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日本選手権室内2021初日

泉谷&青木、男女60mハードルで日本新!!
泉谷は室内アジア歴代2位で東京五輪決勝に意欲

 トラック&フィールドの今季最初のビッグゲームで、室内日本新が2種目で誕生した。日本選手権室内の初日が3月17日、大阪城ホールで開催され、男女の60mハードルと女子の棒高跳と三段跳の4種目が行われた。男子60mハードルでは泉谷駿介(順大3年)が予選7秒56、決勝で7秒50と室内日本新を連発して快勝。女子60mハードルでは青木益未(七十七銀行)が予選8秒06、決勝8秒05とやはり室内日本新を連発して優勝した。

●泉谷は1台目までの“7歩”が大きく進歩

 昨シーズンは2度の肉離れなど、故障に苦しんだ泉谷駿介が、21年シーズン最初の試合でライバルたちに完勝した。
 予選は7秒56で1組1位。昨年、金井大旺(ミズノ)が出した7秒61の室内日本記録を更新した。同じ1組で2位の金井も7秒56の同タイム(日本記録)をマークしたが、着差があった。金井は昨年、日本選手権優勝など日本選手間で不敗を誇った選手。その金井に初対決で早くも土を付けた。
 決勝では19年世界陸上ドーハ大会で準決勝進出の髙山峻野(ゼンリン)が不正スタートで失格。石川周平(富士通)が7秒57で2位、金井は7秒60で3位と敗れた。金井は「1歩目が浮いて」しまい、スタートでスピードに乗ることができなかった。
 泉谷は「1台目までの“7歩”を予選では少し失敗しましたが、決勝でしっかりできました」と安堵の表情で話した。
「タイム的には7秒4台も狙っていましたから、少し悔しさもあります。もう少し攻められたらよかったのですが、このメンバーで勝てたことはよかったです」
 昨年も7月の東京選手権で“7歩”を試したが、走りにつながらず首をかしげた。
「昨年は地面からの反発をもらいきっていない“7歩”でしたが、今日は地面をしっかり押せて反発をもらい、後半につながった“7歩”でした」
 それが可能になったのは、昨シーズンの反省が大きい。2度も肉離れをするなど故障に苦しめられたが、故障をしないためにハムストリング(大腿裏)と臀部の筋力を鍛えたことが大きかった。技術的にも7歩の外国人選手の映像を繰り返し見て、「前半を押すイメージ」がよくなった。
 泉谷は110 mハードル、走幅跳、三段跳の3種目で日本トップレベルの記録を持つが、五輪参加標準記録(13秒32)突破の可能性が最も高い110 mハードルで代表入りを狙う。19年世界陸上ドーハ大会では髙山が準決勝に進み、決勝進出の可能性を示した種目である。
 泉谷の7秒50はアテネ五輪金メダリストの劉翔(中国)の7秒41に次ぐ室内アジア歴代2位、今季世界4位。泉谷は「五輪が開催されたら決勝に残りたい」と、110 mハードル日本人初の快挙を目標に掲げた。

