【東日本実業団駅伝注目チーム③ 富士通】
東京五輪5000m代表2人が4区(坂東)、5区(松枝)に登場
マラソンの五輪代表と日本記録保持者抜きで底力が試される駅伝に
前回優勝の富士通は五輪代表の中村匠吾(29)と日本記録保持者の鈴木健吾(26)、2人のマラソントップ選手を温存したメンバーで臨む。東日本実業団駅伝は11月3日、埼玉県熊谷スポーツ文化公園陸上競技場及び公園内特設周回コース、7区間76.4kmで行われる。マラソン2選手を欠いても富士通は、東京五輪5000m代表だった坂東悠汰(24)が4区、同じく5000m代表だった松枝博輝(28)が5区に出場し、Hondaと並ぶ優勝候補に挙げられる。中村、鈴木を欠く陣容で東日本大会を優勝できれば、チームの底力が上がっていることを意味している。ニューイヤー駅伝2連覇も見えてくる。
●五輪&世界陸上代表経験者が4人
前回優勝の富士通は以下の区間配置で戦う。
1区(13.4km):浦野雄平
2区( 8.4km):ベナード・キメリ
3区(16.8km):塩尻和也
4区( 8.4km):坂東悠汰
5区( 8.4km):松枝博輝
6区( 8.4km):潰滝大記
7区(12.6km):横手 健
メンバーを見るとやはり壮観だ。
1区の浦野雄平(24)は前回も1区で区間賞を取っている。2区のB・キメリ(26)は昨年の世界ハーフマラソン選手権9位の実績があり、自己記録の59分07秒は日本記録を大きく上回る。3区の塩尻和也(24)はリオ五輪3000m障害代表で、箱根駅伝2区の元日本人区間最高記録を持っていた。10000mも27分台のスピードがある。そして4、5区が東京五輪5000m代表の坂東と松枝で、6区の潰滝大記(28)も17年世界陸上3000m障害代表だった。7区のキャプテン横手健(28)も10000m27分台ランナーである。
だが、東日本大会に集中した態勢かといえば、そうではない。
昨年は、前年に予選落ち(6区選手がふくらはぎをレース中に傷めてブレーキ)をしていたこともあり、東日本大会に必勝の気概で臨んだ。それに対し今年は、鈴木がシカゴマラソン出場(&帰国後に2週間の隔離)から間もなく、中村も東京五輪のダメージからの回復が不十分で起用できない。坂東と松枝は昨シーズンも12月の日本選手権に合わせていたが、駅伝を意識した練習も行っていた。それに対して今季は、完全に東京五輪に集中してきた。
そういった事情もあり、高橋健一駅伝監督は当初「3位で通過すれば」という考えも秘めていた。だが、大会が迫るにつれ「このメンバーなら優勝も狙える」と考え始めた。五輪代表2人以外の選手たちに手応えを感じているからだろう。
●9月のレースで腹痛を起こした塩尻も最終チェックで合格点の走り
昨年は最終的にはアンカー勝負になったが、富士通が終始、主導権を握ったレースを展開した。1区の浦野が区間賞を取り、2区のキメリで20秒差の2位に後退したが、3区の中村がGMOインターネットに1秒先着してトップに立った。そして4区の坂東が区間賞と快走し、2位に上がったHondaに35秒差をつけたことが大きかった。
5区でGMOインターネットの追い上げを許し4秒差まで迫られたが、6区の松枝が3秒差でトップをキープし、7区の塩尻がGMOインターネットとの差を26秒に広げてフィニッシュした。
高橋駅伝監督は「去年のようにはいかないかもしれない」と言う。
「キメリの調子の上がり方がいまひとつで、2区で30秒差をつけられることも覚悟しています。それでも3区はトントンで走って、3区終了時に30秒差に着けていてくれれば」
若干の不安があるのは3区の塩尻だ。9月の全日本実業団陸上10000mは腹痛を起こし、30分04秒23もかかっている。2月の全日本実業団ハーフマラソンでも腹痛で、後半大きくペースダウンした。
だが、4月の5000mでは13分22秒80(今季日本3位記録)で走った。10月には10000m記録会で、他のメンバーと一緒に28分50秒前後で走り切ったという。3区は16.8kmと距離は長くなるが、昨年の区間賞タイムは47分41秒なので、10km通過は約28分23秒になる。試合になればペースが自然と上がるのが普通で、記録会の28分50秒で区間賞ペースでも腹痛が起きないことを確認した。
4区の坂東が昨年と同レベルの走りができなくても、4・5区の東京五輪コンビの意地で少しでも前との差をつめたい。
●昨年メンバー入りできなかった潰滝&横手が勝負を決める?
高橋駅伝監督が優勝を口にできるようになったのは、6区の潰滝と7区の横手に手応えを感じているからだろう。
2人は入社6年目の同期(松枝も)。3年目までは2人とも駅伝の主要区間に起用され、横手はニューイヤー駅伝最長区間の4区を2回走り、潰滝も3区や1区のスピード区間を担ってきた。だが富士通が東日本&ニューイヤーの両駅伝で優勝した昨シーズンは、2人とも故障の影響でメンバー入りできなかった。
当然、2人の今季に懸ける思いは強い。
6区の潰滝は昨年メンバー入りできなかったことは、当時の力を考えれば仕方のないこと、と受け止めていた。しかしチームが優勝するシーンを見て「来年はここに加わりたい」(富士通ホームページ)と強く思ったという。
今季は故障もなく継続して走ることができ、「肩甲骨のストレッチを取り入れたことで、腕の振りが変わりスピードが出せるようになった」(同)という。角度のあるカーブが多い周回コースは、3000m障害の経験が生かせると考えている。
横手は昨夏に腰の痛みが大きくなり、検査の結果、骨盤の中の仙骨の骨折が判明した。その後ヒザも悪くして4月に再生医療(PRP療法)を受け、リハビリを経て本格的な練習ができたのは今年の6月だったという。
その後は順調に練習を積むことができ、現在不安なところは感じていない。故障を経て自身の体を見つめ直し、筋肉の使い方も工夫できるようになった。昨年のメンバーと「遜色のない質の高い練習はできています。いつも通り、しっかりと11月3日に合わせた調整、そして徐々に気持ちを高めていけば、面白い勝負ができる」(同)と、東日本大会への意欲を語っている。
豪華メンバーで昨年の両駅伝に優勝した富士通だが、今年カギとなるのは、昨年出場できなかった2人の走りとなりそうだ。
若い選手が成長して勢いが感じられるHondaに対し、富士通の選手たちは東京五輪後は、ひと息ついている状況だ。しかし潰滝や横手ら、年齢的に中堅といえる選手が奮起すれば、チーム力は底上げができ、ニューイヤー駅伝で中村らが加わったときに前回以上の力を出せる。今年の富士通は中堅選手たちの走りにも注目したい。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?