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【GGP2022プレビュー⑤男子100m】

超高速スタートが武器のコールマンがGGPに自信
同じ前半型の多田、後半型の小池の挑戦も要注目

世界トップレベルの選手も多数参加する陸上競技コンチネンタルツアーの1つ、ゴールデングランプリ(GGP)が5月8日、東京・国立競技場で行われる。どの種目にも世界トップレベルの選手、話題性のある選手が出場するが、男子100mの注目度はやはり高い。19年世界陸上ドーハ大会に優勝したクリスチャン・コールマン(米国・26)が初来日。9秒98を持つ小池祐貴(住友電工・26)、昨年の日本選手権優勝者の多田修平(住友電工・25)が挑戦する。

●コールマンが狙う「2019年の再現」

前日会見のコールマンの言葉には自信がみなぎっていた。
「室内競技会シーズンで培ってきたものを、屋外シーズンにもきちんと持っていきたい。今シーズン初の100mでぜひ、勝ちを得て帰りたいと思うし、19年の最初に出したのと同じようなパフォーマンスができればと思っています。(100m初戦に対し)心配はあまり感じていません。室内で良いパフォーマンスもしてきたし、練習でも感触は非常によく、ワークアウトもうまく進んでいる。高いレベルのパフォーマンスをして、シーズンのいいスタートを切りたい」
 自信とともに、屋外初戦をしっかりと戦うんだ、という強い意思が伝わってきた。それだけGGPを重要視している。
 コールマンが言及した19年の最初の大会は、ダイヤモンドリーグ上海大会を指す。同じ東アジアで、同じ5月に開催された大会で、コールマンは2位ではあったが優勝者と同タイムの9秒86と、シーズン初戦としては好タイムで走った。そして9月の世界陸上ドーハの金メダル(9秒76の世界歴代6位)に結びつけるシーズンを実現した。19年の再現をするために、GGPでは9秒8台は狙ってくるだろう。
 コールマンの武器は世界で一二を争うスタートダッシュだが、後半が弱かったら世界陸上に勝つことはできない。実際、200 mも19秒85と日本記録(20秒03=末續慎吾・03年)を上回る記録を持つ。後半の走りも期待できる選手である。

●復活が期待される多田のスタート

多田もコールマンと同じ前半型の選手だが、昨年の日本選手権優勝時には後半もしっかりスピードを維持していた。陸連計測のデータでも、後半で猛烈な追い上げを見せた2位のデーデー・ブルーノ(セイコー・22)以外には勝っている。
 だが、17年GGPでジャスティン・ガトリン(米国)を驚かせたように、スタートが武器であることは間違いない。そのレースで多田の名前が一気に知れ渡り、その年の世界陸上代表入り、本番では準決勝進出と、トップスプリンターへの階段を一気に駆け上がった。
 しかし今季の出雲陸上は武器であるスタートで、桐生祥秀(日本生命)に後れをとってしまった。厚底スパイクを上手く扱えなかったことも一因で、織田記念からは昨年の日本選手権優勝時のスパイクに戻した。しかし織田記念でもハムストリング(大腿部裏側)に違和感が出たことや、雨と低温のコンディションもあって「自分の走りがまったくできなかった」(多田)。
 出世レースとなったGGPで、武器であるスタートの復活とともに復調をしたい。
「出雲、織田と試合の刺激が入っていなくて、いい結果を残せませんでした。今回はゴールデングランプリということで緊張感もすごくあって、本当にいい刺激になっている。明日は気持ちよくいい感じで走れるのではないかと思っています」
 コールマンの存在が、多田にとっては課題解決のための存在になる。同じスタートダッシュ型の選手に先行されてしまうと、力みや硬さが出てしまう傾向があり、昨年の東京五輪予選でもロニー・ベイカー(米国)に先行され、力をまったく発揮できなかった。
 それと同じ理由だったのかは未確認だが、多田は17年の世界陸上ロンドンの準決勝3組でコールマンと走ったときも「ボロ負けだった」という。
 勝つことは難しいかもしれないが、コールマンと一緒に走っても力みのない走りができれば、スタートを武器に善戦することができる。

●後半型の小池が前半のスピードが上がるレースになるか?

小池はコンディションが悪かった織田記念に10秒49で優勝した。向かい風3.3mだったことを考えれば、「合格点は行けたのでは」と小池自身も感じていた。
 内容的にも小池が狙った「中盤のトップスピードを上げる」レースに近づいていた。苦手のスタートで出遅れても慌てず、中盤で追いつき、後半で一気に前に出た。
「スタートでピッチを上げすぎると、中盤のトップスピードが下がるデータも出ています。前半のピッチはできるだけ抑えて、ブレーキをかけずにスムーズに加速する。自分の長所(後半の強さ)をより生かす走りで、短所は短所で調子が良ければなんとかなるだろう、ということですね。日本選手権など嫌でも集中するレースになれば、スタートから動けると思います」
 そのときは日本選手権を例に出していたが、外国人選手と走る国際大会も“集中するレース”になる。実際、小池が9秒98を出した19年ダイヤモンドリーグ・ロンドン大会は、前半から桐生と遜色ないスピードが出ていた。
「織田記念と静岡国際(200 m)と試合を重ねて、試合勘もしっかり戻ってきました。明日は、今シーズンで一番いい走りができるように頑張りたい」
 後半型の小池が、コールマンや多田に大差をつけられることなく前半を加速していけば、後半で大きな見せ場を作ることができるのではないか。
              ◇
 前日会見で日本人スプリンターの印象を質問されたコールマンは、「リレーが非常に強い印象がある」と答えた。日本の4×100 mリレーは16年リオ五輪銀、17年世界陸上ロンドン銅、19年世界陸上ドーハ銅と、メダルを取り続けてきた。個人ではロンドン大会の200mでサニブラウン・アブデル・ハキーム(タンブルウィードTC)が決勝に残っただけなので、“リレーの国”という印象を持たれるのは当然だろう。
 だが日本の男子短距離陣は、金メダルを狙った東京五輪の4×100 mリレーの失敗(バトンミスで途中棄権)の要因に、個人種目の力不足があると再認識し、個の強化をさらに踏み込んで進めている。
 GGPではコールマンに、日本人スプリンターは個人でも力があることをしっかりと見せたい。それが、男子短距離陣が再起する第一歩になる。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト


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