【全日本実業団山口ハーフマラソン2021展望③・女子若手3選手・小笠原朱里・原田紋里・大西ひかり】
優勝争いに加わりそうな小笠原、原田、大西
東京五輪後を担う若手トリオの特徴とは?
全日本実業団ハーフマラソンが2月14日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで行われる。女子の有力選手は前回の記事で紹介したように、
<1>トラックで東京五輪代表を狙う選手
<2>3月のマラソンにつなげたい選手
<3>ポスト東京五輪を担う若手選手
の3つのカテゴリーに分けられる。
<1>が安藤友香(ワコール・26)、筒井咲帆(ヤマダホールディングス・25)らで、10000mで31分30秒台のスピードがあり、ハーフマラソンでも経験がある。優勝候補筆頭と見られているグループだ。
<2>が小原怜(天満屋・30)や伊藤舞(大塚製薬・36)たちで、小原はトラックで、伊藤はマラソンで日本代表経験がある。
<3>にあたるのが今回紹介する小笠原朱里(デンソー・20)、原田紋里(第一生命グループ・22)、大西ひかり(JP日本郵政グループ・20)らの若手選手たちだ。3人はどういった特徴をもち、どんな成長過程を経て今回のハーフマラソンに臨むのだろうか。
●スーパー高校生が実業団で確実な成長
小笠原朱里を紹介するとき、高校2年時の活躍は外せない。
日本選手権5000mで3位。世界陸上ロンドン大会の代表となった鍋島莉奈(JP日本郵政グループ・27)、鈴木亜由子(同・29)に続き3位に食い込んだのだ。タイムは15分23秒56の高校歴代2位、高校2年最高記録だった。
同年の国体少年A3000mでは、東京五輪5000m代表の田中希実(豊田自動織機TC・21)や、クイーンズ駅伝1区2年連続区間賞の廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ・20)と互角の勝負を演じていた。
だが3年時には15分49秒60、デンソー入社1年目の19年も15分52秒24とタイムは下降していった。高校で頑張りすぎた選手が低迷する典型的なパターンと思われた。それでも1年目のクイーンズ駅伝ではエース区間の3区(10.9km)を任されて区間12位で走っている。
入社2年目の20年は5000mこそ15分45秒72にとどまったが、10000mで32分10秒69の自己新。クイーンズ駅伝5区(10.0km)は鈴木に次いで区間2位と好走した。そして12月の山陽女子ロードで初ハーフを経験。1時間10分25秒で5位(日本人3位)だったが、安藤や前田穂南(天満屋・24)のいる集団を積極的に引っ張る走りが高く評価された。
2年間の低迷から復調できたプロセスを、松元利弘監督は以下のように話す。
「入社1年目は記録は狙わず基礎から作り直すことにしました。将来性のある選手ですから急がず、2~3年後に日本のトップに成長することを想定して、じっくり取り組みましたね。1年目の終わりから少し力を出し始めて、高校の頃のスピードは出せませんが、スタミナはつき始めました。2年目にはスピード練習も取り入れ始めましたし、心の変化もあって、プラスアルファの練習を自らやり始めました」
今年のトラックシーズンには31分25秒の五輪標準記録にもチャレンジしていくが、「周りのレベルも高いので、無理はしない」という。本当に狙うのはパリ五輪だ。だからこそ、今回のハーフマラソンでも失敗を怖れず積極的に走ることができる。
「戦えないメンバーではありません。目標は1時間09分00秒ですが、優勝も頭に入れて走るつもりです」
日本選手権の快走から3年。小笠原が再び、周囲を驚かす快走をするかもしれない。
●原田は実業団ハーフで成長する第一生命パターン
12月の山陽女子ロードでは、原田紋里の走りもちょっとしたサプライズだった。小笠原と同様に初ハーフだったが、1時間10分21秒で4位(日本人2位)。第2集団のトップをとり、15kmでは39秒差があった一山麻緒(ワコール・23)を4秒差まで追い込んだ。
