピックのビジネスモデル
東証市場再編
なぜこれらのテーマなのか?と聞かれると、その時々で気になっているテーマだったから、ということで選定基準はかなり属人的です。
振り返ってみれば、大きな枠組みの変化や、面白い仕組み、取り上げるべきイシュー、そういったテーマを選んでいた気がします。もともとの連載のリクエストとしては、時事的な話題をなんらか図解して紹介してほしいということだったので、時事的であることだけ縛りがあります。
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以上です。