大学の国際競争力を高めるための「大学10兆円ファンド」
チャーリーです。
1年間、ビジネス誌「THE21」で連載した内容を特別に公開許可いただいたので、1つずつ記事にすることにしました。
この記事では、大学の国際競争力を高めるための「大学10兆円ファンド」について紹介します。
大学10兆円ファンド
日本の大学の競争力が低下。資金の配分で強化を目指す
2021年1月28日、参議院本会議にて、JST(科学技術振興機構)法の改正案が可決されました。文部科学省所管のJSTに大学ファンドを創設するための法改正です。
背景にあるのは、日本の大学の国際競争力が低下しているという問題です。被引用回数の多い論文数の各国順位を見ても、日本は下がっています。若手研究者にポストを提供したり十分な給与を支払ったりする資金が大学にないことが要因として考えられ、博士課程への進学率も低下しています。
米国を見ると、ハーバード大学は4.5兆円、イエール大学は3.3兆円、スタンフォード大学は3.1兆円もの基金を持っています。
それに対して日本は、慶應義塾大学が730億円、早稲田大学が300億円、東京大学が150億円と、まさに桁違いの差があります。
そこで、JSTに大学ファンドを創設し、その運用益の一部を、世界トップレベルの研究を行なう大学に配分することで、日本の大学の研究力を底上げし、国際競争力を強化しようというわけです。
米国の大学基金は卒業生らの寄付によるものですが、JSTに創設される大学ファンドへは政府主導で資金を拠出します。
その金額は、まずは2020年度の第3次補正予算からの5,000億円に21年度の財政投融資からの4兆円を加えた4兆5,000億円から始めて、早期に10兆円規模にする予定です。
2021年度中に運用を開始し、大学への配分は2023年度から始めることになっています(※大学への配分開始時期については記事公開時点では2024年度からとされているようです)。
国のお金を投資に回したGPIFの実績は?
資産の運用は外部のしかるべき機関に委託し、長期的に安定するように分散投資を行ないます。
国のお金を投資に回すことを快く思わない人もいるでしょう。しかし、約180兆円の年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、2001年度以降の収益額が累積で約85兆円、収益率は年率3.37%となっています。
もちろん、年によってはマイナスになることもあるのですが、もし運用をしていなければ、この約85兆円は得られなかったわけです。
仮に、大学ファンドも年率3%の利回りで運用できれば、10兆円のファンドですから、年3,000億円の運用益が出ることになります。運用益の全額を大学に配分するわけではありませんが、かなり大きな金額であることは間違いありません。
ちなみに、政府の一般会計予算が毎年約100兆円です。そのうち社会保障費が約35兆円であることを考えると、単純に比較はできないものの、10兆円という金額がいかに大きいかがわかると思います。
世間ではあまり注目されていないように思われますが、政府の力の入れようが窺われます。
図解:チャーリー
取材執筆:桃山透
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説明は以上です。
こちらの記事は、PHP研究所が発行しているビジネス誌「THE21」で2021年1月号から12月号まで連載していた「図解で深掘り!時事ワード」の内容を掲載したものです。本記事が掲載された号は以下です。
誌面に掲載するフォーマット上、図解は2枚ずつ掲載しています。
本来は2枚じゃなくもっと枚数をふやして図解すべき内容もあるなと思いつつ、誌面の制限に従い、いったん全て2枚ずつでまとめるフォーマットで揃えています。
今回、日をあける形で記事の掲載を許可いただいたので、少し時間が経過しているものもありますが、ご了承ください。また、記事中にもし間違いなどありましたら直しますので、教えていただけると嬉しいです。
これらのテーマについて記事にしていきます。
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東証市場再編
なぜこれらのテーマなのか?と聞かれると、その時々で気になっているテーマだったから、ということで選定基準はかなり属人的です。
振り返ってみれば、大きな枠組みの変化や、面白い仕組み、取り上げるべきイシュー、そういったテーマを選んでいた気がします。もともとの連載のリクエストとしては、時事的な話題をなんらか図解して紹介してほしいということだったので、時事的であることだけ縛りがあります。
掲載した記事は以下のマガジンに入れていきますので、今後の記事が気になる方はぜひフォローしてみてください。
以上です。