絶対的な強さを見せる廣中を生かす駅伝ができれば、JP日本郵政グループのにもチャンス。カギを握る鈴木の駅伝での復活【クイーンズ駅伝2022プレビュー⑥】
トラックでは日本新記録と五輪入賞、駅伝では中学以来すべて区間賞という強さを見せる廣中璃梨佳(22)を生かす駅伝を、JP日本郵政グループができるかどうか。クイーンズ駅伝in宮城2022(第42回全日本実業団対抗女子駅伝)は11月27日、宮城県松島町をスタートし仙台市弘進ゴムアスリートパーク仙台にフィニッシュする6区間42.195kmで行われる。
前回4位で3連勝を逃した日本郵政のカギを握るのは、東京五輪マラソン代表だった鈴木亜由子(31)だろう。9月のベルリン・マラソンで好走したが、前回1区で区間14位と失敗した駅伝でも、本来の走りを取り戻せば廣中と二枚看板になる。
6番目の選手の力は過去最高だと高橋昌彦監督は言う。鈴木以下の選手全員が調子を上げれば、廣中の爆発力が大きな威力を発揮しそうだ。
●中学以来の連続区間賞を意識しない
廣中のクイーンズ駅伝は入社1、2年目は1区で連続区間賞。昨年初めて3区に出場し、34分24秒で3年連続区間賞を獲得した。新谷仁美(積水化学・34)の持つ区間記録には56秒及ばなかったが、区間歴代2位記録を上回った。10人抜きで12位から2位に浮上する快走だった。
TBSテレビの取材に廣中は「初めての最長区間で緊張しました」と1年前を振り返った。
「タフなレースだでしたが一つ、いい経験になったと思います。自分の中で自信がつきました。長い距離を走りきれたという自信です」
3連勝を逃したことについては「(創業)150周年ということもあり、郵便局の皆さんがたくさん応援しにきてくれた中で3連覇できず、悔しさが大きかったです」と落胆したことを明かした。「でも今の自分たちの力を受け止めることになりました。いい意味で次につながったと思います」
今年の駅伝に対しては「去年の自分たちにカラーがあったように、今年は今年のカラーがあります。去年の自分を超えるような走りをしたい」とコメントした。
そのために廣中個人が期待されるのは、3区であれば自身の前回のタイムを超えること。5区なら昨年五島莉乃(資生堂・25)がマークした区間記録を破ることも可能だと、高橋昌彦監督は期待する。1区であれば自身の区間記録更新ということになる。廣中は単に区間賞を取ればいい、という立場ではなく、区間2位を引き離す役割が期待されているのだ。
その一方で高橋監督は、廣中に大きなプレッシャーをかけたくない、というスタンスで指導している。
廣中自身が持つ1区の区間記録も、そう簡単に破れる記録ではない、ということも指導者として理解を示す。昨年の3区区間賞も、廣中本来の走りではなかったのかもしれない。
区間賞を意識しないで自分の走りに集中することで、廣中の爆走が引き出される可能性は大いにある。
●鈴木がマラソン練習で得た大きな一歩
鈴木亜由子が駅伝で失敗したのは、昨年のクイーンズ駅伝が初めてだった。
「それまでは調子が上がらないなかでも駅伝に合わせて、チームに何かしら良い影響を作ってきました。区間14位は自分としてもショックでした。2区の小坂井(智絵・19)とそのことを直接話したことはないのですが、あの状況でタスキをもらったら、どんな気持ちだったんだろう、と考えました」
それまでの鈴木が、駅伝前に調子が上がらなかったのは純粋にケガの影響だった。だが昨年は、東京五輪の失敗(マラソン19位)が尾を引いていた。
「オリンピックのあと、気持ちをなかなか切り換えられなかったところで駅伝がありました。駅伝があったから前向きになれたところもあったのですが、上手く噛み合いませんでしたね。そうなると体の回復が追いついて来ません。体のつらさを必死で、気持ちでなんとかコントロールして練習していました」
そうした経緯もあり、クイーンズ駅伝後は実家に帰って休養した。当初は1カ月の予定だったが、2カ月になった。「ケガで練習できなかったことはありましたが、今回のように2カ月間練習しなかったことは初めてです」
今年の2月からチーム練習に合流し、4月からは毎月1レースに出場。順調とは言い切れなかったが、徐々に記録を上向かせ、7月には5000mを15分45秒35で走った。7月後半からは高地練習で有名な米国ボルダーでマラソン練習に入った。
当初は故障を怖れて消極性が出ていたが、8月に入って「ガラッと変わりました。脚が気になると言わなくなりました」と高橋監督。「今回はケガをしてもいいじゃない。そんなに練習を抜いて(セーブして)ばかりいたら、ベルリンで目標に届かないよ、と話しました」
鈴木は初マラソンが18年8月の北海道、2回目が19年9月のMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。東京五輪代表3枠のうち2人が決定)、3回目が21年8月の東京五輪だった。全て夏のレースで記録的には望めない大会を走ってきたが、ベルリンは気象条件にも恵まれ、2時間21分台を目標に走ることができた。僅かに届かず2時間22分02秒で8位。
「練習通りでした。最後の調整段階で少し弱気の練習になってしまいました。鍛錬期から調整期をもう少しスムーズに進められたら、もう少しタイムも行けたと思います。しかしこういうレースは夏のマラソンでは経験できないので、今後世界を狙うために記録を縮めるために、今回の練習をベースにできます。そこは大きいですね」
ベルリンは鈴木にとって大きな一歩だったが、そこから2カ月で臨むクイーンズ駅伝は、1、3、5区の主要3区区間のどこかに起用されるだろう。
「(走りたい区間も)ありますが、チームのために任された区間を走ります!」
鈴木の出場区間はチーム全体の底上げ状況や、廣中の爆発力をどの区間で生かすか、によって変わってくる。
●JP日本郵政グループの新たな戦い方
高橋監督は廣中には1区の可能性も、3区の可能性も、そして5区の可能性もあるという。
廣中が1区なら最初から大きくリードしたい布陣で、他に1区を任せられる選手が出てこなかったことになる。その場合は鈴木が3区で、鈴木と共に来年秋のMGC出場資格を持つ太田琴菜(27)と大西ひかり(22)が5区候補だろう。
高橋監督が「今年は2区、4区じゃない」という小坂井が、3区を任せられるほど成長していれば、資生堂や積水化学に良い勝負を挑める。
廣中が5区なら1、3区を任せられる選手が現れたことを意味するが、多少、一か八か的な要素も含まれる。その場合も、鈴木の復調と小坂井の成長が著しければ、前半を好位置に付けて5区でかなりの追い上げが期待できる。
そして廣中3区ならオーソドックスな布陣で、1区が小坂井、5区が鈴木だろう。
3回クイーンズ駅伝に優勝したJP日本郵政グループは、エース級の選手の力が大きかった。16年大会が鈴木、関根花観、鍋島莉奈(現積水化学・28)と、五輪と世界陸上代表が3人いた(鍋島は駅伝優勝後に代表入り)。19年大会は1区の廣中が大きくリードし、3区の鈴木が差を広げた。20年大会は1区の廣中でリードし、3区の鍋島が新谷に逆転されたが、5区の鈴木で再逆転した。
だが今年、日本郵政が勝つとしたら別パターンになる可能性がある。
「(創部後)9年間の合宿で一番面白い合宿になっています」と高橋監督。
「今までは6人目の選手の力が落ちて、あと1人足りないんだけど、という状況で戦ってきました。今年はそれがないんです。新しい力が出てきていて、メンバー争いも混戦です。少し厳しいと思っていた選手が、ガラッと変わってきました」
代表経験選手2人以外が活躍し、その結果として廣中の走りが生きる。あるいは代表経験のある2人以外に、主要区間の区間賞選手が現れる。JP日本郵政グループが新しい戦い方ができたとき、優勝争いに加わることができる。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?