【五輪代表が多数出場する全日本実業団陸上② 五輪代表vs.好調選手(1)】
男子100mは多田、山縣、小池の五輪代表3人が激突
今季好調の坂井、東田が割って入るか?
全日本実業団陸上(9月24~26日・大阪ヤンマースタジアム長居)男子100mには多田修平(住友電工)、山縣亮太(セイコー)、小池祐貴(住友電工)と、この種目の東京五輪代表3人が揃った。
①で紹介した山縣のように五輪後ということで、今後を見据えて自身の課題に集中する選手が多い大会だが、見る側としては代表3人の争いは興味深い。選手もハイレベルなレースになった方が、現状をより明確に把握できるはずだ。
そして今大会の見どころは五輪代表だけではない。“ポスト東京”に向けてトレーニングを積んできた選手たちにとって、五輪代表と対戦できるまたとない好機だ。
●多田と山縣の勝負は中盤がカギ
多田、山縣、小池の3人は今季、4月29日の織田記念、6月6日の布勢スプリント、同25日の日本選手権の3試合で直接対決している。
織田記念は山縣がスタートから先行し、中盤以降も危なげない走りで10秒14(+0.1)の優勝。2位の小池に0.12秒の差を付けた。距離にすると1m強。近年の100mでは快勝と言える差だった。3位の桐生祥秀(日本生命)をはさんで多田が4位。山縣から0.18秒差をつけられていた。
布勢スプリントでも山縣の強さが光った。9秒95(+2.0)の日本新で、2位の多田に0.06秒差をつけた。前半こそ多田に先行されたが中盤で逆転。日本新が生まれたレースだが、後半で競り勝った点も評価できた。多田も10秒01で五輪参加標準記録(10秒05)を突破。
しかし日本選手権では、多田が10秒15(+0.2)で初めて日本の頂点に立った。得意のスタートで抜け出すと、左隣の桐生と2人右側の小池を圧倒。2人左側の山縣だけが食い下がったが、布勢スプリントとは逆に中盤で多田が引き離した。最後に右隣のデーデー・ブルーノ(東海大4年)が迫ったが、多田が0.04秒差で逃げ切りに成功した。山縣が10秒27で3位、小池が同タイムで4位。デーデーが標準記録を破っていなかったため、多田、山縣、小池の3人が代表入りした。
3レースの結果から、山縣と多田の対決となる可能性が高い。スタートももちろん重要だが、この2人が一緒に走れば大きな差はつかない。今季の3レースを見る限り、中盤で前に出た方が勝っている。
それに対し小池が勝つとしたら、終盤で逆転する展開になる。織田記念の小池は終盤で多田と桐生をまとめて抜き去った。布勢ではそれほど追い込んだ感じではなかったが、日本選手権では出遅れを取り戻し山縣を同タイムまで追い上げた。
観戦時には中盤まで多田、山縣のどちらが先行するかを見ながら、小池の位置にも注意を払う必要がある。
タイムを期待しすぎるのはよくないが、3人とも長居競技場との相性は良い。①で紹介したように、山縣は16~18年まで3年連続10秒0台で走った。多田が優勝した今年の日本選手権も長居開催で、大阪出身の多田にとっては地元でもある。そして小池も19年5月に長居開催のゴールデングランプリで10秒04(+1.7)と大幅な自己新で走り、7月のダイヤモンドリーグ・ロンドン大会での9秒98(+0.5。日本歴代3位タイ)につなげた実績がある。
長居でこの3人が対決するとなれば、快走する選手が現れないことの確率が低くなる。来年の世界陸上オレゴン大会標準記録の10秒05突破を期待したい。
●坂井、東田とはどんな選手なのか?
3人の争いが白熱するのは間違いないが、代表以外の選手にとって今大会はより重要な意味を持つ。好成績を収めれば、来季以降の代表争いへの布石とできるからだ。代表3人に割って入る候補として、東田旺洋(栃木県スポーツ協会)と坂井隆一郎(大阪ガス)の名前を挙げておきたい。今季の日本リストで坂井は10秒16で5位、東田は10秒18で6位。上位4人は山縣、多田、桐生、小池の東京五輪代表で占められている。
坂井は関大を卒業して2年目で、8月のAthlete Night Games in FUKUIでは10秒24(±0)で2位。優勝した桐生を50m付近までリードし、0.06秒差と健闘した。3月の世界リレー選手権代表選考トライアルに優勝(10秒38・+0.2)し、世界リレー本番では1走で日本の3位に貢献している。
東田は6月の布勢スプリントでは山縣、多田、小池に続く4位で10秒18(+2.0)の自己新、7月の実業団・学生対抗は五輪代表のデーデー・ブルーノ(東海大4年)を破り、10秒18(+1.4)の自己タイで優勝した。「(デーデーが五輪代表だから)勝たないといけない、という意識はなかったのですが、調子が良いのはわかっていたので、ちゃんと走れば勝負できると思っていました」
日本選手権で8位と力を発揮できなかったのは「50m以降の2次加速(1次加速よりも緩やかではあるがスピードを上げていく局面。一般的には60m付近まで)で地面を踏み込んでいくところがよくなかった」と分析。その修正が実業団・学生対抗の好走につながったという。
筑波大大学院を出て2年目。若手とは言えないかもしれないが、緩やかながら右肩上がりの上昇曲線を描いている。
高校までは200mが専門だったこともあるが、中学では11秒22、高校では10秒93(13年の高校リスト253位。1位は桐生で10秒01)だった。大学1、2年時は100m出場が確認できないが、3年時に10秒53をマークし、大学院2年時(19年)には10秒25と代表が見える位置まで成長。昨年10秒21、今年は10秒18が2回と伸び幅は小さくなっているが、トップレベルに達しても記録短縮を続けている。
「まずは自己記録の更新が目標ですが、ここまで来たら最後は9秒台を出したい。1個1個進んで行った結果、9秒台に到達できれば」
遅咲きスプリンターの代表のような存在である東田が、日本代表たちに真っ向勝負を挑む大会になる。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
【全日本実業団陸上】
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