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前回4区区間賞の細谷を中心に初優勝を狙う黒崎播磨。個々の役割が明確な少数精鋭チームに勢い【ニューイヤー駅伝展望コラム】

 今、最も上り調子にあるチームが黒崎播磨だろう。九州予選を初制覇し、その勢いのままニューイヤー駅伝でも初優勝を狙っている。
 23年最初の全国一決定戦であるニューイヤー駅伝は、前回優勝のHonda、2年前優勝の富士通、戦力充実が著しいトヨタ自動車、九州大会優勝の黒崎播磨が4強と言われている。そこに大迫傑(Nike・31)が“参画”するGMOインターネットグループも加わる勢いだ。
 黒崎播磨は最長区間の4区で前回区間賞&区間新の細谷恭平(27)を中心に、3区で前回区間新(区間4位)の田村友佑(24)、5区区間4位だった土井大輔(26)の3人が主力のチーム。細谷は21年福岡国際マラソン日本人1位で、延期になってしまったがアジア大会代表に選ばれた。田村はスピードが武器でトラック代表を狙う。土井はスタミナ型でマラソンで2時間08分13秒の好記録を持つ。
 3人を前回と同じ区間に起用することを、澁谷明憲監督は早い段階で明かしていた。選手層の厚いチームとは異なる方法で頂点を狙う。

●強烈なエースの自覚を持つ細谷。「4区区間賞を必ず取ります」

 細谷がニューイヤー駅伝の目標を話すとき、躊躇はまったく感じられない。
「(目標は)もう優勝ひとつで群馬に来ました。僕がエース区間でしっかり走り切って区間賞を取らないと、優勝が近づいてこない。エースとして、主将としての走りをしっかりします」
 レース前々日の30日の会見でこう話したが、以前から「チームの目標達成のためには僕が力を出し切って、必ず区間賞を取る」と言い続けていた。
 学生時代はトップレベルとはいえなかったが、黒崎播磨入社後に下記のようにマラソンで大きく成長した。
20年3月 びわ湖120位・2時間28分47秒
21年2月 びわ湖3位・2時間06分35秒
21年12月 福岡国際2位・2時間08分16秒
22年10月 シカゴ6位・2時間08分05秒
 初マラソンこそ失敗したが、2度目のびわ湖で日本歴代6位で走った。3度目の福岡国際は悪天候のためタイムは伸びなかったが、1km2分58秒のハイペース(びわ湖は第2集団の3分00秒)に挑み、日本人トップでアジア大会代表に選ばれた(アジア大会延期に伴い代表解除)。
 そして世界のトップ選手たちが集うシカゴで入賞した。優勝者と3分以上の差があったことや、2分56秒ペースの第1グループにつけなかったことなど課題は残った。それでも澁谷監督は「少しずつステップアップするのが黒崎播磨らしい」と評価した。
 次の目標は明確で「日本記録(2時間04分56秒)を狙う」と、4区の目標と同様に断言する。
 細谷はニューイヤー駅伝では、以下のような戦績を残してきた。
19年:5区区間8位(47分01秒)
20年:4区区間13位(1時間05分14秒)
21年:4区区間4位(1時間04分33秒)
22年:4区区間1位(1時間03分43秒)
 前回の区間記録はハードルが高いが、マラソンでの成長が駅伝にもつながるし、駅伝がマラソンにもつながっている。澁谷監督は今の細谷が置かれている状況を以下のように話した。
「シカゴの6位でわかった課題はスピードや、記録を狙うことなどです。(11月26日の)八王子ロングディスタンスで27分54秒83を出して、弱点だったスピードも上がっています。ニューイヤー駅伝4区で最初からハイペースで突っ込んで区間賞を取れたら、来年のマラソンで日本記録をイメージできる」
 チームの優勝とマラソンの日本記録。細谷にとって4区区間賞は、その2つにつながるのである。