2度目のハーフマラソンは当然、1回目以上を期待できる。第一生命グループと全日本実業団ハーフマラソンは相性がよく、過去4回、優勝または日本人1位を占めているのだ。12年と14年に優勝した田中智美はリオ五輪代表になり、09年世界陸上ベルリン銀メダルの尾崎好美も日本人1位になったことがある。
原田は高校時代、2年時に全国高校駅伝に出場しているが、個人種目では全国大会まで駒を進められなかった選手。第一生命グループに入社して1年目からクイーンズ駅伝メンバーには選ばれたが、距離の短い2区(3.9km)しか任されてこなかった。
だが、競技に取り組む姿勢に伸びる素養があったと山下佐知子監督は言う。
「上半身と下半身がバラバラになる傾向があったので、外部のトレーナーをつけて体幹トレーニングを指導してもらったのですが、誰よりも時間をかけて習得しようとしていました。練習前の動的ストレッチも、丁寧に取り組んでいます」
高校では全国レベルでなくとも、地道に、丁寧に練習を継続することで強くなる。尾崎と田中の2人もそうやって五輪代表に成長した。練習姿勢に共通するものがある原田が、2人と同じように全日本実業団ハーフマラソンで快走すれば、第一生命パターンで成長していく。
ただ、そこを意識しすぎるとプレッシャーもかかる。原田本人は1時間9分台を目標としているが、山下監督は「もう一度1時間10分台を」と、堅実な成長をさせたいようだ。
山口のコースは3~5kmに上りがあり、最初の5kmは16分40秒台後半から50秒台と速くならないことが多い。1時間9分台は中盤以降のペースアップがカギを握る。原田がそこでどう対応できれば、1時間9分台も期待できるのではないか。
●大舞台に強さを発揮する大西
大西ひかりへの期待が大きい。高橋昌彦監督はその理由を次のように話している。
「この選手は将来的にはマラソンなんだろうな、と感じています。スピードはありませんが気持ちの浮き沈みがなく、こつこつ積み上げて確実に階段を上がっていく。人からのアドバイスをしっかり理解できるので、良いと思ったことは取り入れて、自分の行動を変えることができる選手です」
小笠原ほどではなかったが、高校時代から全国レベルで活躍し、インターハイ1500mと国体少年A3000mでは9位と入賞に迫った。全国都道府県対抗女子駅伝では区間賞を獲得し、クロスカントリーの日本代表にも選ばれている。JP日本郵政グループには鈴木亜由子と鍋島莉奈、廣中璃梨佳らトラックの日本選手権1~2位の選手が揃っている。一緒に練習すると、スピードがないということになるのだろう。
昨年12月の日本選手権10000mでは32分10秒56の自己新をマークし、13位と健闘した。同学年の小笠原に0.13秒先着した。
メンタル面で大舞台に強いことも、大西の武器となっている。入社1年目(19年)のクイーンズ駅伝は鍋島が故障で欠場したこともあり、いきなり5区(10.0km)に抜擢された。当時の大西は10000mを走ったことがなく、5000mも16分19秒98が自己記録だった。トラックの実績では「5区の中でも下の方」(高橋監督)というポジションだったが、区間4位の走りでチームの優勝に貢献した。トップでタスキを受け取っても臆することなく、自身の力を発揮した。
昨年夏の取材で大西は、1年目の5区抜擢を次のように振り返った。
「5区と言われたときは驚きましたが、任された区間で自分の走りをするのが駅伝です。緊張したり、『やらないと』という気持ちが強すぎたりすると構えてしまいます。私はチャレンジャーでしたから、気持ち的にはのびのび走ればいいと思っていました」
高橋監督は今回の初ハーフでも、「気負わずに走ってくれれば」と考えている。「1カ月くらいハーフに向けた練習をしますが、こういうことを3カ月続けられればマラソンも走れると実感してほしい」
1時間10分台を目標に設定しているのも、余分なストレスを与えないためだろう。
10000mの記録で勝る安藤や筒井が、1時間8分台ペースで走ることも予想される。そのペースに“構えず”に乗って走れたとき、大西が優勝争いのダークホースになる。
TEXT by 寺田辰朗 写真提供:フォート・キシモト
14日(日)午後2時 TBS 系列
全日本実業団山口ハーフマラソン2021
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