右翼の家に生まれました

うちの祖父母は、元帝国陸軍でした。

祖父は元は公務員でしたが、軍に入った様子。詳しいことはあまり聞けませんでした。聞いてはいけない様子だったので。

祖母は明治の生まれで満州で従軍看護師をしていました。こちらは志願したようです。祖母の持っていた古い木製の救急箱には、なぜか内服薬より外傷用の包帯だのヨードチンキだのがきっちり整理されて入っていました。蓋の裏にはハサミとピンセット。昭和生まれの自分は「バンドエイドがあればそれでいい」と思っていたのにです。

小さい頃は「佐藤栄作万歳」というと誉められ「共産党は悪」と言うと誉められ、といった感じで、でも小さかったから佐藤栄作が誰かを知らない。もちろん「きょうさんとう」って何なのかは知らない。ただ、その人達は憎んで良いのだと教えられました。

ですが、中学の先生は思いっきり「左翼」でした。

まだ小学校の頃は「戦時中は薙刀部隊にいた」なんていう、勇ましい中年女性教師がいて、すこぶる怖かったりしたのですが。

中学校の音楽の先生はとにかく「平和」の人で、「原爆反対」の歌を教える。そればかりやる。友人が文化祭でモデルガン展示をしたい(ミリタリーファン)と言ったらとんでもないと叱る。「花はどこへ行った」などのフォークソングを中心に、反戦、反戦という様でした。

若い先生はどの方もそうだった気がします。時代ですね。おじいちゃんらは「貴様と俺とは同期の桜」を大声で歌って、若い先生らはジョン・レノンだの「戦争を知らずに、僕らは生まれた〜」と歌っていた。自分はどっちもダサくて嫌いでした。アニメソングの方が好きでした。宇宙戦艦ヤマトブームが一段落して、機動戦士ガンダムの上映会(熊本では放映無かった)に行ったっけ。

トラブルは、それを祖母に話したことで起きました。

そのトラブルは、夕食の時に学校での平和教育をうっかり話してしまったことで起きました。夏休みの真ん中にある、出席日だったと思います。長崎、広島の原爆について、学校で授業がありました。

「アメリカが戦争を終わらせてくれた」

「日本は軍備を持つべきではない。平和の為には」

祖母は激怒しました。「どこのバカ教師だ、子供にそんな嘘を教えるのは。赤のスパイがまじっているのか!」

「おばあちゃん、もう戦争はとっくの昔に終わったんだよ。おばあちゃんはね、ファシズム、日本軍に洗脳されていたんだよ!」

「洗脳されているのはお前達の方だ」

それからは言い争いになり、祖母は学校の教師を訴える、どこかに報告してやる(非国民だから)と息巻くので、なだめるのに必死でした。

そして最後は

「自分が間違っていたから許してください。もう2度と言わないから」

と泣いてしまいました。


どっちが洗脳されているのだろう?

さて、そんな勇ましい祖母ですが、いくつか冷静に聞いたことがあります。

まず、韓国人(朝鮮人)について。

戦時中、軍に連行された朝鮮人は「別に何も悪いことはしていないのを知っていた」そうです。しかし、周りのみんなが、朝鮮人は悪だ、死ねというので、同調しなければ自分も睨まれる、目をつけられると困るから同調した、と言いました。戦争のときに「踏み絵」を出されたら、信心などは捨てろとは言わないが、ごめんなさいと目を瞑って踏むべきで、そうしないと命が危ない、敵より周囲に殺されるのだと。

それから、軍備について

「お前は家に鍵をかけないで、どうぞどうぞ取ってくださいと言うのか。軍備はもっと増強しなくてはダメだ。非武装なんてとんでもないことだ。外国を信用してはならない。どんなにニコニコしていても異人を信用してはダメだ。特にロシア人は、最後まで参戦しないと言っていたのに嘘をついた」

「ヒットラーを悪く言うけれども、戦前は友好国だった」

これに対して、音楽の先生が言うことは正反対で

「アンネの日記」を読みなさい。ユダヤ人がいかに虐殺されたか。「はだしのゲン」を読みなさい。どれだけ多くの、何の罪も無い一般人が死んだのか」

並行…。

「鬼畜米英」のはずのカルチャークラブを聴き始め、「どっちもクソ」と思いながら、イデオロギー闘争からは逃げました。ひたすら。

洗脳された同士の争う様

人は自分が入っている枠の中でしか物事を知り得ない。

テレビ漬けならテレビの思想、5ちゃんねる漬けなら5ちゃんねる、TwitterならTwitter。自分の絶対正義を疑いはしないから。

昔、天皇万歳と言わなかったら、私はあの家ではうまく生きられなかったでしょう。その家に生まれたのだから逃げ場がない。

ヤンキーの喧嘩に似てる

国同士の争いが戦争だったとはいえ、この末端の、一般人の中の闘争って私にはヤンキーか猿のケンカにしか見えないです。

国際問題はもっと複雑だから、ここでは論じることはできません。これは単に「家庭問題」です。日本人としての立場を考えること自体がもう枠の中だと知っているから。

「でもね、これが正しいの!」

2つ、正反対の正しさをグイグイ押し付けられたんで、どっちが正解かなんてわかりません。それはきっと永遠に続くんでしょう。

「お前こそ洗脳されてる」と大人同士が争うのを見て育つ、なんてつまらないんだ。良い映画でも見たがマシだ。

子供は理想なんかは要らないから、普通に細やかに穏やかに生きていたかったんですよ。

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