三浦と黒川が大学対校戦で快勝。日本選手権&世界陸上オレゴンに向けてチェックしたポイントは?【関東インカレ2022】
関東学生対校選手権(関東インカレ)が5月19~22日、東京・国立競技場で行われた。男子400mハードルの黒川和樹(法大3年)と3000m障害の三浦龍司(順大3年)は、7月に米国オレゴン開催の世界陸上の参加標準記録をすでに突破している。関東インカレでも黒川は49秒22、三浦は専門外の5000mだったが13分42秒35で貫禄勝ちした。
だがレース展開的には黒川が最後で追い込まれたのに対し、三浦は最後で2位以下を大きく引き離した。6月の日本選手権、7月の世界陸上オレゴンに向けて、2人はどんな課題をもって大学対校戦を走ったのだろうか。
●中盤のリズムに課題が残った黒川
黒川和樹(法大3年)が連戦の最後を49秒22と、今季3番目のタイムでまとめた。
「関東インカレは勝ちきるのが前提でした。しっかり勝てたことはよかった」と安堵した様子だったが、終盤で陰山彩大(日大4年)に追い上げられた点に不満も感じていた。
「中盤がよくなくて、それが終盤、差されそうになることにつながりました。そこを日本選手権ではちゃんと修正しないと。日本選手権では自分らしいレースをしっかりしたい」
“黒川らしい”レースとは、前半で奪ったリードを生かして逃げ切る展開を指す。今大会の予選後に次のように話していた。
「5台目まではハードル間を13歩でスピードを出し、逆脚踏み切りになる6台目、利き脚踏み切りに戻る7台目と、ハードル間を14歩と1歩増やすときにガッとピッチを上げます。そこが上手くできると(実際にはスピードが落ちても)、良い感じで後半を走り切ることができるんです」
48秒台はどんな状態でも出したいと考えていたが、連戦の疲れもある。今大会ではそこまでタイムは狙っていなかった。内容的に自分らしさを出し、日本選手権につなげることが一番の目標だった。
だが決勝では5台目こそ20秒9(筆者の計測)と、昨年5月のREADY STEADY TOKYOで48秒68の自己記録を出したときと変わらなかったが、6台目以降が0.1~0.2秒ずつ自己記録のときよりも遅かった。
「6台目でガッと入らないといけなかったのに、(13歩の区間)そのままのリズムで走ってしまいました。8台目で14歩から15歩に歩数が増えて本来はリズムアップしないといけないところでも、リズムを上げられませんでした」
日本選手権前に“黒川らしさ”を完全に発揮することはできなかった。
しかしプラスの評価をできる部分もなかったわけではない。「1台目は今季で一番良かった」という感触で序盤を走ることができ、前述のように5台目までは自己記録の時と同じスピードで走った。中盤でリズムを作れずにペースダウンしたが、「リズムが決められなかったなかで49秒22はぼちぼち」というタイムでまとめることができた。
4月に東京六大学(50秒32)、日本学生個人選手権(49秒40)、木南記念(48秒90)、5月に入ってゴールデングランプリ(49秒08)、そして関東インカレ(49秒22)とレースが続いた。連戦の締めくくりとして49秒22を出し、今後は3週間をかけて日本選手権に向けて調整できる。
3週間あれば一度休んだ後に、少しは追い込む時期も設け、さらにリフレッシュした状態で日本選手権に臨むことができる。48秒台中盤から前半も期待でき、さらに世界陸上で48秒前後までもっていく。それに成功すればオレゴンの決勝が見えてくる。
●三浦が世界トップレベルのラストスパート
ラスト1周が別次元だった。
三浦はスタート直後に先頭に立つと、1周68秒弱で正確に刻み続けた。三浦にとっては若干のスローペースだが、他の選手にとってはそこまでスローではない。スローになってラストだけの勝負になると、チームメイトたちの意見も聞き、順大が得点を取るには不利と考えた。「(順大の)他の2選手も乗りやすいペース」でレースを先導したのだ。
しかし今の学生選手は全体的にレベルアップしている。松永伶(法大3年)が4100mで猛烈なスパートを見せた。松永は過去2年間、学生三大駅伝(出雲、全日本、箱根)に出場経験がない。ここまでのペースチェンジをするとは予想できなかった。三浦以下に10m以上の差をつけ会場をどよめかせた。
しかし、三浦は慌てなかった。
「確信があったわけではありませんが、射程距離だと思っていました。ラストのスピード、キレの自信も付けてきていましたし」
三浦は残り1周、4600m地点で切り換えると4750mで松永を逆転。2位に上がったムサンガ・ゴッドフリー(駿河台大1年)に5秒34の差をつける圧巻のスパートだった。
「順大に入って一番伸びたのがスピード、キレの部分です。切り換えるギアの段数も増えて、距離を追うごとに成長、レベルアップしています」
ラスト1周は54秒後半。厳密なデータはないが、おそらくラスト1周の日本選手最速タイムだろう。世界を見たときラストに強い選手は、53秒前後でラスト1周を走っている。だがそれは金メダルを取る選手のタイムで、54秒台でも入賞できる。そして三浦の本職の3000m障害で、ここまでのスパートができる選手がいるかどうか。
順大の長門俊介駅伝監督に、世界に近づいたのでは? と問いかけると「今日の上がり(ラスト)も異常といえるレベルです」と、三浦の予想以上の成長を認めていた。
今季は1500mを日本歴代2位で走り、織田記念の5000mではこの種目の東京五輪代表たちと揉まれるレースに勝ちきり、今大会5000mでは世界レベルのラストスパートを見せた。3000m障害でもゴールデングランプリでラスト1000mのスパートで2位に大差をつけている。
専門外の種目や、多くのレース展開を意図的に経験し、どのレースでも高いレベルの結果を残してきた。6月の日本選手権も、五輪&世界陸上と同じレベルにはならないので、何かテーマを絞って走るのではないか。そして今季の三浦が総合的に付けた力を集中して発揮するのは、7月の世界陸上オレゴンになる。
TEXT by 寺田辰朗
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?