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●越川部長が語る泉谷の21年版テクニック

 順大で泉谷を指導する越川一紀部長は、「1台目を積極的に入ること、1台目までの7歩を自分のものにすること、インターバルを素早く刻むこと」の3つを課題としていたことを明かした。
「昨年の東京選手権で7歩がうまくいかなかったので、東京五輪までは8歩で行くことに決めました。しかし冬期練習を経て『8歩のリズムがわからない』と泉谷が言い始めたので、それなら7歩だぞ、と迷わせないようにしました」
 レース当日午前中の練習では、少し踏み切り位置が遠かった。そこで越川部長は、何人もの走幅跳トップ選手を育成してきたノウハウを活用した。
「走幅跳は助走開始からの最初の6歩をで地面を押して走りますが、それをスタートから最初の3歩に応用しました。3歩をグングンと少し大きめにスタートし、後半4歩を走れるようにして1台目に飛びかかる。午前中の練習でそれが上手くいきました。予選で3歩目までが軸よりも前についていたので、決勝では少し手前についてさばけるようにしました」
 技術とメンタル面の相乗効果もうまくできた。冬期には30台のミニハードルのハードル間を1m、1m50、1m80、2m00の4種類で、それぞれ5本行う練習も取り入れた。ハードル間を刻むリズムを徹底して習得したのである。
「泉谷はグーングーンと乗る走りは得意ですが、タンタンタンとインターバルを素早く刻む走りができないとハードルでは踏み切り位置が近くなって、身体が上に跳ね上がってしまいます。そこができるようになったことも今日の勝因です。前半で負けていたとしても、余裕を持っていったらいい」
 予選で同タイムながら、金井に先着したことも精神的に優位に立てたという。
「予選で負けた方は決勝で勝とうと、力みが出やすいんです。オマエは勝とうと思わず、リラックスしいて、細かいところを1つ1つやろうとすれば結果が出るから、と送り出しました」
 越川部長は名門・成田高の教員時代にインターハイ総合優勝を飾り、男子ハンマー投の室伏広治(アテネ五輪金メダリスト)、棒高跳の澤野大地(日本記録保持者)、女子走幅跳の花岡麻帆(前日本記録保持者。三段跳日本記録保持者)らの五輪代表の高校時代を指導した。順大に転じてからは走幅跳の菅井洋平と三段跳の山本凌雅を世界陸上代表に育成した。
「この3月で高校、大学での43年間の教員生活が終わりますが、良いプレゼントをしてくれました」
 越川部長の退官後にはなるが、泉谷がもっと大きなプレゼントを贈りそうだ。

●筋力がアップし動きでも進化を見せる青木

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 女子60mハードルでも青木益未が室内日本新を予選、決勝と連発した。8秒05は室内アジア歴代4位。世界的に見ると今季室内世界32位と差は大きいが、アジアのライバルである中国勢とは対等の勝負ができるレベルにある。
「7秒台を出したかったので、少し残念なレースになりました。スタートから1台目まで(の8歩のうち)6、7、8歩と上手く入っていければその後も勢いよく走れるのですが、構えてしまい合わせに行ってしまいました。寺田(明日香・パソナグループ)さんや木村(文子・エディオン)さんを意識しすぎたからだと思います」
 それでも室内日本記録を出した青木の地力は、かなり上がっている。ウエイトトレーニングでは、「クリーンが前年より10kg重い」重量が挙げられるようになり、動きの面では「ハードルに必要な前さばき」が洗練されてきた。7秒台の海外選手の映像も繰り返し見て、1台目までの入りをイメージした。それがあったから、自身の1台目までが失敗に感じられたようだ。
 屋外の100mハードルでは12秒84の五輪参加標準記録を狙っていく。日本記録は寺田の持つ12秒97で、青木も昨年、追い風参考記録ながら12秒87(+2.1m。2.0mまでが公認記録)で走っている。
「標準記録でも世界ランキングでも、どちらの資格でも五輪を狙っていきます」
 右の股関節を痛めて、この日も痛み止めを服用しての出場だったという。
「ケガのわりには今は良い感じです。成功体験を多くして、自信をつけたい」
 五輪代表を目指すライバルが多いが、日本選手間でも過去最高レベルの争いができるようになった。日本記録保持者の寺田も「女子のハードルも男子みたいにレベルアップしてきました。少しずつ世界と戦えるレベルに上がって行ければ」と話していた。
 その寺田も、1月から右大腿裏の臀部に近い部分に痛みがあり、万全な状態ではなかった。予選は8秒16で3組トップ通過を果たしたが、決勝は8秒27で5位。スタートしてすぐに異変を察知し、全力で走らなかった。
 五輪イヤーを迎えての故障に普通なら不安を感じるところだが、寺田は「ピンチだらけの人生でしたから」と、特別なこととは受け止めていない。引退、出産、7人制ラグビー、そして陸上競技復帰と、多くの経験が寺田のメンタル的な強さになっている。
「あきらめる部分も選別しないといけませんが、私にできることを前向きにやっていきます」
 室内競技会は、それぞれの課題を明確にする場でもある。それを屋外シーズンまでにどう修正するか。五輪イヤーの幕が開いた。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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