ショートショーターは将太に転生しよった

さあ、この企画の締切も近づいてきた。
私も3本目、最後の挑戦である。


エッセイ的なものでなく、小説的なもので勝負したい。とはいえ、ハードルが高く難しい。こっそり楽をするために、少し前に自分で書いたショートショートを大幅に加筆して、面白くなるか、そのビフォーアフターを書こうと思う。

このショートショートに目を通しておいた方が、少しでも変化がわかるのでは。30秒以内に読めるのでオチまで読んでおくとよいかもしれない。

ちなみに読まなくても、楽しめるような、やさしい設計ではないので容赦頂きたい。

M1の1本目で書いたように、本日、私は家族とディズニーシーに来ている。そして結局ネタを考えている。

人気アトラクション、ソアリンに乗っている時もネタを考えていた。

その時、不意に意識が飛ぶ。
 

「わぁーーーーーーーーーーーーーー」


とは、叫んでいない。叫ばないといけない場面なだけ。

目の前は真っ暗。

誰かが私のことを呼ぶ。

「…………。…………た。…し………た。…しょうた。」


目を開けると、60代だろうか、一目で性格は頑固であることがわかる顔をした男性がいた。

辺りには木材や工具が転がっている。

「…将太。…ウチに来てから、何年になる?」

このセリフは…自分の創ったショートショートの中なのか…。
これは夢?でも意識や五感がやけにリアルだ。…もしや、事故に巻き込まれて…流行りの転生ってやつか?

どうせ転生するなら、魔法くらい使えるような世界が良かったのに、よりによって、ショートショートの世界って…とても損した気分だ。
さっきまで居た夢と魔法の国の方がよっぽどよい。

冷静になり、辺りを見回した。
10メートル四方は確かに何かを造っている建築現場に見えるがその外は見渡す限りの地平線。
そして建設現場に見えるだけで、ほとんどハリボテ。工具もひどいものは画用紙で作ってある。

あれか、予算か。

ショートショートの世界って予算なんてないようなもの。
キャラクターたちの服装も使い回し感があるし、ツギハギだらけだ。

これがSF的な世界のショートショートだったら本当にショボくなりそうだ。タイムマシーンは間違いなく段ボール製。

よし、どうせなら、自らの手で面白くしてやろうじゃないか。

「親方、もう3年立つので、金槌の握り方くらい教えて下さいよ!」


その瞬間、親方の目が大きく開き、言葉にならない言葉を発声した。
私の身体は動けなくなってしまった。

「今、お前が喋ったセリフはこのショートショートの根幹を揺るがす発言だ。せっかくの叙述トリックが台無しだよ。ワシの最後のかっこいい一言で、読者がはっとする、名場面がパーだ。
ワシらがこのショートショートにかける思いを想像したことがあるか?
映画やドラマのように何万人、何百万人に観られるわけでもなく、フォロワー100人未満のショートショートだぞ。
しかも多くは一分以内に読了される。まるで蚊取り線香のように、ワシらは必死に輝こうとするんだ。
ショートショートが終わった後、ワシらはどうなると思う?」

蚊取り線香は、きっと線香花火のことだろう。

「存在が消滅して星にでもなるんですか?」

「楽屋で次の出番を待つんだ。同じような役のショートショートができるまでな。
楽屋にはTVや雑誌も備えつけており、美味しんぼも全巻ある。
まあ、山岡と栗田が結婚した47巻だけ何故かないけどな。」

床屋や庶民的な食堂には、美味しんぼがよくあるが、大抵揃っていないことをふと思いだした。

「とりあえず、説教だ。脱げ、正座しろ」

言われた通り、全裸になり正座した。
多分、全裸の方がショートショート的にウケがいいからだろう。

「いいか、諦めたらそこで試合終了、という格言がある。ところがワシらの世界は、諦めるどころか、試合開始から負けることが決まっているようなもんだ。」

「はい、わかるような気がします。」

わからないのに、嘘をついて話を合わせた。

「お前が外の世界から来ているのは知っている。
元の世界に戻ったら、とにかくワシを登場させろ。腰が痛いから月一回でいいぞ。あと、できれば美女と一緒に登場させてくれ。」

蚊取り線香のくせに、注文が多い。

「あの、どうやったら戻れるんですか?」 

「安心しろ、もうすぐ条件を満たす。全裸で正座して60分待つことで、元に戻れる」

このルールを決めた人を金槌で殴りたいところだが、この世界の金槌ではかすり傷にもならない。

「最後にお前に言っておく。普段、ショートショートを書くとき、アイデアが空から降ってくるような感覚あるだろ?あれは、ワシがお前の脳に直接、アイデアを送ってるせいだ。決してお前が考えたわけじゃないからな。せいぜいがんばれよ」

再び、目の前が真っ暗になった。

…気付くとソアリンがちょうど終わったところだった。額や脇に嫌な汗を感じる。

今のは本当に転生だったのだろうか。
何にせよ、無事に戻ってきたからには、これからも創作をしていかねば。
ただ60代男性は、しばらく登場させたくない。

…そういえば、人気アトラクション、ソアリンの乗り物の名前は、

「ドリームフライヤー」と呼ぶらしい。

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