●田村友佑は“区間賞”に、土井は“攻めの走り”に意欲

 田村友佑は前回の3区を、2通りの自己評価をしている。
 22年大会前の3区区間記録は兄の田村和希(住友電工・27)と西山雄介(トヨタ自動車・28)が持っていた37分39秒で、それを破ったことは高く評価している。「兄が3区選手の付き添いをしていて、スタート前に『この風なら区間記録も行けるだろう』と言ってくれたんです。その通りに走ることができたのはうれしかったですね」
 トップのSUBARUと25位でタスキを受けて、15人抜きで10位まで進出した。4区の細谷が2位に上がる布石となる走りだった。
「タスキをもらったとき100m以内に富士通、トヨタ自動車、Hondaと優勝候補チームがいてくれました。良い位置でタスキをもらえたことも、追い上げられた理由です」
 低評価の部分はやはり、区間4位で前に3人の選手がいたこと。富士通とHondaには先着したが、追いついたトヨタ自動車の太田智樹(25)には、4区への中継で15秒も引き離された。区間タイムでも相澤晃(旭化成・25)に12秒、太田に5秒、トップに立った三菱重工・林田洋翔(21)に4秒負けていた。
「区間新を出せたのは追い風が強かったからですし、そこを置いておいても、区間4位と負けたことが悔しかった」
 今回の目標は当然「区間賞」だ。
「前回は主要区間である3、4、5区で区間上位を走ることができ、チームとしても(55年ぶりに)6位に入賞できました。今回自分が区間賞を取って、(主要区間の)他の区間も区間賞を取ったら優勝もあり得ます」
 4区の細谷も連続区間賞を取れば、田村友佑の話すように、黒崎播磨は4区終了時にトップに立つだろう。それを維持する役割が5区の土井に課せられる。前回は区間4位だったが2位から4位に順位を落とした。
「向かい風も強かったですし、後ろから来た選手が力のある選手だったので、守りのレースをしてしまいました。価値のない区間4位でした」
 今回も同じ4区。「(優勝という)チーム目標達成ために攻めの走りをする」と強い気持ちで臨む。
「6、7区が少しでも走りやすい位置で渡すことが重要です。内容あるレースをして、その中でライバルに勝ちきること。それができれば区間順位も上になる」
 11月に10000mで28分19秒48と、0.30秒だが自己記録を更新した。
「八王子も状態が良かったわけではありません。その中での自己新は、(0.30秒更新と)ぎりぎりでしたが自信を持つことができました。絶好調ではないかもしれませんが、調子がどうこう言っていられません。タスキをもらったら仕事をやり遂げます」
 攻めの走りをすることに対して、今回の土井は強気である。

●田村3兄弟末弟の友伸が6区でインパクトのある走りができるか?

 澁谷監督は当初は1区も考えていた田村友伸を、6区に起用してきた。田村友佑の弟で高校卒業後に入社して3年目。九州予選は4区で区間賞を獲得し、新戦力として期待されている選手である。
「兄2人が日本のトップレベルで活躍するのは、うれしい反面、悔しい気持ちもあります。大きなモチベーションになっているのは確かです。兄2人とはまだ力の差がありますが、自分自身がやるべきことに集中して、いずれは勝てるようになりたい」
 この夏には細谷、田村友佑、土井の合宿に同行し、秋に海外レースに挑戦する3人と一緒に練習した。澁谷監督は「ようやく体が変わってきて、質の高い練習に耐えられるようになりました」と成長を認めている。
 5区の土井からトップで受けたタスキを受けたとき、黒崎播磨がその位置をキープできる可能性が出てきた。田村友伸が6区区間賞を取ったときには初優勝も見えてくる。
 アンカー7区の中村優吾(22)は、九州予選の7区の経験が自信になったという。区間賞の大塚祥平(九電工・28。東京五輪マラソン補欠代表)には25秒差をつけられたが、古賀淳紫(安川電機・26)、土方英和(旭化成・25)、井上大仁(三菱重工・29)、今井正人(トヨタ自動車九州・38)という格上の選手ばかりのメンバーで、区間4位と健闘した。優勝テープも切った。
「上には上がいる、と痛感しましたが、自分のリズムで力は出し切ることができました。ニューイヤー駅伝でもしっかり戦えます」
 中村は前回も7区で区間18位だった。順位は1つ落としただけで6位でフィニッシュ。55年ぶり入賞に貢献したが「前回は主要区間の3人で入賞したと思っています。終盤は落ちただけ。積極的な走りをして優勝したい」と、1年前とは違う展開に持ち込むつもりだ。
 そして6区に田村友伸を起用できたのは、1区の小田部真也(23)の調子が上がってきたからだ。九州予選6区区間賞の長倉奨美(23)よりも状態が良く、澁谷監督が起用してきた。前回も1区で区間賞と44秒差の区間28位だった。今季加入したシトニック・キプロノ(21)は、前回大会では2区区間2位だった選手(当時の所属は小森コーポレーション)。30秒以内の差で2区につなげば、1、2区が終了してトップと20秒以内の差で3区の田村友佑につなぐことができるのではないか。
 こうして優勝が狙える区間エントリーができたのは、マラソンで世界を狙う細谷が駅伝でもエース区間の区間賞を取る選手に成長したからだ。田村友佑はスピードを生かせる3区に、土井は持久力やロードの強さを生かせる5区に、それぞれ意識を集中して強化ができた。3人以外の選手も「1人で淡々と走れる」という中村など、自身の特徴に合った区間でのメンバー入りを目標にできた。
 主要区間の選手が欠場するとチーム力は大きく落ちるが、大学のトップ選手を毎年採用できるチーム以外としては、この強化方法と戦い方がベストの方法になる。
「決まり手は1つ。4区でトップに立つことです」(澁谷監督)
 だから選手だけでなくスタッフも含めたチーム全員が、その1点に向かって集中できる。黒崎播磨の強さはそこにある。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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