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【木南記念2022レビュー①黒川和樹】

ヨンパーの黒川が48秒90、世界陸上オレゴン標準記録突破
今季苦しんでいた超前半型ハードラーが復調

日本グランプリシリーズの木南記念が4月30日、5月1日の両日、大阪ヤンマースタジアム長居で行われた。男子400mハードルでは黒川和樹(法大3年)が48秒90で優勝。世界陸上参加標準記録をどんぴしゃり同じタイムでクリアした。世界陸上で2度銅メダルを取った法大の先輩、為末大と同じように攻撃的な前半のスピードが特徴で、昨年はREADY STEADY TOKYO48秒68、日本選手権48秒69と世界レベルの記録を連発。しかし東京五輪は良いところがなく50秒30で予選落ちした。昨秋の日本インカレは同じ学生の山内大夢(東邦銀行←早大)に敗れ、今年のシーズンイン後も49秒前後のタイムを出せずに木南記念を迎えていた。

●予選では手応えなしも決勝当日の朝に一転

初日の予選は2組1位で通過したがタイムは49秒74。もちろん全力ではないが、黒川にとって納得のいく走りではなかった。
 昨年の日本選手権では5台目の通過が20秒8で、為末が01年の世界陸上エドモントン大会で銅メダルを取ったときと同じだった。黒川本人もそこを自身の武器として研いてきた。だが今季は4月の東京六大学(50秒32)も、日本学生個人選手権(49秒40)も、昨年の48秒台とは同じ感覚で走ることができていなかった。木南記念の予選後にはテンションも落ちた様子で次のように話した。
「前半行っているんですけど、前半を意識すればするほど力みに変わっているんです。感じではスピードを出しているのですが、実際にはそこまで出ていなくて、しかし前半で力を使っているから後半耐えきれなくなる。東京五輪もそうだったのかもしれません。その後も前半を意識すると走れなくて。READY STEADY TOKYOのときは(重心に)乗せるだけで弾んで、後半も(感覚的には)上げられたんです」
 しかし木南記念最終日の決勝は一転、48秒90と10カ月半ぶりに48秒台を出した。「朝起きたときにスッキリした体調で、これはイケる」と感じていたという。
 木南記念は2日間で開催される、グランプリシリーズでは数少ない大会だ。男女400 mと男子400mハードルは初日に予選が、最終日に決勝が行われる唯一のグランプリ大会だ。黒川にとってはそれが幸いした。

●5台目の通過タイムと6台目までの区間タイム、そして7台目以降

木南記念決勝の5台目通過は20秒9(筆者計測)。昨年の日本選手権より0.1秒遅いが、風などの影響で変わる範囲の違いである。ほぼ同じタイムで通過したと言っていい。
「前半を出すには出しましたが、力まず、リラックスして、リズム良く走れていました」
 その結果、6台目以降のスピードが東京六大学や日本学生個人選手権よりも上がった。
「13歩から14歩に切り換える6台目が、去年の48秒台のレースはスムーズに行けていましたが、今年は一度落としてもう一度上げる走りになっていました。今日は(実際にはタイムは落ちるが感覚的には)6台目も上げていって、7台目以降も耐える形で走り続けられました」
 東京六大学と日本学生個人選手権のデータがないので比較ができないが、5~6台目間のタイムは昨年の日本選手権が4秒2、木南記念では4秒1だった。黒川が言った48秒のときの6台目と同じパフォーマンスができたと見ていい。
 各区間のタイムは昨年の日本選手権の方が若干高いが、木南記念は7台目以降の減速幅がわずかだが小さい。これも風の影響で変わる範囲の差なので断定はできないが、後半は木南記念が一番良かった可能性はある。
 データ的にはそこまで大きな違いはなかったのかもしれないが、心理面を考えると違いは明らかに大きかった。
「去年の48秒台はそこまで意気込まず、“出せてしまった”記録でした。それに対して今回は、“出したい”と思って出すことができた。そこはよかったと思います」
 黒川が1つの壁を乗り越えた大会になったのではないか。

●冬期の前半に特化した練習から

冬期練習の成果としては、ベンチプレスで挙げられる重量が95㎏から100㎏になった。「オリンピックが終わってから課題としていた部分で、そこの筋肉が付けば腕振りがよくなってリズムが取りやすくなる」という狙いで取り組んだ。
 これは昨秋だが110 mHでも13秒69と、日本トップクラスに迫るタイムを出し、60mHでは日本室内選手権のB決勝でトップを取った。法大には為末が行った練習のデータも残っている。
「前半に特化した(為末も行った)メニューも行いました。通過タイムとしては出せるのですが、力みがあって、残り200 mを走り切れるか、というと無理かな、と感じていました。シーズンに入ってから力みをリラックスに修正してきて、やっと今日上手くできました」
 それでもまだ、「走りに噛み合っていない部分がある」という。練習中の(ハードルを置かない)スプリント練習では、1年前より良いタイムが出ているのだ。そこも噛み合ってくれば、前半がもっと楽にスピードを出せる可能性がある。
「結果として(日本人3人目の)47秒台も出ると思います。しっかり練習して、いつ47秒台が出てもいい状態を作りたい」
 予選終了から1日で、黒川の手応えが格段に良くなった。それが陸上競技の面白さだろう。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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