【織田記念② 金井大旺インタビュー】
男子110mハードルで世界レベルの日本記録を樹立した金井
翌日のインタビューで話した技術的な成長とは?
織田幹雄記念国際男子110mハードルで13秒16(+1.7)の日本新、今季世界3位の快走見せた金井大旺(ミズノ)が、レース翌日にオンラインでの取材に対応した。1時間弱のインタビューの中から、インターバルの走りも含めたハードル技術がどう進歩してきたのか、ピーキングなど東京五輪までのプランに関する部分を抜粋して紹介する。
●「スタートで遅れてもいいや、くらいの気持ちで臨みました」
――13秒16のレースについて。
金井 昨日は予選ではスタートが上手く行かず、スピードに乗れませんでした。決勝はスタートも上手くでき予想以上のタイムが出て、自分でもビックリしましたね。ただ、昨日の記録は追い風に乗って走れた結果です。このタイムをコンスタントに出さないといけません。
――スタートが上手くできた理由と、何度かとられたことがある不正スタート対策は?
金井 練習でも意識して(不正スタートとならないように)腰を動かさないなど、対策をしてきました。そして今回は、気持ちの持ち方を変えました。スタートで差をつけよう、ではなく、遅れてもいいや、くらいの気持ちで臨み、それでもある程度は速く出られると気づくことができました。
――ライバルの存在がパフォーマンスに与えた影響は?
金井 国内でも力の拮抗した状態で戦っていることはプラスになっています。今回の決勝も(泉谷駿介・順大や石川周平・富士通がいて)すごく緊張感をもってスタートラインに立ちました。日本のレベルが上がっているので、日本で勝つことが国際大会で戦うこと、オリンピックで活躍することにつながります。
●「脚(ヒザ)を伸ばさず曲げたまま、次の脚にもっていく技術を獲得して、ある程度は形になってできています」
――ウエイトトレーニングでスプリント能力が上がったということですが、スプリント能力が上がるとインターバルを刻む課題が出てくると思います。昨日の強い追い風の中で刻む技術をどう身につけたのでしょう?
金井 単純なスプリント、スピード自体は上がっていませんが、インターバルの走り方が、接地してすぐ次の脚、次の脚と、1歩1歩、合計4歩がスムーズに走れるようになりました。技術的にも切り返しをしっかり意識してずっとやって来たことが生かされています。ハードリングにも取り組んできて、踏み切りから着地までの技術も良くなっています。着地が良くなればインターバルランにもつながって上手く走れて、また踏み切りも良くなる。一連の動作として好循環になります。
――インターバルの走りを速くするために、ハムストリングを無理矢理使うとスピードに乗らないという話を以前されていましたが、どこを意識することでスピードに乗るようになりますか?
金井 ハードルを越えて1歩目から、抜き脚を着地させる2歩目をできる限り速く着地させ、2歩目を着地させたら1歩目の脚(リード脚)がもう前に来る、という技術を今回はより強化できました。そのために脚(ヒザ)を伸ばさず曲げたまま、次の脚にもっていく技術を獲得して、ある程度は形になってできています。そこの練習を反復してやって来ました。
――肩甲骨と下半身の動きの連動性ということも話していましたが、インターバルの走りにもリンクしていますか。
金井 インターバルだけでなく、通常の走りでも、肩甲骨を使って上半身の勢いを推進力に変換できます。それを使うとハードルを走るときにもハムストリングへの負担を減らすことができ、今回のように後半の失速率を抑えられます。
●「トレーニング期を増やして、ピーキングを日本選手権と東京五輪に合わせていきます」
――13秒1台をコンスタントに出すためにやっていくトレーニングは明確になっていますか。
金井 これまでやってきたことの継続が必要です。それに加えて、今回、今まで以上のスピードの中でハードルを越えるレースになったことで、オーバースピードでのハードル練習の必要性を感じました。そこの技術も重点的に強化していきたいと思っています。
――東京五輪の標準記録を破ったことで、試合の組み方やトレーニングのやり方、進め方に変更がありそうですか。
金井 ある程度早い時期に切ることができたので、ここからは(最重要選考会の)日本選手権とオリンピックに向けて準備できます。トレーニング期を増やして、ピーキングを日本選手権と東京五輪に合わせていきます。試合はまだ決めていませんが、ピーキングの観点で選択して、調子を1本1本上げていきたいです。
――東京五輪に向けてピーキングをどうやっていきますか。
金井 何年もやって来た中で、トレーニングと試合の組み方や割合がわかってきました。どういう練習をすれば、どういう体になっていくか。方程式じゃないですけど、そういう部分がわかっています。今は自分の体で感じていること、そこからトレーニングで何をやっていくべきかを感じ取って、それを信じてやっていきます。
――予選を通ることに対しても、13秒1台を持っていると余裕が出るでしょうか。
金井 予選を楽に突破することは、準決勝にピークを持っていくことにプラスになります。その点でも13秒1台を持っていることは自信になります。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト